第16話【手の内を見せたのは、Fランクの闇使い】
悪夢を見て不調に陥った斑辺恵は、
焔巳達との交流を経て落ち着きを取り戻した。
「さっき連絡があって、ドッペル級の被害者遺族への対応は全て終了したそうだ」
見回りの報告を終えてから食堂に入った礼真がバングル型の端末、Lバングルを手早く操作して立体映像を映し出す。
「そういうところは天女サマ様、って感じだな」
「電子天女はドッペル級の的確な対処を褒めてたよ」
密かに安堵した翔星が手近な椅子に腰掛け、立体映像を切り替えた礼真は複雑な笑みを返した。
「そいつは珍しいな、明日は雪でも降るのか?」
「気象衛星にアクセス、降雪の予兆は確認出来ない」
鼻で笑った翔星が肩をすくめ、隣に座ったサイカが手のひらに立体映像を出す。
「あのなぁ……」
「翔星の負けだよ、評価は本物だ」
疲れた様子で翔星がため息をつき、大笑いした礼真は向かいの椅子に腰掛けた。
「さっきのチェックでもランクは変わらずだったけどな」
「あれだけ戦闘経験があるのにFランクなんて、やっぱり納得いかないよ」
複雑な笑みを浮かべた翔星がLバングルを振り、礼真は釈然としない様子で首を振る。
「建前としては褒めるけど、やっぱり嫌われてるのさ」
「それこそありえないよ!」
「言いたい事は何となく分かるぜ、まだ俺は追い出されてないからな」
大袈裟に肩をすくめて鼻で笑った翔星は、思わず大声を上げた礼真に手のひらを向けて居心地悪そうに頭を掻いた。
「翔星に期待してるんだよ、電子天女は」
「かもな。落ちこぼれが足掻く姿は、情報生命体にはいい刺激なのさ」
小さくため息をついた礼真が慎重に言葉を選び、軽く頷いた翔星は冷笑を返す。
「あんなに硼岩棄晶を駆除出来るのに、落ちこぼれの訳が無いだろ」
「そうでもない。俺のイマジントリガーは圧縮した闇、射程は数センチも無い」
信じられない様子で礼真が首を振り、翔星は手にしたRガンの銃口に竹串ほどの長さの黒い針を作り出した。
「突き刺すイメージか、キッド・ザ・スティングの異名もそこから来たんだね」
「別に隠してた訳ではない、闇で覆う戦法を思い付く前から使ってたからな」
銃口から伸びる闇の針を眺めていた礼真が納得しながら頷き、針を消した翔星は静かに肩をすくめる。
「僕のイマジントリガーも翔星の能力と似たり寄ったりだ、やはり強さはランクに関係が無いのか?」
「ランクは天女サマの胸三寸、人間の俺には到底理解が及ばないぜ」
先端が丸く膨らんだ金属管を腰のケースから取り出した礼真が首を傾げ、翔星は呆れた口調で首を横に振る。
「強さ以外となると、人間性とか性格なのかな?」
「そうかもな、天女サマには俺が古典に出て来る力に溺れた小悪党に見えるのさ」
しばし俯いた礼真が別の可能性を呟き、翔星は思わず吹き出す。
「確かに異能輝士隊は地球の文化を参考にしていますね」
「電子天女から『自分に素直になりなさい』とメッセージを受けた」
礼真の隣に座る夏櫛が手のひらに立体映像を出し、天井を見詰めていたサイカは真剣な眼差しで翔星を見詰めた。
「己と向き合い新たな能力を開眼せよ、って? それこそ古典だぜ」
「単独であれだけ駆除出来るのに、まだ強くなる気かい?」
目を逸らして握りこぶしを天井に向けた翔星が力を緩めて首を振り、礼真は半ば呆れて聞き返す。
「自分の闇と向き合ってるだけで、完璧だなんて微塵も思ってないぜ」
「そのストイックさ、まるで主人公だね」
「よしてくれ、俺は主人公なんて柄じゃないさ」
手のひらを見詰めて頷いた翔星は、感心する礼真に首を横に振って返す。
「でも電子天女は、僕達をキャラクターで捉えてる部分があるよね」
「もし硼岩棄晶がいなけりゃ、俺達は天女サマの前で劇でも演じてただろうぜ」
気恥ずかしそうに頭を掻いた礼真が曖昧な笑みを返し、同意した翔星は大袈裟な仕草で肩をすくめた。
「硼岩棄晶殲滅後の雇用案として検討する、と電子天女からメッセージが入った」
「そこは否定しろよ、こっちが馬鹿みたいだ」
しばし天井を見詰めたサイカが真剣な表情で頷き、額に手を当てた翔星は感情の整理を試みる。
「充分に思慮深いアドバイス、重ねて感謝」
「興が醒めた、この話は終わりだ」
小さく頷いたサイカが僅かに目を細め、翔星は深くため息をついた。
「翔星も輝士相手には敵わないか」
