第110話【励ましたのは、元Fランクの闇使い】
UFO級硼岩棄晶に追い付いたレゾンデートルは、
主砲を無力化して衝角による突入の準備に入った。
「敵UFO級、中から多数の硼岩棄晶を出して来た!」
「こちらでも確認しました。バット級、バイソン級、ワーム級の混成部隊です」
手元のセンサーパネルを確認したツイナが警告を発し、正面モニターを確認した夏櫛は推進機能のチェックを始める。
「奴等は宇宙でも生きられるのかよ!?」
「元々外宇宙から来た生物じゃからの。それより、早う衝角ブロックに行かぬか」
驚愕の表情を浮かべたピンゾロが正面のモニターを指差し、呆れ気味に首を横に振ったコチョウは衝角ブロックへの扉を指差す。
「そうだったな。祐路艦長、一発派手なのをお願いするぜ」
「任せてくれ」
誤魔化すように頭を軽く掻いたピンゾロがブリッジに向けて親指を立て、祐路も力強く親指を立てた。
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「本艦の推進機能に問題無し、いつでも行けます」
「それじゃ、さっそく突撃と行こうぜ」
「いや、まだだ」
「なんでだよ!?」
すぐ操舵を出来るよう身構えた夏櫛に頷いて正面モニターを指差したテツラは、静かに首を横に振った祐路に大声で聞き返す。
「今ここで突っ込んだら、あの取り巻き連中の集中砲火を浴びる」
「ならば、迎撃用のレーザー砲も起動しておくか?」
「そうしてくれ、でもまだ撃つなよ」
モニターに映る硼岩棄晶の大群を指差した祐路は、振り向いて指示を仰ぐ政之に頷きを返しつつ指示を出した。
「何やら策があるみたいだね」
「まあな。イチかバチかの大博打だけど、付き合ってくれないか?」
交代するように振り向いた礼真が言葉に含みを持たせ、祐路は真剣な表情で聞き返す。
「本当は自信たっぷりなんだろ? 僕は構わないよ」
「ワタシは礼真様に従います」
笑いを堪えた礼真が快く承諾し、隣で胸元に手を当てた夏櫛も静かに頷く。
「小官も腹を括ったよ」
「どこまでも一緒だよ、政之。でも硼岩棄晶が本艦を囲むように展開してるぞ?」
余裕に満ちたような笑顔を作った政之が上擦った声と共に頷き、隣から肩を抱き寄せたツイナはレーダーで把握した配置図を正面モニター映した。
「思った通りだ。こっちが一隻だと知って、確実に仕留める気で来たな」
「なるほどね。夏櫛、こういう操舵は出来るかい?」
「これくらいなら簡単ですね」
モニターの確認をした祐路が表情に余裕を取り戻し、悪戯じみた笑みを浮かべた礼真が転送したデータを受け取った夏櫛は即座に頷きを返す。
「データを送ったよ、艦長。許可をもらえるかい?」
「もちろんオッケーだ、頼んだぜ」
「了解しました。操舵、開始します」
会心の笑みと共に振り向く礼真に祐路が親指を立てて返し、夏櫛は操舵パネルの操作を開始した。
「ダメだ、どこに向かっても先回りされて進路が閉ざされるよ」
「おいおい、このままだと八方塞がりになっちまうぞ!?」
センサーを確認したツイナが首を振り、テツラも表情に焦りを滲ませる。
「いや、まだだ」
「敵硼岩棄晶、完全に本艦を取り囲んだ!」
「言わんこっちゃない! どうすんだよ!?」
頑として首を横に振る祐路にツイナが更なる状況の悪化を報告し、テツラは更に大声で聞き返す。
「敵硼岩棄晶に一斉射撃の兆候あり!」
「今だ! 最大船速でUFOに突っ込め!」
「了解しました。レゾンデートル、全速前進」
力強く政之の肩を抱き寄せたツイナから報告を受けた祐路が右手を前方に大きく振り、夏櫛は操舵パネルを操作して宇宙船を急加速させた。
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「硼岩棄晶の反応が消滅? いや、同士討ちだ!」
「これを狙ってたのかよ! さすがは祐路だぜ!」
センサーを確認していたツイナが興奮気味に観測結果を正面モニターに転送し、互いの攻撃で消滅する硼岩棄晶の様子をテツラは手放しで称賛する。
「いくらオレでも、ひとりじゃ無理だったぜ。礼真と夏櫛さんのおかげだよ」
「逃げる振りをして互いの射線に誘導するなんて、思いもしなかったよ」
静かに首を振った祐路が操舵席の2人に手を差し伸べ、ツイナは硼岩棄晶の航跡ログを確認しながら舌を巻く。
「向こうも防衛隊の第二波を出すだろうし、油断はするなよ」
「間もなく敵UFO級に衝突します」
「衝角ブロックに通達。総員、ショックに備えろ!」
緩む口元を抑えた祐路は、夏櫛の報告に合わせて正面モニターの確認をしてから手元の受話器を手に取って衝角ブロックに指示を出した。
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「衝角ブロック、了解。景気よく頼んだぜ!」
