第109話【禁句を口にしたのは、元Fランクの怪力男】
満場一致で宇宙船の名前が決まり、
翔星達は地球に向けて飛び立った。
「慣性を全く感じないなんて、まるでUFOの搭乗体験レポートそのままだ」
「羽士殿のデータベースに入っていたコレクションでござるな」
Lバングルに巡航速度を表示した羽士が驚きながら自分の体に触れ、隣に座った壬奈は手のひらに雑誌型の立体映像を浮かべる。
「それも読んでたんだね」
「実に読み応えのある書物でござった、地球人の視点は参考になるでござるよ」
映像を確認した羽士が諦め気味にため息をつき、映像を閉じた壬奈は腕組みして深々と頷く。
「まさか、あの記録はデータリアンの!?」
「あの書物通りに慣性を再現するよう電子天女に申請したでござる」
「やれやれ……真相はまだまだ藪の中みたいだね」
思わず大声を上げた羽士は、誇らしそうに壬奈が手のひらに浮かべた申請書型の映像に複雑な笑みを返してから首を横に振った。
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「目標を確認したよ、政之」
「小官も確認した。まさか、1日も経たずに追い付くとはね」
数時間が経過した頃にツイナが手元のレーダーを確認し、隣で火器管制パネルの確認をしていた政之も手を止めて感心しながらモニターを眺める。
「まさに、データリアン驚異のメカニズムね~」
「いよいよ俺達の出番か」
ブリッジ端の席からモニターを見ていたピンゾロが芝居がかった仕草で感心し、翔星は前方の衝角ブロックへ乗り込もうと立ち上がる。
「作戦の第一段階は熱線砲の照射と認識」
「その通りだ、もう少し待ってくれ。艦長、攻撃を開始してもいいか?」
翔星の着る外套の端を引いたサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、上から手を振った政之は引き金型の立体映像をパネルに浮かべて振り向いた。
「いや、まだだ」
「どうしたんだよ、祐路? 照準は自動、あとは引き金を引くだけだぜ?」
ブリッジの最上段に座った祐路が首を横に振り、テツラは怪訝な表情と共に聞き返す。
「テツラ、オレは釣り船に乗りたかったんだ」
「いきなり何を言い出すんだよ!?」
船長帽を目深にかぶった祐路が目の前に浮かんだパネル型の映像を動かし始め、唐突な言葉にテツラは思わず大声で聞き返す。
「海に乗り出して大物を釣りたい、その一心で釣り竿を振ってたから分かるんだ」
「だから、何がだよ?」
大声を全く意に介さない様子で祐路が映像パネルを並べ終え、苛立ち紛れに頭を掻いたテツラはトーンを抑えて聞き直した。
「夏櫛さん、このルートで回り込めるかい?」
「だからアタシの質問に答えろ!……やっぱり人間は最高だよ」
パネルの操作を終えた祐路がデータを送信し、業を煮やして声を荒げたテツラは夏櫛と共有したデータを確認して落ち着きを取り戻す。
「そうですね、テツラさん。艦長の指示した針路をとりますね」
「ああ、頼んだぜ」
密かに微笑んで座標入力を終えた夏櫛にテツラが大きく頷き、宇宙船は光る矢のように鋭角を描きながらその場を離れた。
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「指定の座標に到着しました」
「ん? 何も見えんけど?」
宇宙船を停止させた夏櫛が落ち着いた声で報告し、政之は手元のモニターを困惑気味に確認する。
「もう少しだ、すぐに動けるようにしといてくれ」
「レーダーに感あり! 近付いて来るUFO級を捉えた!」
落ち着き払った様子で祐路が指示を出し、直後にツイナが政之の隣で興奮気味に報告を上げる。
「向こうから来るって、先回りしてたのかよ!?」
「釣りと同じだよ、簡単な話だ。よし、真正面から釣り上げてやれ!」
ツイナの大声に思わず身をすくめた政之がパネルを確認してから振り向き、得意そうに船長帽を指で押し上げた祐路は勢いよく前方を指差した。
「本艦の形状は銛に類似と認識」
「そういう野暮はいいから、黙って待機しようね~」
一連の会話を聞いていたサイカが手のひらに宇宙船の立体映像を浮かべ、翔星は静かにため息をついて窘める。
「レゾンデートル全速前進!」
「すぐに見えるはずだ」
パネルを操作した夏櫛が宇宙船を加速させ、祐路は確信と共に前方を見据えた。
「あれがUFO級……」
「思ったよりでかいな」
「おかげで狙う必要も無くなったよ」
しばらくして正面モニターに映った宇宙船よりふた回り大きい光球に一同が息を呑み、政之は引き金型の立体映像をパネルに浮かべる。
「待たせたな、政之。撃ち方始め!」
「了解。艦首四連装熱線砲、一斉照射」
軽く息を整えてから指示を出した祐路に頷いた政之が立体映像の引き金を引き、正面のモニターに映った光球は一瞬で熱線に包まれた後に爆発が広がった。
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「やったか!?」
「それは禁句と習わなかったかの?」
正面のモニターを眺めていたピンゾロが勢い余って立ち上がり、コチョウは呆れ気味に窘める。
「こういう場面だと、つい言いたくなるんだよね~」
「仕方ないよ。あれだけ派手に爆発したんだ、誰だって期待しちゃうよ」
ばつが悪そうに指で頬を掻いたピンゾロが席に戻り、羽士も誤魔化すように笑いながら浮きそうになった腰を戻した。
