第2話【戦場に焦がれるのは、Fランクの闇使い】
Fランクの判定を受けた翔星達は、
翌朝、基地の片隅にある倉庫の前に集まった。
「ここが我等の新天地、ね……」
「資材を寄せてスペースを作るのが任務か……何日掛かるんだ?」
倉庫に足を踏み入れたピンゾロが乱雑に置かれた木箱や資材を見回し、斑辺恵も呆れて言葉を失う。
「道を閉ざす口実にしては上出来だ」
「そう言うなよ、翔星。始めるぞ」
最後に入った翔星が呟き、ピンゾロは軽く笑って腕まくりした。
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「さすがはピンゾロだ、1時間で終わった」
「俺ちゃんの取り柄はこれだけだからな、考え事は任せていいか?」
倉庫の隅に集められた資材を確認した翔星が感心し、気恥ずかしそうに片目を瞑ったピンゾロは含み笑いを返す。
「……ピンゾロも気付いてたか」
「漠然とした違和感だけだ、説明なんて出来ねえ」
慎重に周囲を見回した翔星が静かに頷き、ピンゾロは肩をすくめて首を振る。
「自分も大体同じだ」
「俺も右に同じ。情報を整理しよう、まずはデータリアンだ」
続くように斑辺恵が首を振り、軽く頷いた翔星は近くの柱に寄り掛かった。
「100年くらい前に地球に来た宇宙人、だったか?」
「正確には肉体を持たない情報生命体、だけどね」
向かいの木箱に腰掛けたピンゾロが上を向き、間の機材に腰掛けた斑辺恵が軽く笑って補足する。
「情報と宇宙人でデータリアンか、結構安易だね」
「こういうのは、分かりやすさが重要だ」
腕組みしたピンゾロが肩で笑い、翔星は複雑な顔で肩をすくめた。
「確かに、データリアンの代表は電子天女だものね」
「こっちはネーミングセンスが独特な天女サマしか話が出来ないと来てる」
同意して頷いた斑辺恵が曖昧な笑みを浮かべ、頭の後ろで手を組んだピンゾロは呆れ顔で天井を見上げる。
「でも電子天女がいたから異能輝士隊がある」
「外宇宙からの侵略者、硼岩棄晶だな」
同じく見上げていた翔星が苦い顔を浮かべ、ピンゾロは腰に手を当ててため息をついた。
「粘土状のエネルギーが特定の形で固まる生命体、通常兵器ではすぐに再生する」
「データリアンの……電子天女の協力が無ければ、人間は為す術無しか」
左腕に嵌めたバングル型の端末、Lバングルを操作した翔星が立体映像を出し、ピンゾロは呆れた様子で何度も頷く。
「電子天女の協力があっても、全容は解明出来てない」
「アント級、バット級、ワーム級……いくつの形状が存在するやら」
しばらく天井を見上げた斑辺恵が小さくため息をつき、頷いた翔星は立体映像を何回かスライドする。
「どういう目的でこんな形をしてるのか……」
「そこから先は専門家の仕事だ、俺ちゃん達の仕事は別にあるぜ」
立体映像を眺めていた斑辺恵が首を傾げ、静かに首を振ったピンゾロはおどけて肩をすくめた。
「データリアンがもたらした希望の燈火、異能力だな」
「適合者は男だけで14歳前後に覚醒する、どういう理屈なんだか」
立体映像を切り替えた翔星が頷き、斑辺恵も疑問を口に出しながらLバングルを操作する。
「でもって使い手は異能者、天女サマはいいセンスしてるよ」
「大抵は省略するよね。自分は風使いで翔星は闇使い」
続けてLバングルを操作したピンゾロが大袈裟に広げた手を額に当て、斑辺恵は自分を指差してから翔星に目を向ける。
「俺ちゃんは何だか知らんが怪力を使える、これも異能力なのかね~」
「異能力でないと硼岩棄晶を駆除出来ないのは事実だ」
「それもただの異能力ではなく、イマジントリガーがね」
複雑な顔で自分の手を見詰めるピンゾロに翔星が静かに首を横に振り、斑辺恵も否定する事無く頷いた。
「想像力で硼岩棄晶のコアを破壊する異能力の強化、俺ちゃんは『握る』か?」
「自分はこいつを引かないと、コアを切断する刃を出せない」