「元より駆除の方が性に合ってる、他に話題が無いなら晩飯まで解散か?」
思わず吹き出した礼真が肩を震わせ、翔星は誤魔化すように立ち上がる。
「貴官の戦法を詳しく知りたい」
「帰還の許可はまだ先だろうし、お互いの手札を確認しとくか」
続けて立ち上がったサイカが真剣な眼差しを向け、翔星は腕組みして頷いた。
「承知した。この体は武装が多い、貴官から説明を求む」
「了解だ。といっても俺は、さっきのイマジントリガーとRガンの牽制だけだ」
直立して敬礼をするサイカに砕けた仕草で敬礼を返した翔星は、頭を掻いて腰に戻したRガンを取り出す。
「戦闘記録には、標的を包む闇がある」
「あれは硼岩棄晶の視界を塞ぐだけだ、大した意味は無い」
手のひらを近付けたサイカが立体映像を再生し、翔星は冷静に首を振る。
「闇の中での的確な攻撃、まだ仕掛けがあると推測」
「よく見てるな~……あの闇には硼岩棄晶のコアを光らせる仕掛けがあるんだ」
真剣な眼差しで見詰めサイカが何度も立体映像の再生を続け、根負けした翔星は簡単に仕掛けを説明した。
「以前の駆除では何も見えなかったけど?」
「別に隠してる訳ではない、バイザー越しで無いと見えないだけだ」
椅子に座った礼真が聞き返し、翔星はサングラス型のバイザーを取り出す。
「そんな隠し玉があったなんて」
「これで本当に以上、次はサイカさんの番だぜ」
意表を突かれた様子で礼真が頷き、翔星は肩をすくめてサイカに視線を向けた。
「承知した、ガジェットテイル展開」
「全部展開すると、そんな姿になるんだな」
軽く頷いたサイカの水兵服が消え、翔星は両腕と両脚の装甲を順に眺めて頷く。
「この体は剣士型、動きやすさを重視してる」
「分かったから説明を頼んだぜ、サイカさん」
白いインナーに包まれただけの細い腰をサイカが軽く捻り、肩から胸までを覆う装甲に視線を移した翔星は説明を促した。
「承知した。この髪留めはタイガーアイ、広域光学センサーを搭載した索敵装置」
「光を屈折させて全周囲を観察出来る訳か、結構便利だね~」
猫耳型の機器を付けた髪留めをサイカが指差し、翔星は腕組みして深く頷く。
「肯定だが、まだ詳しく説明してない。何故貴官は仕組みを理解出来るのか疑問」
「ん? 光使いの広域索敵と言えば屈折の利用だろ?」
怪訝な表情を浮かべたサイカが聞き返し、翔星は事も無げに答える。
「理解不能、他属性の異能力に詳しい理由に疑問」
「前に知り合いの光使いに聞いたんだ。話の腰を折って済まない、次を頼む」
返って来た言葉を分析したサイカが小首を傾げ、翔星は軽く手を振った。
「承知した。こっちの球体は龍仙光、負傷を治癒する装置」
「一応感謝はしてるけど、駆除のたびに使うのは勘弁してくれねえかな?」
素直に頷いたサイカが手甲に付いた球体を見せ、翔星は複雑な表情を返す。
「コネクトカバー使用の許可が下りない以上、貴官を守る術は他に無い」
「悪かった、人命を守るのも使命だもんな」
チューブ状のガジェットテイルを揺らしたサイカが静かに首を横に振り、翔星は折れるように軽く頭を下げた。
「続ける。脚部には高速飛行可能な光波エンジン、瑞雲を搭載」
「高速ね……確かに、あの速さには度肝を抜かれたぜ」
小さく頷いたサイカが金属製のブーツの側面を展開し、翔星は素直に納得する。
「肩のパーツにある光学分析装置、科戸は標的の行動予測が可能」
「行動の先読みまで出来るのか」
続けて肩の装甲を僅かに開いたサイカが淡々と説明し、翔星は小さく唸った。
「それと全パーツから閃光防御壁、フリーズフラッシュを展開出来る」
「光の壁を出しながら高速で近付いて光の剣で仕留める、と。よく出来てるぜ」
肩の装甲を閉じたサイカが自分の周囲に光を数回明滅させ、設計思想を分析した翔星は呆れ気味に感心する。
「虎影灯襖虚、硼岩棄晶のコアも切断可能。以上で説明を終える」
「ん? 夏櫛さんの話だと全部で7つ、ひとつ足りなくないか?」
チューブの先端に取り付けた懐中電灯を手にしたサイカが簡単に説明し、疑問に躓いた翔星は指折り数えて首を傾げる。
「アクセス不可、名称の閲覧さえも制限されてる」
「そっか、礼真は何か分かったか?」
「いや、これだけでは見当も付かないよ」
しばらく目を閉じたサイカが静かに首を横に振り、頷きを返した翔星から質問を受けた礼真もLバングルを操作しながら難しい表情を返した。