「これで終われば、誰も危険な目に遭わずに済むからな」
「貴官の優しさは不器用」
同じくモニターを見ていた翔星が腰のRガンに手を当て、隣で俯いたサイカは密かに頬を緩める。
「それだけはサイカに同意するわ、あたしだってマスターが心配だもの」
「すまないが予想通りだ、UFO級は健在だよ」
肩まで伸びた黄褐色の髪を手で梳くように払ったカーサが聡羅の横顔を見詰め、手元の各種センサーを確認したツイナは静かに首を横に振った。
「作戦は第二段階に移行、熱線砲は続く限り撃ってくれ」
「了解した。艦首四連装熱線砲、第二射一斉照射」
大きく息を整えた祐路が指示を出し、政之は狙いを定めて引き金型の立体映像を引く。
「第一射と同じ場所に命中か、こいつはもしかすると……」
「いや、表面を少し削る程度がせいぜいだ。砲身も溶けたし、これ以上は無理だ」
モニターに映る爆発にピンゾロが色めき立つが、政之は苦々しい表情と共に首を大きく横に振った。
「やっぱり中に乗り込むしか無いのかよ」
「望むところだ、思い切りやってくれ」
小さくため息をついた祐路が手元のパネルに触れ、不敵な笑みを浮かべた翔星は力強く親指を立てる。
「はい、既に突入ルートを艦長から指示されています」
「そう言うところは頼もしいね~」
手元のパネルを確認した夏櫛が座標の入力を始め、テツラは腕組みをして何度も頷く。
「こっちはみんなの命を預かってるんだ、出来る範囲で最善を尽くすぜ」
「やっぱり祐路は最高の船長だよ」
「茶化すなよ。仕掛けが変わればポイントも変わる、早く次の座標に向かうんだ」
何度も指示を出した事でせり上がった船長帽を目深にかぶり直した祐路は、抱き着いて来たテツラに顔を赤らめながら移動の指示を出した。
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「UFO級が予測ルートに侵入した、すぐにでも飛び込めるよ」
「よし! レゾンデートル最大船速、目標はUFO級の真正面だ!」
しばしレーダーを観測していたツイナが正面モニターにUFO級の軌道を映し、祐路は右手を力強く前に振り下ろす。
「最終セーフティ解除、衝角展開。レゾンデートル、最大船速で突入します」
「敵UFO級から高エネルギー反応、奴は主砲を持っている!」
手元のパネルを確認した夏櫛が操作を開始し、光球の観測を続けていたツイナは慌ててモニターに映像を追加した。
「今の今まで隠してやがったのかよ!?」
「ゼロ番街に入って来た奴等は、すぐに分裂したらしいからね」
熱源が光球の一点へと集まる観測映像にピンゾロが驚愕の声を上げ、羽士は落ち着いた様子でLバングルに記録映像を浮かべる。
「レゾンデートルに熱線食らってもダンマリだったんだ、予想外の大物だぜ」
「本来の目標は地球か……」
震える手で船長帽を少し持ち上げた祐路が余裕の笑みを作って見せ、息を整えた政之は絞り出すように推測を呟いた。
「でも今まで地球があんな攻撃を受けた記録は無いぜ?」
「データリアンが地球に来た時には、硼岩棄晶は地球に潜伏済みだったろ?」
手のひらに記録の一覧を浮かべたテツラが首を横に振り、落ち着きを取り戻した祐路は疑問に答えるように聞き返す。
「本拠地からの増援でも無ければ、衛星軌道上から撃つのも不可能だからね」
「それもそうだね、政之は賢いな」
「ここから先は専門家の領分だ、まずは主砲を破壊する」
静かに頷いた政之を見詰めていたツイナが嬉しそうに目を細め、軽く咳払いした祐路はモニターに映った光球を指差した。
「でも、どうすんだよ?」
「中心点を塞げれば、あるいは」
「塞ぐほどの質量なんて、この艦で特攻するぐらいしか……」
指令を実行する手段が浮かばずに頭を掻いたテツラにツイナがモニターに映した光球の中央を点滅させ、夏櫛は躊躇いがちに隣の礼真を見詰める。
「よし、出来た。夏櫛、別働隊の操縦も並行で頼めるかい?」
「これくらいなら、お安い御用ですね」
手元のパネルで計算していた礼真がデータを送信し、夏櫛は安堵の笑みを返す。
「なら行けるな。艦長、許可をくれるか?」
「オッケーだ、思い切りやってくれ」
「了解。艦首四連装熱線砲パージ、敵UFO級に向けます」
振り向いた礼真から受信したデータを確認した祐路が力強く親指を立て、夏櫛は新たなパネル型立体映像を浮かべて操作を開始した。
「なるほど! 外装全部が推進装置だから、切り離した熱線砲も動かせるのか!」
「その上、砲身は溶けててもジェネレーターは健在だからね」
衝角ブロックへと向かう扉近くで待機していたピンゾロが興奮気味に声を上げ、羽士は興奮を抑え込むようにLバングルを操作して立体映像を浮かべる。
「ご名答だ。そろそろだから、ショックに備えてくれ」
「熱線砲、目標地点に到達。自爆プログラム、起動」
大きく頷いた祐路が指示を出し、夏櫛の合図と共に正面モニターが消えて艦内に僅かな揺れが走った。
「敵UFO級の主砲沈黙、でも本体の損傷は軽微だ」
「これでほぼ無傷なんて、どんなダメコンしてんだよ……」
しばらく経って復旧した正面モニターを確認したツイナが観測を開始し、祐路は力無く肩を落とす。
「だが大幅な足止めになった、おかげでコアの破壊が楽になりそうだ」
「そう言ってもらえるとありがたい、あとは翔星達に任せる」
「ああ、任せろ」
余裕の表情を浮かべて衝角ブロックの扉を開けた翔星は、気を取り直して親指を立てた祐路に軽く敬礼を返してから衝角ブロックに入って行った。




