第22話【幸せ者に会ったのは、Fランクの闇使い】
改良したRガンの試し撃ちを終えた翔星は、
横からサイカに獲物を奪われた。
「貴官の生存に感謝する」
「こっちこそ感謝するよ、でも何でリザード級の位置が分かったんだ?」
「バイザーの機能を電子天女に再現してもらった」
護衛対象を視認して微笑んだサイカは、曖昧な表情で頭を掻いた翔星に髪留めを指差して見せる。
「なるほど、分かりやすい話で」
「それだけサイカさんも成長してるんだよ」
頭を掻く手を止めた翔星が大袈裟に肩をすくめ、夏櫛と共に合流した礼真が目を細めて微笑んだ。
「随分と余裕だな、これも年季の差か?」
「かもしれませんね、ワタシは礼真様が幼い頃よりお仕えしてますので」
からかうように翔星が軽口を返し、夏櫛は否定する事無く微笑む。
「異能力に目覚める前から輝士がいたのか?」
「はい、礼真様は生まれながらに異能力の覚醒が約束されてましたから」
返って来た言葉に違和感を覚えた翔星が慎重に聞き返し、胸に手を当てて頷いた夏櫛は誇らしそうに笑みを返す。
「生まれつき?……まさか!?」
「僕の親父は若い頃、異能者として硼岩棄晶を駆除してたんだ」
しばらく俯いて考えた翔星が大声を上げ、礼真は力強く頷きを返した。
「それは本当か!? 礼真は異能輝士隊に入る前はどこに住んでたんだ?」
「落ち着けよ、翔星。別に隠してた訳じゃ無いんだし」
燻っていた火種が再燃したかのように翔星が興奮気味に迫り、礼真は手のひらを向けて制止する。
「っと、すまん。差支えなければ、教えてくれないか?」
「そうだねぇ、何て説明したらいいかな?」
我に返った翔星が気まずそうに頭を掻き、礼真は顎に手を当てて首を捻る。
「翔星さんは、ゼロ番街という言葉を聞いた事はありませんか?」
「噂程度には。普通と違って番号の最初にゼロが付く、裏の結界街だったかな?」
考え込む礼真に代わって夏櫛が切り出し、翔星は言葉を慎重に選んで返した。
「裏の結界街か、確かにそうなるよね」
「まさか……噂は本当だったのか?」
静かに頷いた礼真が複雑な表情を浮かべ、翔星は言葉を詰まらせて聞き返す。
「はい、ゼロ番街は実在する結界街の名称です」
「詳しい話は帰ってからにしよう」
全く落ち着いた様子でお辞儀した夏櫛に続いて礼真が真剣な表情で頷きを返し、一行は結界街へと戻って行った。
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「お待たせ、どこから話そうか?」
「俺が知りたかったのは異能輝士隊を引退した異能者の行方、それだけだ」
定期報告を終えた礼真が食堂へと入り、既に椅子に腰掛けていた翔星は要約した質問を返す。
「異能輝士隊は異能者の生活を生涯保障する、と規則にある」
「そこが引っ掛かるんだよ。俺の住んでた街には、俺以外の異能者がいなかった」
「当然だよ。異能輝士隊を引退したら、ゼロ番街に移り住むんだから」
手のひらに立体映像を出した読み上げるサイカに翔星が静かに首を振り、礼真は小さく肩をすくめて種明かしをする。
「他の結界街に行く事は無かったのか?」
「大抵は住んでる街で事足りるし、行くとしても別のゼロ番街だよ」
「確かにそうか、俺も住んでた街から出た事は少なかったな」
至極単純な疑問を口にした翔星は、曖昧な笑みを返す礼真に納得して頷いた。
「でも何で翔星は、そんな事を気にしてたんだい?」
「異能力に目覚めた時に、引退した異能者がいないか探した事があったんだ」
しばし考えた礼真が首を傾げて聞き返し、上を向いた翔星は誤魔化すように頭を掻く。
「なるほど、異能力が疑問のきっかけだったのか」
「異能輝士隊に入る前に、少しでも予習したかったんだ」
腕組みをした礼真が深々と頷き、翔星は観念したかのように肩をすくめた。
「いや、待てよ? すぐ本部に案内されたんじゃなかったのか?」
「闇の針を作る程度だから誰も気付かなかったし、相談出来る相手もいなかった」
腕組みを解いた礼真が顎に手を当てて考え込み、翔星は遠い目で窓を見詰める。
「翔星って意外と繊細なんだね」
「抜かせ。埒が明かなかったから、自力で調べて本部に連絡取ったんだよ」
吹き出すのを堪えた礼真が誤魔化すように微笑み、不機嫌そうに首を横に振った翔星は電話を掛ける仕草を交えて当時の出来事を説明する。
