第26話【覚悟を決めたのは、Fランクの風使い】
ヒドラ級硼岩棄晶に遭遇した翔星達は、
データの分析と咄嗟の機転によって辛くも駆除に成功した。
「おわっと!?」
「大丈夫か?」
河原で常人より高く跳び上がった祐路がバランスを崩して腰から落ち、斑辺恵が慌てて駆け寄る。
「やっぱりブラスター滑空術は性に合わないな」
「自分も苦手なんだ、翔星がいれば心強いんだけど」
腰をさすった祐路が手にしたRガンを眺め、斑辺恵は静かに首を横に振った。
「教本に無い以上は仕方ないよ」
「力になれなくて済まない」
「訓練を怠ってたオレが原因だ、斑辺恵は悪くないよ」
軽いため息と共にLバングルを起動した祐路は、力無く頭を下げる斑辺恵に愛想笑いを返す。
「祐路は大事な仲間だ、とことんまで手伝うよ」
「ありがとよ、まずは斑辺恵の風を真似てみるか」
真剣な表情で斑辺恵が頷き、Rガンをホルスターに戻した祐路は下に向けた手のひらに水を出し始めた。
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「駄目だ……跳び上がるには力が足りない」
「この方法は属性が大きく関係して来るのか?」
手のひらから何度も水を出した祐路が手応えを得られずため息をつき、斑辺恵も自分の手のひらを見ながら首を傾げる。
「そういやピンゾロはどうやって跳んでたんだ?」
「前にも少し話したけど怪力で直接ジャンプだ、参考のしようが無い」
「確かにそうだな。やっぱり、水力を推力に変えるしかないか」
気分転換とばかりに話題を変えた祐路は、静かに首を横に振った斑辺恵に複雑な笑みを返す。
「糸に使うイメージで水を出してみたらどうだい?」
「ちょっとやってみるよ」
しばし考えた斑辺恵が別の方法を提案し、軽く頷いた祐路は伸ばした人差し指と中指の間に水を流し始めた。
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「これも駄目か……圧縮した水だけなら飛ぶけど、オレを持ち上げる力が無い」
「異能者の跳び方も色々あるし、祐路と相性のいい方法も見付かるよ」
何度も地面を穿った跡を眺めた祐路がため息をつき、斑辺恵はLバングルに映し出した一覧表を眺める。
「人間には羽が無いから、大変だね~」
「焔巳さんはともかくテツラにも無いだろ」
「アタシのテイルは熊だもの」
練習を眺めていたテツラは、呆れ気味に首を振る祐路に駆け寄り抱き着いた。
「だから抱き着くなよ~」
「固い事言うなよ、飛びたい時は手を貸してやるからさ」
「と言う事は、テツラさんも空中戦が出来るんですか?」
じゃれ合うような祐路とテツラのやり取りを眺めていた斑辺恵は、湧き上がった疑問をそのまま口にする。
「もちろん出来るぜ。ウィアトラップ、フライトモード! ってね」
「ウィアトラップにはこんな使い方もあるのか」
悪戯じみた笑みを返したテツラが腰から外した簗状の機器に飛び乗り、斑辺恵は静かに感心して頷いた。
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「よっと……まあ、こんなもんだ」
「お帰り、こんな事が出来たんだな」
「そりゃまあ、聞かれなかったからな。硼岩棄晶相手に使う機会も無かったし」
しばらくして着地したテツラは、複雑な顔で出迎えた祐路に曖昧な笑みを返す。
「確かにそうか。こっちに来てからは、河原で駆除してたからな」
「祐路は、本部で訓練してた時はどうしてたんだい?」
周囲を見回した祐路が頭を掻き、斑辺恵は新たな糸口を見出して聞き返した。
「こいつを木や建物に巻き付けてたんだ」
「なるほど。向こう岸はともかく、こっちでは使えないね」
「だからと言って見晴らしを悪くしたら本末転倒だ……っと、いけね」
輪にした釣り糸を取り出した祐路は、複雑な表情を浮かべる斑辺恵に頷きながら上空に伸ばした釣り糸を慌てて引き戻す。
「糸を飛ばしてどうすんだよ」
「以前の癖が出ちまった……ん?」
呆れるテツラに愛想笑いを返した祐路は、手繰り寄せた釣り糸を見詰める。
「何かを掴んだのかい?」
「まだぼんやりとしてるけど、これなら行けそうだ」
変化を察した斑辺恵が聞き返し、釣り糸を巻き取った祐路は力強く頷いた。
「斑辺恵様、硼岩棄晶です」
「分かった、焔巳さん。とりあえず訓練は中断しよう」
「斑辺恵は先に行ってくれ、あと少しで跳べそうなんだ」
