第21話【ジト目で睨まれたのは、Fランクの闇使い】
硼岩棄晶の駆除に向かう途中で新たな疑問に直面したピンゾロは、
一抹の不安を覚えつつも新たな技の手応えを再確認して帰還した。
「翔星、今までの戦闘記録を基にRガンを改造したよ」
「早いな、助かるぜ」
昼食を終えた礼真が小型ケースを向かいに差し出し、受け取った翔星はケースの中からRガンを取り出して腰のホルスターに納める。
「作り慣れてるパーツを取り付けただけだからね」
「何のパーツか説明を要求する」
「熱線に異能力を乗せる装置だよ、僕のRガンにも付けてる」
差し戻されたケースを受け取った礼真は、翔星の隣から飛んで来たサイカからの質問に簡単に答えた。
「感謝する、これで駆除が楽になるぜ」
「よく言うよ、最初から混ぜてたくせに」
「隠してたつもりは無い、あれが俺の限界だったんだ」
はやる気持ちを抑え切れずに立ち上がった翔星は、呆れて笑う礼真に涼しい顔で肩をすくめる。
「そういう事にしとくよ。もうひとつの方は、もう少し待ってくれないか?」
「分かった。今すぐ必要って訳でも無いし、気長に待とう……ん?」
軽く頷いて立ち上がった礼真がトレーを手に取り、続けてトレーに手を伸ばした翔星は左の袖を引かれて振り向いた。
「会話の内容が不明瞭、説明を要求する」
「そこまで大したものでは無いよ、サイカさん」
いつの間にか立ち上がっていたサイカが上目遣いで見詰め、翔星は曖昧な笑みを返す。
「サイカ。先日約束した」
「そう……だったな。早く片付けて見回りに行くか、サイカ」
両手を袖から離したサイカが不機嫌な表情を返し、誤魔化すように笑った翔星は食堂の奥を親指で指し示した。
「まだ質問に答えてない、改めて回答を要求する」
「この程度では無理か……同じ男の礼真に頼んだんだ、少しは察してくれよ」
再びサイカが袖を掴み、観念した翔星は含みを持たせて目を逸らす。
「最低、不潔、セクハラ行為に該当」
「へいへい、すまんかったな。以後気を付けるよ」
袖から離した手で胸元と裾を押さえたサイカがジト目で睨み、翔星は投げやりな謝罪を返しながらトレーを手に取った。
「貴官から安堵を検知、本当の説明を要求する」
「こうも簡単に見破られるとはね、人間とは大違いだ」
胸とスカートに当てた手を離したサイカが含み笑いと共に立体映像を手のひらに出し、翔星はため息交じりにトレーをテーブルに置く。
「規則に反しない限り、この体は何でも許容する。遠慮は無用」
「そんな話じゃないよ、予備のRガンを作るよう頼まれただけだ」
立体映像を閉じたサイカが大きく胸を張り、今までのやり取りを見ていた礼真は思わず吹き出しそうになりながらRガンを入れていたケースを指差した。
「と言っても、ガワだけを模したハリボテだけどな」
「用途が不明、詳しい説明を要求する」
人差し指と親指を立てた翔星が銃を撃つ仕草をして肩をすくめ、しばらく情報の分析をしたサイカは小首を傾げる。
「俺のイマジントリガーは形がRガンなら発動出来る、ちょっとしたお守りだよ」
「予備の武装と解釈、了解した」
腰のホルスターに手を当てた翔星が曖昧な笑みを浮かべ、サイカは得心の行った様子で頷く。
「ご理解どうも」
「話も纏まったみたいだし、早く片付けて見回りに行こう」
安堵のため息をついた翔星がトレーを手に取り、ようやく笑いの衝動が収まった礼真もトレーを手に取った。
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「今回はリザード級か、数は……」
「6体ですね、礼真様」
足を止めた礼真が正面を見据え、夏櫛も髪留めのアンテナを伸ばす。
「それで、割り振りはどうする?」
「Rガンの調子を確認したい、僕と翔星が前に出よう」
待ちきれぬ気配を隠す事無く翔星がRガンを抜き、続けてRガンを抜いた礼真も簡単な作戦を立てた。
「それでは2人が危険、後方からの射撃を要請」
「俺も礼真もイマジントリガーはRガンだ、追加パーツとの相性も確認したい」
静かに首を横に振るサイカに外套を掴まれた翔星は、Rガンを振ってから真剣な表情で頷く。
「了解した。ガジェットテイル展開、この体は後方で待機する」
「ガジェットテイル展開、コネクトカバー起動。いつでも行けますよ、礼真様」
手を放して頷いたサイカの水兵服が消えてインナー姿に変わり、同じく水兵服が消えて裾の短い着物姿に変わった夏櫛が自信に満ちた微笑みを浮かべる。
「ありがとう、夏櫛。行って来るよ」
「心配しなくても、すぐに終わらせてくるぜ」