「俺はRガンだが、コアを破壊できる異能力は先端にしか出せない」
不敵な笑みと共に手を強く握ったピンゾロに続き斑辺恵が懐から竹とんぼの羽を取り出し、翔星も腰のホルスターを軽く撫でて頷く。
「これが人類の希望ね、感動で涙が止まらんよ」
「異能力に目覚めて異能輝士隊に入ってイマジントリガーを会得する、これがこの時代の常識だ」
広げた手を眺めたピンゾロが複雑な笑みを浮かべ、翔星はLバングルを操作して新たな立体映像を映し出した。
「ここには古典の主人公みたいな連中が集まってるってのに」
「何で自分のような落ちこぼれまで本部に置いてるんだろうか」
軽く伸びをしたピンゾロが首を横に振り、斑辺恵も静かに疑問を口にした。
「上も硼岩棄晶を単独で駆除出来る異能者は手放したくないんだろう」
「そんなところだろうな、取り敢えず昼飯にするか?」
立体映像を閉じた翔星にピンゾロが笑みを返し、一行は倉庫を後にした。
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「また携帯糧食かよ、翔星は……」
「今日は駆除出来そうにないからな」
複数の容器をトレーに載せたピンゾロが食堂の片隅に目を向け、スティック状の袋と水の入ったカップを手にした翔星は静かに頷く。
「せめて食事だけでも戦場気分って? 分からんな~」
「そいつはお互い様だ」
トレーを両手で持ったピンゾロが呆れ顔で首を振り、含み笑いを浮かべた翔星は食堂の奥に向かった。
「こうも揃うと壮観だね~」
「1人の異能者に1体の輝士、これが異能輝士隊の大原則だからね」
奥のテーブルにトレーを置いたピンゾロが周囲を見回し、斑辺恵も様々な機器を後ろに取り付けた水兵服姿の女性を眺めながら頷く。
「おかげでテーブルは2人掛けが基本。俺ちゃん達は必然的にこっち、と」
「別に構わん、目立つ場所は苦手だ」
小さなテーブルを挟んで談笑する多数の男女を眺めていたピンゾロが自嘲気味に笑い、先に座っていた翔星は淡々とスティックの袋を開封した。
「自分も翔星と同意見だ、こっちの方が気楽でいい」
「俺ちゃんも女の子を戦場に連れて行くのはどうもね……」
小さく頷いた斑辺恵が軽く目を閉じ、ピンゾロも複雑な顔で首を横に振る。
「異能者のダメージを肩代わりする機能、コネクトカバーを使える有機デバイス、輝士械儕。あれが無いと外に出られない規則だ」
「輝士を務める械儕……電子天女が作った起死回生の切り札か……」
口に入れた携帯糧食を水で流し込んだ翔星が苦々しく呟き、敢えて目を逸らした斑辺恵は誤魔化すように周囲を見回す。
「天女を名乗ってるくらいだし見た目にも意味はあるんだろうけど、俺ちゃんにはさっぱりだ」
「それでいて輝士と組めるのはCランク以上と来てる」
小鉢をひとつ空にしたピンゾロが首を横に振り、斑辺恵も呆れた様子でため息をついた。
「駆除作業はCから始まり、回数を重ねてランクアップする仕組みだったな」
「SランクやGランクなんて番外もあるらしいが、基本はAランクがトップ」
軽く息を整えた翔星がLバングルを操作し、斑辺恵もLバングルを操作しながら頷く。
「でもって俺ちゃん達は最下位のFランクと……」
「一足飛びにCには上がれないし、地道にランクを上げるしか無いのだろうな」
それぞれのLバングルに浮かぶ【F】の表記を確認したピンゾロが自分のLバングルを見詰め、斑辺恵は静かに首を横に振る。
「俺としては駆除さえ出来ればいいんだが」
「単独で駆除しても、ランクは上がらないんだよね」
腰のホルスターに手を当てた翔星が呟き、斑辺恵は複雑な笑みを浮かべる。
「俺ちゃんや翔星はともかく、真面目な斑辺恵までFなのは解せないよな……」
「天女の考えなんて俺達には分からんさ」
首を傾げるピンゾロに翔星が鼻で笑ってみせ、一同は黙々と食事を再開した。




