第11話【新しい技が浮かんだのは、風の輝士械儕】
見回りを兼ねた釣りを楽しむ政之に付き添った斑辺恵は、
力を合わせて遭遇したキャンサー級の群れを駆除した。
「力を纏わせるのは先端だけでなくてもいいのですね」
「焔巳さんも収穫があって何よりだ」
キャンサー級の殲滅を確認した焔巳が自分のガジェットテイルを眺め、斑辺恵は安堵の笑みを浮かべる。
「はい、これで斑辺恵様をお守り出来ます」
「僕だって戦えるのに、ピンゾロ達も苦労してるんだろうな」
胸に手を当てた焔巳が満面の笑みを返し、斑辺恵は遠い目をして空を見上げた。
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「小官の趣味に付き合わせてしまって申し訳ない」
時は戻って昼を少し回った頃、白い詰襟の制服の上にカーキ色のコートを重ねた細身の男が焚き火の前で気恥ずかしそうに頭を掻く。
「いいって事よ、キャンプってのも結構楽しいぜ」
「同じ糧食でも景色が変われば味も変わるものじゃの」
焚き火を挟んだ反対側の大きな石に腰掛けたピンゾロが蓋を開けた缶詰を片手に笑みを浮かべ、隣のコチョウも横手に広がる湖を眺めながら缶詰の鶏飯を頬張る。
「よかったな、政之」
「ああ、いつかは本当のキャンプにも誘ってみたくなったよ」
隣に腰掛けたツイナに政之と呼ばれた男は、周囲を簡単に見回してからツイナに笑みを返した。
「ん? どゆこと?」
「結界街にも施設はあるが、蒔峯殿が言ってるのは野営じゃな」
要領を得ない様子のピンゾロが首を傾げ、しばらく空を見上げたコチョウは手のひらに立体映像を浮かべて説明する。
「今はデイキャンプが限界だけど、いずれ結界の外で夜を明かしたいと思ってる」
「このご時勢に実現出来るとしたら、異能輝士隊だけか」
「どの組織も硼岩棄晶がいては野営など出来ぬからの」
深く頷いた政之が近くに張ったテントを見詰め、ピンゾロとコチョウもそれぞれ頷く。
「政之の夢はボクが必ず叶えてみせるよ」
「ありがとうツイナ、夢に一番近い異能輝士隊は天職だよ」
同じくテントを見詰めていたツイナが優しく微笑み、視線に気付いた政之は振り向いて穏やかな笑みを返した。
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「ところでピンゾロよ、今日の訓練は何たるザマじゃ」
「しょうがないだろ、射撃は苦手なんだよ」
食事がひと段落した辺りでコチョウが手のひらに立体映像を浮かべ、ピンゾロは目を逸らして頭を掻く。
「苦手じゃからこそ、毎日の訓練が必要じゃろうに」
「硼岩棄晶への決定打にならないし、程々でいいだろ?」
逸らした視線の先へとコチョウが立体映像を差し向け、ピンゾロは両手のひらを向けて愛想笑いを返した。
「本来は異能騎士隊の保護下にない異能力の使い手に対処する訓練じゃからの」
「単躬者か。座学で聞いた事はあるけど、実在すんのか?」
追及の手を緩めたコチョウが腕組みし、ピンゾロは興味無さそうに聞き返す。
「最近は覚醒者の確保もスムーズに出来とるが、かつては多くいたそうじゃ」
「あの訓練も昔の名残って訳か」
切り替えた立体映像をコチョウが差し伸べ、一応の納得を示したピンゾロは軽く伸びをする。
「輝士械儕に人間と交戦する権限が無い以上、お主ら異能者だけが頼りじゃ」
「命令なら従うまでだ」
立体映像を消したコチョウが神妙な面持ちで頷き、表情を切り替えたピンゾロも頷きを返した。
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「さて、後片付けの前に向こうの片付けが必要だな」
「ハウンド級が3体、バット級が2体だね」
食事を終えたピンゾロが空き缶を握り潰す手を止め、ツイナも湖畔に広がる森の奥へと目を向ける。
「ありがとう、ツイナ。ここは小官達で片付けよう」
「分かった、お手並みを拝見させてもらうぜ」
落ち着いて立ち上がった政之が革手袋を右手に嵌め、ピンゾロは快諾した。
「ピンゾロがそう言うなら、こっちに来ぬか限りわしも手は出さん」
「恩に着る。行くよ、ツイナ」
ガジェットテイルを起動して緑のスパッツを穿いたコチョウも頷き、手を振って返した政之はツイナに目配せする。
「任せてくれ。ガジェットテイル起動、コネクトカバー展開」
「そいつは装備を入れるためのケースだったのか」
大きく頷いたツイナが腰に付けたテント型のケースから外套を出し、ピンゾロは得心の行った様子で頷いた。
「このケースにはボクと政之が入るテントと、この天魔空漠が入ってる」
「それでその格好なんじゃな」
水兵服の上下が消えて茶褐色のインナー姿へと変わったツイナが左肩から全身に広がる外套を羽織り、コチョウはツイナを覆う外套を興味深く観察する。
