第14話【フラグを立てたのは、Fランクの怪力男】
異能力に覚醒したばかりの少年を保護したピンゾロは、
結界街の外に着地した。
「これは眼福、よいものを見せてもらったわ」
「出歯亀は程々にしてもらえると助かるんだけどね」
翅状の機器を広げながら着地したコチョウが目を細め、ピンゾロは呆れた様子で上空の小型ドローンを眺める。
「抱き合う男子にときめくのが婦女子の嗜みと聞いとるがの?」
「どこの世界の嗜みだよ……」
横に並ぶ和是の顔と交互に眺めたコチョウが悪戯じみた笑みを返し、ピンゾロは小さくため息をつく。
「ボクも子供を抱く政之を想像しただけで興奮するよ」
「悪いがツイナの期待には応えられないよ、それよりあれだ」
続いて着地したツイナの両腕に抱えられた政之は、複数の影が舞う空を見据えて慎重に降りた。
「分かってる、結界から出た人間を見逃すような硼岩棄晶ではないよ」
「ぼくのせいでみんなが……」
政之の肩に手を回したツイナが上空を舞うコウモリのような影を確認し、和是は顔色を失う。
「異能力覚醒時の事故は異能輝士隊結成当初から想定済みだ、問題無い」
「出来れば今のうちに彼を本部まで案内したいんだが」
組織の説明をしたツイナが慈しむように微笑み、政之は遠慮がちに頭を掻いた。
「でも、ぼくは……」
「和是に必要なのは異能力の使い方だ、本部なら学べる」
俯いた和是の声色が徐々に下がり、ピンゾロは真剣な眼差しと共に頭を撫でる。
「分かりました、ピンゾロさん」
「話は纏まったようだね。では、ご同行願おうか」
顔色の戻った和是が大きく頷き、政之は大鳥居へと手を差し伸べた。
『『キェーッ!』』
「ワーム級の群れか」
和是が大鳥居に近付くと同時に森の奥から複数の金切り声が轟き、ツイナは苦い顔を浮かべて剣の柄に手を掛ける。
『『アギャギャギャーッ!』』
「バット級が呼んだのか、彼の案内はあれらを駆除してからだね」
ツイナ達を警戒するように上空から不快な鳴き声が響き、足を止めた政之は腰に付けたケースから革手袋を取り出す。
「ここはわしに任せて先に行け」
「いいのか?」
「一生に一度は言ってみたいセリフじゃ、遠慮せんでええ」
腕と共に翅状の機器を広げたコチョウが制止し、慎重に聞き返すツイナに不敵な笑みを返した。
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「俺ちゃんも残るぜ、向こうは2人いりゃ充分だろ」
「可愛い後輩が出来たからには、負けられんの」
大鳥居に入る3人を確認したピンゾロが森を睨み、コチョウは腰のベルトに手を当てて含み笑いを返す。
「抜かせ。それでコチョウさんや、何か策はあるのかね?」
「まずはバット級を叩く、でないとキリが無いからの」
肩を回したピンゾロが狙いを定めるように空を見上げ、大きく頷いたコチョウも上空を舞うバット級を指差す。
「同感だ、ちょっくら行って来るぜ」
「待つのじゃ!……まったく忙しいのう」
答えを待たずに脚のバネを溜めていたピンゾロが空高く跳び上がり、コチョウは小さくため息をついて背中の翅を広げた。
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「まずはひとつ!」
『アギョッ!?』
バット級の足を掴んだ反動で背に跳び乗ったピンゾロが首を捩じり、バット級は悲鳴と共に羽ばたきを止める。
「ライドハーケン、シュート!」
『アギィッ!?』
「ありゃ!?」
続けて飛んで来たコチョウの放った衝撃波を受けた別のバット級が灰に変わり、同時に跳んだピンゾロは伸ばした手を掴む場所を失って落下した。
「すまぬ、次の足場を壊してしまったようじゃの」
「いや、助かったぜ。空を飛べるって便利だね~、っと!」
急ぎ追い掛けたコチョウが手を掴み、不敵な笑みを返したピンゾロは握った手を支点に体を揺らして最後のバット級に向かって跳び掛かる。
「あっ、こりゃっ! わしは空中ブランコではないぞ!」
『アギギョーッ!?』
手に感じていた荷重が忽然と消えたコチョウの抗議も虚しく、最後のバット級は頭部をあらぬ方向に曲げながら断末魔の声を上げる。
「バット級はあれで終わりだ、先に戻ってんぞー」
「全く仕方ないのう……」
