第13話【壁を超えたのは、Fランクの怪力男】
ドッペル級硼岩棄晶に遭遇した翔星は、
慣れた手つきで続々と駆除を続けた。
『イタイ……』『タスケテ……』
ヒトを模したドッペル級硼岩棄晶が群れを為し、翔星達の進路に立ち塞がる。
「ドッペル級も僕達の狙いに気付いたようだね」
「オリジナルの特定を要請」
「任せろ」
木陰に連なるドッペル級を礼真が睨み付け、慎重に見定めていたサイカに頷きを返した翔星はRガンを構えた。
『ナンデオレ……ガッ!?』
「これでオリジナルを見失わない」
森の奥に隠れていたドッペル級が顔を押さえ、翔星は含み笑いを浮かべる。
「闇の異能力の付着を確認」
『アイツノセイダ……』『オレハマケテナイ……』
タイガーアイを覗いたサイカが頷き、顔の半分が黒く染まったドッペル級の前に無数のドッペル級が立ち塞がった。
「壁を厚くして来たか!」
「一点に集まれば対処も容易」
「ええ、ここは一気に決めましょう。ディープハイド起動」
慎重にRガンを構えた礼真の前に踏み出したサイカが光の刃が伸びた懐中電灯を構え、頷いた夏櫛も姿を消す。
「科戸照射、瑞雲フルドライブ。攻撃に移行」
『『イタ……イッ!?』』『『タスケ……テッ!?』』
両肩の小型ランプを数回点滅させたサイカが滑空しながら駆け抜け、ヒトの声を真似た音が次々と消えて行く。
『ナンデオレ……ガッ!?』
「逃がしませんよ!」
『アイツノセイ……デッ!?』
サイカの刃を躱したドッペル級が突然身を仰け反らせて灰と化し、背後から姿を現した夏櫛は離れたドッペル級に向けて雷の扇子を投げた。
「やっぱり女は怖いな……」
「でも、輝士械儕は味方だよ」
「そうなんだろうけどさ……」
戦闘を観察しながら無意識に呟いた翔星は、気遣うように微笑んだ礼真に複雑な笑みを返す。
「礼真様、血路を開きました」
「新たな硼岩棄晶出現前の駆除を推奨」
振り向いた夏櫛が手を振り、サイカも周囲を警戒しながら森の奥を指差す。
「分かった。2人は進路の確保を頼む」
「あと少しだ、すぐ楽にしてやるよ」
手を振って返した礼真が走り出し、軽く息を整えた翔星は静かに歩き出した。
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『イタイ……タスケテ……』
「くっ、どうにか切り離せないのか?」
顔半分を黒く染めて苦悶の表情を浮かべる少年を前にした礼真は、一縷の望みに賭けて全身の観察を始める。
「残念ながら手遅れだ。Rガン、ダブルファイヤ!」
『ナンデオレ……ガァァッ!?』
「道を閉ざすのが、せめてもの供養だ」
後続の翔星がRガンの引き金を2回引き、頭と片足が爆ぜて倒れたドッペル級の喉元に銃口を突き立てた。
「翔星!?」
「硼岩棄晶は骨も残さず獲物を溶かす、あれは死体ですらない」
一瞬にして灰と化したドッペル級を目の当たりにした礼真が大声を上げ、翔星は静かに首を振って返す。
「だからと言って……」
「ドッペル級が真似るのは、襲われてから命を落とすまでの言葉だ」
「ああ、座学で教わったよ」
釈然としない様子の礼真は、唐突な翔星の言葉に小さく頷きを返す。
「今際の際でも、反省も謝罪も無かった。何も気に病む事は無い」
「そんな……!?」
「礼真様、コピーの駆除が終わりました」
「お疲れ様、夏櫛……帰ろうか」
灰のあった辺りを一瞥した翔星に言葉を詰まらせた礼真は、報告に戻った夏櫛に疲れた笑みを返して帰還を決定した。
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「単躬者だって!?」
翔星達がドッペル級を駆除した翌朝、朝食を終えたピンゾロが大声を上げる。
「落ち着けピンゾロ、異能力に覚醒したばかりの男子じゃ」
「彼の保護に協力するよう、本部から指令が来たんだけどね」
咄嗟に耳を塞いだコチョウが呆れ気味に窘め、愛想笑いを浮かべた政之は言葉を濁す。
「ん? 何か問題あんの?」
「来れば分かる、道すがら説明しよう」
重苦しい空気を察したピンゾロがおどけた振りをして聞き返し、密かに安堵した政之は小さく頷いた。
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「保護対象は頼野和是、14歳。風の異能力に覚醒したのは、つい先日の事だ」
「典型的な覚醒パターンって訳ね」
手のひらに立体映像を出したツイナが歩きながら淡々と説明を始め、両手を頭の後ろに回したピンゾロも歩調を合わせる。