「ボクはガジェットにデータが集中したから、テイルのデータは鷹だけなんだ」
「でも綺麗に纏まっておるではないか」
「ああ。テイルにデータが集中してたら、こうはいかなかっただろうね」
外套後方の大きく開いた部分から鷹の翼状の機器を伸ばしたツイナは、感心して頷いたコチョウに照れ笑いを返した。
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「ツイナは先にバット級を、それまで小官はハウンド級を抑える」
「分かった。すぐ戻るから、無理だけはしないでくれよ」
硼岩棄晶を視界に収めた政之が上空を指差し、強く頷いたツイナは翼状の機器を広げて飛び上がる。
「当然だ。土よ、壁となれ」
『『アォッ!?』』
飛び立つ影を確認した政之は地面に手を当て、ハウンド級の進路に土の壁を作り出す。
「壁でハウンド級を分断とは、面白い事を考える」
「じゃが、バット級には丸見えじゃ。いつでも出られるようにしておくぞ」
壁に囲まれて孤立するハウンド級にピンゾロが感心し、コチョウは上空を睨んで全身のバネを溜めた。
『アギョギョギョッ!』
「極光剣、抜刀! 政之に手出しさせない!」
上空で旋回する2体のバット級が不快な鳴き声を上げ続け、柄が刀身よりも長い細身の剣を外套から出したツイナが肉迫する。
『アギョッ!?』
「逃がさないよ!」
『アギギョーッ!?』
断末魔の声と共に両断したバット級を確認したツイナは、慌てて背を向けたもう1体のバット級に斬り掛かった。
「さすがはツイナだ、小官も負けてられない」
「蒔峯殿は何をする気じゃ?」
土壁に手を当てた政之に気付いたコチョウは、慎重に身を沈める。
「俺ちゃん達の目もあるのに、輝士に任せたままには出来ないでしょ?」
「気持ちは分からんでもないが、大丈夫かの?」
肩をすくめたピンゾロが意味深長な笑みを浮かべ、静かに頷いたコチョウは尚も全身のバネを溜めるべく身を沈める。
「心配無いぜ、別に安いプライドで無茶してる訳でも無いからな」
「ピンゾロが言うのなら、もう少し様子を見るかの」
首を横に振ったピンゾロが信頼の眼差しで見詰め、小さく息を整えたコチョウは全身の緊張を解いた。
「壁よ、開け」
土壁の一部を消した政之がハウンド級の死角に回り、短刀を頸部に突き刺す。
『アォァッ!?』
「まずひとつ」
コアを破壊されたハウンド級が短い呻き声を上げて倒れ、政之は安堵のため息をついて壁の向こうを見据えた。
「土を金剛石みたいに圧縮した短刀か、面白い事を考えるな」
「壁を抜けて自在に動くから、まさに神出鬼没じゃの」
政之の攻撃手段を分析したピンゾロが感心しながら頷き、コチョウも壁の動きに関心を向ける。
『ギャィンッ!?』
「これであとひとつ……っ!」
次のハウンド級も壁伝いに死角へと回り込んでコアを刺し貫いた政之は、背後に殺気を感じて振り向いた。
『グルルル……』
「しまっ……!?」
破壊した壁から顔を出した最後のハウンド級が衝撃波を放つ構えを取り、政之は両腕で反射的に顔を庇う。
「ボクの政之に手を出すなー!」
『アォォッ!?』
だが次の瞬間、最後のハウンド級は急降下したツイナの剣に首を刎ねられて短い悲鳴と共に灰になった。
「輝士ちゃんって怒らせると怖いのな……」
「磁気を利用した溶断剣か、参考になるの」
外套に剣を納めてから政之に抱き着いたツイナを眺めていたピンゾロがどうにか言葉を絞り出し、コチョウは手のひらに出した戦闘記録を確認する。
「ん? 蹴りに極光キックとでも名付けるのか?」
「そんな安易な事はせん、極光にちなんだ名は付けるがの」
気を紛らわせようとピンゾロが横から覗き込み、首を横に振ったコチョウは含み笑いを返した。
「もう名前が決まってんのかよ」
「当然じゃ、名前が無くては必殺技にならんわ」
思わぬ回答にピンゾロが呆れ果て、コチョウは大きく頷いてから胸を張る。
「帰ったら訓練でもするのか?」
「電子天女に申請すれば、安いポイントでデータ化してくれる」
呆れた様子でピンゾロが聞き返し、コチョウは空を見上げて目を細める。
「そいつは何とも便利だね」
「地球を守る手段を増やすのじゃ、早いに越した事はなかろう?」
完全に理解を諦めたピンゾロが投げやり気味に首を振り、コチョウは悪戯じみた笑みを返した。
「上手く言えないけど、一理あるか」
「ふむ、サイカも申請するようじゃの」
止まった思考を回そうとピンゾロが頭を掻き、コチョウは手のひらに立体映像を出して申請状況を確認する。
「確か翔星と一緒にいる輝士だったよな?」
「うむ。直接顔を合わせ事は無いが、気が合いそうじゃ」
「そりゃなんとも、翔星も苦労してんだろうな」
ようやく思考が戻ってまともな質問を返したピンゾロは、満面の笑みを浮かべて頷いたコチョウの横顔を眺めながら大きなため息をついた。