見回りから戻って来た焔巳に大きく手を振って返した斑辺恵がRガンを抜くが、祐路は手のひらを向けて曖昧な笑みを浮かべる。
「分かった、でも待たないよ」
「ああ、すぐに追い付いて見せる」
「頼りにしてる。風よ!」
静かに頷いて懐を指差した斑辺恵は、親指を立てて自信に満ちた笑顔を浮かべた祐路に再度頷いてから足元に風を放って跳び立った。
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『『アォーン!』』
「今回はハウンド級が5体か」
「斑辺恵様、いかがしますか?」
対岸に立つ犬のような硼岩棄晶を斑辺恵が確認し、ガジェットテイルを起動して裾丈の短い着物姿になった焔巳が前に出る。
「祐路には悪いけど、速攻で片付ける!」
「かしこまりました。柩連炎刃起動、攻撃開始」
肩をすくめた斑辺恵がRガンを構え、両手に1枚ずつ円盤を構えた焔巳は無数の火花の針をハウンド級の群れに向けて放った。
『『アォー!』』
「なっ!?」
「この動き、もしや変異体では!?」
5体全てのハウンド級が後方へと跳んで火花の針を躱し、斑辺恵と焔巳は同時に驚愕の声を上げる。
「いつ、ハウンド級にデータを取られたんだ?」
「交戦記録は、こちらに転移した初日のみです」
「まさか、ここまで根に持つタイプだったとはね」
前方を警戒しつつ過去の記憶を辿った斑辺恵は、手のひらに立体映像を浮かべた焔巳に冗談めかして肩をすくめた。
「変異体には、過去に使用した事の無い攻撃が有効という記録があります」
「なら、パームブラストでどうだ!」
映像を切り替えた焔巳に頷いた斑辺恵は、手のひらから空気弾を放つ。
『『アォッ、アォッ!』』
「そんな!? まさかハウンド級以外のデータを引き継いでるのか?」
「この情報は電子天女に転送しますね」
予想に反して空気弾を躱すハウンド級に驚愕した斑辺恵が即座に正体を推測し、焔巳は空を見上げて電子天女にアクセスする。
「そっちは頼む、僕はここを乗り切る方法を考える」
「待たせたな! ここはオレに任せろ!」
「祐路! でもどうやって?」
懐に手を入れて焔巳の前に出た斑辺恵は、不意に上から聞こえて来た祐路の声に驚きの声を返した。
「飛ばした水滴になら、一瞬だけ糸を絡める余裕が出来る」
「随分と滅茶苦茶な理屈だね」
空から降って来た祐路が水を纏わせた釣り糸を伸ばして上昇し、斑辺恵は複雑な笑みを浮かべた。
「異能力は想像力を活かしたもん勝ちなんだよ。そこだ!」
『『アォァッ!?』』
落下しながら釣り糸を手元へと戻した祐路が地面に向けて釣り糸を伸ばし、2体並んだハウンド級の首に巻き付ける。
「食らえ!」
『『ギャィンッ!?』』
着地した祐路が水を纏って張った釣り糸を指で弾き、撥ねて刃となった水飛沫にコアを切断されたハウンド級が断末魔の声を上げた。
「これで残りは……」
「アタシに任せな! アクアデトネイター、シュート!」
『『アォーンッ!?』』
釣り糸を巻き取った祐路の背後からテツラが水弾を放ち、最も距離を取っていた2体のハウンド級が破裂する。
「スティングクロー、セット! アタック!」
『ギャォンッ!?』
力強く地を蹴って跳び上がったテツラが右腕に装着した鉤爪手甲を打ち下ろし、コアを刺し砕かれた最後のハウンド級は悲鳴を上げて崩れ去った。
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「ありがとな、テツラ……オレの覚悟は何だったんだよ」
「そう言うなよ、祐路。最高にカッコよかったぜ」
周囲の安全を確認した祐路が曖昧な表情を返し、テツラは気に留める様子も無く強引に肩を抱き寄せる。
「テツラさんの言う通りだ。祐路が来てくれなかったら、変異体に苦戦してたよ」
「そっか、テツラのデータを持ってる可能性もあったんだよな」
真剣な表情で斑辺恵が頷き、祐路は背にテツラが貼り付いたまま頷きを返した。
「種類を変えた変異体の投入、こいつは厄介な相手になりそうだぜ」
「いよいよ本格的な戦いにでもなるのかなぁ」
勢い良く腕を組んだテツラが不敵な笑みを浮かべ、腕組みに巻き込まれた祐路は背中の柔らかな感触を意識しないよう平静を装いながらため息をつく。
「斑辺恵様も、そろそろよろしいのではないでしょうか?」
「覚悟は決めた、僕も自分の異能力と向き合うよ」
2人の様子を眺めていた焔巳が含みを持たせた微笑みを浮かべ、斑辺恵は自分の右手を眺めながら頷いた。