『目標まで5、4、3、2、1……』
壁に備え付けられた受話器を手にしたピンゾロが気さくに返し、スピーカーから夏櫛の事務的なカウントダウンの声が響く。
「おっと……無事にぶつける事が出来たみたいだな」
「そいじゃ、さっそく乗り込みますか」
「待つのじゃ、安全確認をしてからじゃ」
しばらくしてブロックに響いた小さな衝撃を肌で感じた翔星が不敵に笑い、先端近くのハッチに向かおうとしたピンゾロをコチョウが呼び止めた。
「地球の命運が掛かってるのに、随分と悠長だね~」
「掛かってるからこそだろ、俺達には万にひとつの失敗も許されない」
「改めて言われると、かなりのプレッシャーだね」
軽口を叩いたピンゾロを翔星が肩で笑い、2人のやり取りを眺めていた斑辺恵は大きく深呼吸する。
「獲物を俺がもらってもいいんだぜ?」
「まさか、翔星こそ大物に専念してくれよ」
「その意気だ」
腰のRガンに手を当てた翔星は、懐から竹とんぼの羽を取り出して軽く首を横に振った斑辺恵に安堵を隠すような不敵な笑みを返した。
「スキャン終了、左舷ハッチの開放が安全と判断」
「案外早く終わったのね~」
右手をハッチに当てていたサイカが左手のひらに立体映像の矢印を浮かべ、ピンゾロは密かな安堵を軽口で誤魔化す。
「地球の命運が掛かっておるからの」
「ごもっとも。そいじゃ、左の扉に並びますか」
一瞬だけ慈しむように目を細めたコチョウが悪戯じみた笑みを浮かべ、大袈裟な仕草で肩をすくめたピンゾロはハッチへと向かう。
「まるで電車だね」
「分かりやすくていいじゃないか」
「総員の移動を確認。最終安全装置解除、左舷ハッチ開放」
呆れながらハッチへと向かった斑辺恵に翔星が肩を震わせて笑い、並んだ面々の確認をしたサイカは淡々とした口調でハッチを開いた。
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「中は結構広いのね~」
「硼岩棄晶のサイズを考えれば、これくらいがちょうどいいんだろうさ」
「いつも通り戦えるだけでも気が楽だよ」
UFO級の内部に降り立ったピンゾロが遥かに高い天井を見上げ、余裕に満ちた笑みを浮かべる翔星に斑辺恵が密かに安堵しながら頷く。
「違いない。それで、コアはどこにあるのん?」
「壁面を移動中と推測」
大きく両腕を広げたピンゾロが周囲を見回し、サイカは通路のような穴が無数に空いた淡く光る周囲の壁を指差した。
「闇よ!……そう簡単には出て来ないか」
「ゼロ番街における解析結果を参照。科戸起動、行動予測開始」
手近な壁を闇で覆った翔星がすぐに解き、手のひらに浮かべた光球の立体映像をしばし見詰めたサイカは肩装甲の小型ランプを激しく点滅させる。
「予測終了。タイガーアイ起動、ルートの算出を開始」
「もう終わったのか、ポイントを割り振っておいて正解だったな」
即座にランプの光を消したサイカがネコ耳付きの髪留めからバイザーを下ろし、思いも寄らぬ早さに舌を巻いた翔星は照れ隠しするように頭を掻いた。
「それじゃ今回は、あの銃は持って来てないの?」
「マグナム級の駆除ではポイント不足、購入を断念」
銃を構える仕草をしたピンゾロが聞き返し、サイカは淡々と頷きを返す。
「なら、しゃーないか。うちも似たような……」
「警告、硼岩棄晶の接近を検知」
「さっそく来たか、ルートの方はどうなってる?」
複雑な表情を返して頭を掻いたピンゾロの言葉を遮ったサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、腰のRガンを抜いた翔星は進捗を聞き返す。
「算出完了、いつでも移動可能」
「では、急がねばの。キャンサー級が大勢向かってきておる」
「キャンサー級か……マグナム級も混ざってるだろうな」
手のひらの立体映像を切り替えたサイカに頷きを返したコチョウが小型ドローンからの映像を自分の手のひらに浮かべ、斑辺恵は複雑な表情を浮かべて身構えた。
「ここはオレ達に任せてくれ」
「いいのか?」
「まずは簡易結界越しに迎撃する」
持ち出した資材でバリケードを作り終えた聡羅に斑辺恵が慎重に聞き返し、入れ替わるように羽士がLバングルにハッチ周囲の略図を浮かべる。
「結界っていつまでもつんだ?」
「気にすんな、思いっ切り暴れて来いよ」
「ああ、遠慮なく行かせてもらう」
眉を顰めて聞き返したピンゾロに聡羅が静かに首を横に振り、翔星は軽く頷きを返して駆け出す。
「マスターはきちんと守るのよ」
「貴重なアドバイス、感謝する」
「当然でしょ! 必ずみんなで帰って来るのよ!」
聡羅の隣から声を掛けたカーサは、翔星の後を追いながら親指を立てたサイカの言葉に呆れながらも力強く見送った。