力強く頷きを返した礼真に続いて翔星が軽く手を振り、2人は軽い足取りで森に入って行った。
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『『グェ、グェ』』
「数は6体で変わらず、ここから仕掛けるか」
「距離は充分、こっちはいつでも行ける」
円盤状の前足を持ち上げて二足歩行するイグアナのような生物を確認した翔星が近くの木に身を隠し、別の木に背を預けた礼真が親指を立てる。
「なら、遠慮なく。Rガン、ダブルファイア!」
『グェッ!?』
木の陰から跳び出した翔星がRガンの引き金を2回引き、闇を帯びて赤黒く光る熱線が最も奥にいるリザード級の両膝を貫いた。
「こっちも負けないよ! 溟燠照射!」
『グエァッ!?』
続けて礼真がRガンの引き金を引き、前足の円盤を構えた最前列のリザード級が雷撃と熱線の波状攻撃を受けて倒れる。
「さすがだな、盾に大穴が空いてやがる」
「追加パーツの調子はいいけど、イマジントリガーに比べれば誤差の範囲だね」
倒れたリザード級を確認した翔星が小さく唸り、礼真は静かに首を振る。
「なら、そろそろ行くか?」
「ブ空術の出力も調整済みだ、今までより消耗を抑えられる」
「そいつはありがたい、本番と行くか」
地面にRガンを向けて息を整えた翔星が自信に満ちた笑みを向ける礼真に頷きを返し、Rガンを撃った反動を利用して木の上に向かって跳んだ。
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「礼真は何体行ける?」
「見栄を張って3体、と言いたいけど2体がせいぜいだ」
「分かった、再生中の2体を頼む。闇よ!」
木の上からリザード級の動きを眺めていた翔星は、曖昧な笑みを浮かべた礼真に頷きを返してから落下して周囲を警戒するリザード級4体をドーム状の闇に包む。
「4体を相手にするなんて無茶だ! 輝士が来るまでの牽制に徹してくれ」
「悪いな、変な逃げ癖が付いちまったようだ!」
「仲間から逃げるなんて、どんだけ天邪鬼なんだよ」
慌てて後を追う礼真は、更にRガンを撃って落下速度を上げた翔星に呆れながら自分の持ち場へと向かった。
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「急げば援護に回れる。ボルトスティンガーセット、シュート!」
先端が丸く膨らんだ金属の管を腰のケースから取り出した礼真がRガンの銃口に挿し、両足を再生中のリザード級に向けて撃ち出す。
『グェァェァッ!?』
「まず1体、次は……ぐぁっ!?」
額に当たった金属管から流れ込む膨大な電流にコアを焼き貫かれたリザード級が灰燼と化し、駆除を確認した直後に礼真は背後から強力な衝撃を受けた。
『グェ?』
「残念だったね、もらった!」
丸太のような尻尾を打ち付けたリザード級が違和感を覚えて動きを止め、体勢を整えた礼真は金属管を撃ち出す。
『グェアッ!?』
「コネクトカバーが無ければ即死だった、早く援護に行かないと」
電流にコアを焼き貫かれたリザード級の崩壊を確認した礼真は金属管を回収し、眼前に広がるドーム状の闇へと向かった。
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『グェーッ!』
『『グェ、グェ』』
闇の中で1体のリザード級が声を上げ、残り3体が声を頼りに背を合わせる。
「多少の知恵は回るようだが!」
『グェゥッ!?』
サングラス型のバイザーを掛けた翔星がRガンの銃口に細い闇の針を作りだし、最初に声を上げたリザード級のコアに突き刺す。
『グェァーッ!』
「自慢の尻尾も当たらなければ、どうと言う事は無い!」
『グェァ!?』
灰になって崩れたリザード級に隣のリザード級が気付いて尻尾を振り下ろすが、即座に側面へと回り込んだ翔星にコアを貫かれて倒れた。
「これで残りは2体……!?」
「虎影灯襖虚、起動!」
『グェァッ!?』
バイザー越しに周囲を確認した翔星は、突然闇の中に飛び込んで来た閃光と共に轟いたリザード級の悲鳴に息を呑む。
「おいおい、マジかよ……」
「路接、射出!」
『グギャッ!?』
閃光の持ち主に気付いた翔星が言葉を詰まらせる中、今度は飛び出した光の刃にコアを貫かれた最後のリザード級が断末魔の声を上げる。
「異能者の無事を確認、闇の解除を要請する」
「まさか獲物を取られるなんてね、ほらよ」
再び閉ざされた闇の中からサイカの声が響き、呆れて頭を掻いた翔星は手を軽く払って闇のドームを消した。