軽く手を振ったピンゾロが重力に身を任せて自由落下し、呆れてため息をついたコチョウは急降下して後を追った。
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「そろそろワーム級が森から出て来る頃か」
「ひい、ふう、みい……全部で6体じゃの」
軽く屈伸したピンゾロが森と平原の境界線を見詰め、コチョウは小型ドローンを介して数を確認する。
「ここなら隠れる場所は無いし、各個撃破で楽勝っしょ」
「そういうのを『ふらぐ』と言うのでないかの?」
軽く肩を回したピンゾロが余裕の笑みを浮かべ、コチョウは不敵な笑みを返す。
「漫画やアニメじゃ無いんだし、んな事ある訳……」
『『キキキーッ!!』』
大袈裟に身をすくめてみせたピンゾロの眼前で頭部が甲殻に覆われたワーム級が重なり合い、周囲を照らす眩い光を放ち出した。
『『キキキ……』』
「合体しちゃったよ……」
光が消えると同時に巨大な塊から6本の首が伸びたワーム級が現れ、ピンゾロは言葉を失う。
「ほれ、言うた通りじゃろ?」
「それよりあれ、どうすんだよ?」
腰に手を当てたコチョウが胸を張り、ピンゾロは呆れた様子で聞き返した。
「さしずめキメラ級、もしくはヒドラ級と呼ぶべきかの」
「名前は後でいい、順繰りに潰すぞ!」
合体した硼岩棄晶を観察していたコチョウが空を見上げ、ピンゾロは両手で頬を叩いて気合を入れる。
「他に手は無いのう。ライドハーケン、シュート!」
「いい感じだ! 俺ちゃんはこっち!」
静かに頷いたコチョウが空を蹴って衝撃波を放ち、脚のバネを溜めたピンゾロは狙いを定めて合体硼岩棄晶の首のひとつに跳び掛かった。
『キョェーッ!?』『キェッ……!?』
「いい感じだ、続けて行く……ぞ!?」
衝撃波に首を圧し潰された頭が悲鳴を上げ、別の首を掴んだピンゾロは反射的に後ろに跳んで距離を取る。
『『キキ……ッ』』
「おいおい……コアを砕いた手応えはあったぞ?」
力無く倒れた2本の首が持ち上がり、ピンゾロは自分の手と交互に見詰めながら唖然とする。
「他のコアからエネルギーでも貰っとるのかの?」
「なら、もう1回潰して確かめてみるか」
駆け寄って来たコチョウの推測に頷いたピンゾロは、再度脚のバネを溜める。
「構わぬが、策はあるのかの?」
「無い。今から考える」
その場で軽く跳んだコチョウが聞き返し、首を振ったピンゾロは真剣な眼差しで前方を見据える。
「そうか……任せたぞ。ライドハーケン、シュート!」
「ご理解、感謝する! もういっちょ食らえ!」
しばらく考えてから力強く頷いたコチョウが衝撃波を撃ち出し、ピンゾロも地を蹴って飛ぶように駆け出した。
『キョェーッ!?』『キェッ……!?』
「さて、ここからどうなるか」
攻撃を受けた2本の頭がそれぞれ断末魔の悲鳴を上げ、ピンゾロは仕留めた首を掴んで留まる。
『『キギャーッ!!』』
「うげぇ……相変わらず気持ち悪い顔だな、早く種明かししてくれよ」
残った4本の頭が威嚇しながら覗き込み、ピンゾロは吐き気を抑えながら指先に意識を集中した。
(コアから全身に流れるエネルギーの振動、まさか逆流を拝めるなんてね)
「分かったぜ! 首のコアを細いバイパスでつないでやがる!」
「でかした! 中心点は分かるかの?」
指先から伝わる振動を分析したピンゾロが大きく跳び上がりながらRガンを取り出し、コチョウは全身のバネを溜める。
「腹のど真ん中だ、目印を撃ち込む」
『『キェーッ!?』』
熱線を照射し続けるRガンを横に薙いだピンゾロが途中で手を止め、一点を深く焼かれた合体硼岩棄晶は奇怪な声を上げる。
「ならばこれの出番じゃな。ドライブキック、疾風プラズマ落とし!」
『『キギョェーッ!!』』
空高く飛び上がったコチョウが閃光を纏いながら轟音と共に急降下し、背の穴に攻撃を受けた合体硼岩棄晶は同時に断末魔の声を響かせた。
「電流がバイパスを伝ってコアに同時攻撃とはね……」
「どうじゃ、新技の威力は? 見事なもんじゃろ?」
技を分析したピンゾロが唖然とした様子で呟き、コチョウは得意気に胸を張る。
「ははっ、凄いね……」
「もっと褒めてもいいんじゃぞ?」
「翔星の輝士もこんな感じなのか?……斑辺恵は無事だといいんだけどな」
曖昧な愛想笑いに不満を持ったコチョウが顔を近付け、ピンゾロは逸らした目を空へと向けた。