「確かに電子天女にも、そのような記録がありますね」
「後は民間の転送装置で本部に乗り込んだ、って訳だ」
手のひらに立体映像を浮かべた夏櫛が微笑み、翔星は投げやりに締め括った。
「そういうケースもあるのか」
「はい、この件も異能力覚醒者保護マニュアルに取り入れて修正済みです」
話を聞き終えた礼真が深々と頷き、夏櫛は手のひらの立体映像を切り替える。
「悪い、そこまで大事になってるとは思わなかった」
「通常街で異能力に覚醒するのは、常に不測の事態と隣り合わせですから」
ばつが悪そうに翔星が俯き、立体映像を閉じた夏櫛は事も無げに微笑んだ。
「2人はゼロ番街の出身って言ってたよな? どんな所なんだい?」
「普通の街だよ。異能者だけが住んでる以外は、他の街と違いは無いかな」
気を取り直した翔星が聞き返し、指で頬を掻いた礼真は曖昧な笑みを返す。
「皆様が普通の家庭を築いている、平和な街ですね」
「ん? 異能者は男だけだろ? どうやって家族を持つんだ?」
続く夏櫛の説明に違和感を覚えた翔星は、慎重に言葉を選んで聞き返す。
「簡単ですよ、そのための輝士械儕なんですから」
「まさか!?」
「僕の母親は親父と戦場を共にした輝士、つまりデータリアンなんだ」
口に手を添えた夏櫛が含みを持たせて微笑み、思わず大声を上げた翔星に礼真が覚悟を決めた顔で静かに頷いた。
「なるほどね、それで異能者は男だけなのか」
「それだけかい?」
緊張を解いた翔星が軽く頭を掻き、礼真は呆気に取られて聞き返す。
「別に? 体も頭も人間と違いは無いんだろ? 何も気にする事は無い」
「案外豪快な考えをするんだね」
静かに首を横に振った翔星が事も無げに肩をすくめ、礼真は力無く笑みを返す。
「少なくとも俺が住んでた街より魅力的だ」
「理解が早くて助かるよ、いずれみんなが行く街だからね」
しばし俯いた翔星が偽りの無い笑みを浮かべ、礼真は安堵のため息をついた。
「輝士が母親になるってのは、少し驚いたけどな」
「この体の外皮は人間の皮膚と同じ構成。安心安全、感触も良好」
息を整えた翔星が複雑な笑みを返し、隣に腰掛けたサイカが自らの柔らかな頬を両手で撫で回す。
「あのな、サイカ……そういうのは本来の異能者に言ってくれ」
「承知、以後の説明は部屋に戻ってからにする」
額に手のひらに当てた翔星が首を振り、サイカは小さく頷きを返す。
「何だかな……輝士が女性の形をしてる理由は分かったけどさ」
「呼吸の乱れと心拍数の変動を検知、貴官は女性が嫌いなのか?」
「少なくとも、いい思い出は無いよ」
疲れ切った顔で深いため息をついた翔星は、小首を傾げるサイカに弱々しく首を振って返した。
「何だか懐かしいな」
「どういう事だ?」
2人のやり取りを見ていた礼真が思わず吹き出し、翔星は疲れをそのままに聞き返す。
「すまない。他の街について聞いた時に、親父も同じ事を言ってたんだ」
「礼真は幸せ者だよ」
「いずれ生まれる翔星の子供もね」
震える肩をそのままに理由を説明した礼真は、皮肉と羨望が入り混じった笑みを返した翔星に屈託の無い笑みを返した。
「そんな資格は俺に無えよ」
「次世代の異能者を増やすのも、僕達の立派な仕事だよ?」
腕組みした翔星が力無く項垂れ、礼真は理解出来ない様子で聞き返す。
「生まれた本人が言う以上の説得力は無いな、俺はまだ先の話だけどさ」
「ワタシが生殖能力を得るまでは、礼真様も同じですよ」
観念してため息をついた翔星が肩をすくめ、夏櫛は腹を軽く撫でて微笑む。
「今は硼岩棄晶の駆除に専念しないといけないからね」
「正式なお付き合いは適正年齢になってから……随分と粋な計らいだ事で」
慌てて礼真が早口で捲し立て、鼻で笑った翔星は小さく肩をすくめた。
「条件が分かるまでにはきっと、翔星さんにも正式な輝士械儕が与えられますよ」
「与えられるね……」
「どうしたんだい、翔星?」
手を膝に移した夏櫛が丁寧に頭を下げ、急速に笑みが冷めた翔星に礼真が怪訝な表情で聞き返す。
「何でもない……予備のRガン、なる早で頼めるか?」
「別に構わないけど、何で急に?」
「身の振り方次第では、色々ヤバいかもしれないからな」
無理に浮かべた愛想笑いを徐々に神妙な面持ちへと変えた翔星は、頷きながらも疑問を返す礼真に曖昧に答えてから食堂を後にした。