「学校での立場も典型的だったらしくてね」
「しゃーないさ、学校は天女サマの管轄外だからな」
ツイナの後ろから政之が複雑な笑みを浮かべ、ピンゾロは諦め混じりに頷いた。
「だけならよかったんだが、同級生が虚偽被害を訴えたのがよくなかった」
「それで現在逃走中、って訳か」
頷きを返した政之が難しい顔で首を振り、ピンゾロは遠い目をして頷く。
「潔白は証明出来たのじゃが、誰の説得にも耳を貸さなくての」
「分かった、急いだ方がよさそうだ」
腕組みをしたコチョウが静かに首を振り、深く頷いたピンゾロは歩みを速めた。
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「そこからこっちに近付くな!」
「おっと、あやつが保護対象の和是殿のようじゃの」
街の外壁を背に立つ少年が突風を放ち、水兵帽を押さえたコチョウは手のひらに出した立体映像と見比べる。
「あの程度の風ならボクの翼で突破出来るが?」
「強行突破は最後の手段だ、別の方法を考えよう」
翼状の機器を広げたツイナが前方を睨み、政之は静かに首を横に振った。
「政之、あいつとサシで話せるようにしてくれねえか?」
「万が一の責任を貴官が取るならボクは構わない」
慎重に下がったピンゾロが政之に声を掛け、割って入るようにツイナが答える。
「駄目だよ、ツイナ。何があろうと責任は小官が取る」
「政之がそこまで言うなら、ボクは何も言わない」
静かに首を横に振った政之に窘められたツイナは、嬉しそうに微笑みを返す。
「決まりだね。土よ、壁になれ!」
「サンキュー、ちょっくら行って来るぜ」
小さく頷いた政之が背丈を遥かに超える壁を出し、脚のバネを溜めたピンゾロは軽々と壁を跳び越えた。
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「よお、初めまして。俺ちゃんの事はピンゾロって呼んでくれ」
「いきなり何なんだよ……っ!?」
易々と土壁の内側に着地したピンゾロが軽く手を振り、苛立ち紛れに手を払った和是は巻き起こった風に驚いて声色を抑える。
「力の制御が上手く行ってなかったのか、思った通りだ」
「く、来るなー!……ああっ!」
深く頷いたピンゾロが前へと踏み出し、語気を強めた和是は渦巻く風に動転して恐慌に陥る。
「落ち着けよ、力の使い方を教えてやるからさ」
「あの風を握り潰すなんて……」
向かって来た風をピンゾロが掴んで消し去り、和是は呆然とも安堵ともつかない様子で呟いた。
「異能輝士隊に入れば誰も傷付けなくて済むぜ」
「だったらこんな力、意味無いじゃないか!」
土埃を軽く払ったピンゾロが含み笑いを浮かべ、和是は警戒を前面に押し出す。
「俺ちゃん達は学校の連中とは違うぜ」
「何が違うんだよ!」
「止めろ! そんなところに撃ったら!」
仕切り直すべく頭を掻いたピンゾロが腕を振り上げた和是を止めようとするが、制止を無視して腕を振り下ろした和是の足元から巨大な竜巻が出現した。
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「う、うわぁ!?」
「くっ! 間に合うか!」
外壁を遥かに超す竜巻に巻き込まれた和是が空へと舞い上がり、ピンゾロは脚のバネを充分に溜めてから竜巻に飛び込む。
「今の俺は、あの時と違うんだ!」
「うわわぁ!?」
竜巻の中で目を凝らしたピンゾロが巻き上げられた石を足場にして跳び上がり、暴風に翻弄される和是を抱きかかえるようにして捕えた。
「何とか間に合ったな、ついでに着地用の風を出してくれるかい?」
「そんな急に言われても……」
空高く消えて行った異能の竜巻を見送ったピンゾロが足元へと目を向け、和是は言葉を濁す。
「結界の外に出ちまったから下に人はいない、遠慮はいらないぜ」
「わかった、やってみる……うわっ!」
落下する中で体勢を整えたピンゾロに体を僅かに持ち上げられた和是が下に手を向けて意識を込めるが、放った風の反動で地面から遠ざかる。
「いい感じだ、今度は空気のクッションをイメージしてみてくれ」
「クッション……クッション……えい!」
手応えを感じたピンゾロが簡単に助言し、必死にイメージを集中した和是が再度地面に風を放つ。
「やれば出来るじゃねえか、これでもう大丈夫だぜ」
「ありがとう、ピンゾロさん。ぼく、ぼく……」
「いいって事よ。こっちこそ、ありがとな」
難無く着地したピンゾロは、地に足が着いた安堵から涙を流す和是の頭を優しく撫でて微笑んだ。




