第108話【覚悟を決めたのは、全ての異能者達】
輝士械儕の秘密を知った翔星は、
今を生きる日常の大切さを噛み締めた。
「いよいよ明日は出航だ、考えて来た名前をLバングルに書いてくれ」
「多数決か、実に民主的なシステムだ」
夕食の片付けを終えたテツラが投票箱の形をした立体映像を食堂中央に浮かべ、翔星はLバングルに浮かんだ立体映像の投票用紙を指で弾く。
「誰の案が選ばれても恨みっこ無しだぜ」
「もちろんだ」
周囲を見回したピンゾロが余裕の笑みを浮かべ、祐路は自信に満ちた表情と共に名前を入力した。
「おっ? 祐路は随分と自信たっぷりじゃねーか」
「当然だぜ、少しは艦長らしいところを見せてやらないと」
異能者を取り巻く空気の変化に気付いたテツラがからかうような笑みを浮かべ、祐路は投票用紙を送信する。
「実に頼もしいね~、俺ちゃんも負けてらんないかな」
「わかったから、早う投票せぬか」
肩を震わせて笑ったピンゾロが腕まくりし、コチョウは呆れて首を振った。
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「投票、終わったみたいだな。サイカ、頼んだぜ」
「9名全員の投票を確認、集計開始」
投票箱の中身を確認したテツラがそのまま送信し、受信したサイカは粛々と票の内容を確認する。
「レゾンデートル、得票数9。以上、集計終わり」
「ふっ、まさか全員が同じとはな」
淡々とサイカが結果を読み上げ、翔星は吹き出すのを堪えながら肩をすくめた。
「しかし『存在理由』ね……随分と気障な名前が出て来たもんだ」
「2人除いて、みんなに同じ事を聞かれたからね」
検索結果を手のひらに出したテツラが呆れ気味に頭を掻き、羽士は小さく笑って周囲を見回す。
「頼りになります、羽士大先生」
「まったく、調子いいのう……」
目が合ったピンゾロが芝居がかった仕草で手を合わせ、合点の行ったコチョウは小さくため息をつく。
「本艦の名称をレゾンデートルとして申請、電子天女の承認を確認」
「上出来だ、これで準備は万端だな」
黙々と事務処理を終えたサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、テツラは親指を立ててウィンクした。
「電子天女より重要事項の通達、これより本艦はリンクより独立」
「ん? どゆこと?」
「ゼロ番街にいる輝士械儕と接続していた幸福共有を一時遮断しただけじゃ」
続けて親指を立てようとしたサイカが急に天井を見上げ、思わず聞き返したピンゾロにコチョウが簡単な図を手のひらに浮かべて説明する。
「地獄への片道切符とは、天女サマも粋な計らいをしてくれる」
「ゼロ番街もマグナム級掃討作戦が控えてるし、戦力低下は避けたいんだろうね」
得心の行った様子で翔星が不敵な笑みを浮かべ、羽士はLバングルを操作しつつ複雑な笑みを浮かべた。
「それは構わないけど、決死隊の戦力にどれくらいの影響があるんだ?」
「少しは言葉を選びなさいよ……あたし達9人のリンクで99%を維持できるわ」
興味の無い振りをした翔星が密かにサイカへと視線を向け、割り込むかのように動いたカーサが手のひらに各輝士械儕を線で結んだ簡略図を浮かべる。
「もし異能者が、ひとりでも命を落としたら?」
「輝士械儕の戦力が大幅低下、戦線の立て直しは絶望的」
艦略図を見詰めていた聡羅が慎重に聞き返し、サイカは手のひらにシミュレート映像を浮かべながら答えた。
「聞いての通りだ、これが降りる最後のチャンスだぜ」
「愚問だな、小官にだって意地はある」
腰に手を当てたテツラが重いため息をつき、代表するように政之が首を振る。
「ボクはこの身に変えても、必ず政之を守ってみせるよ」
「あたしだって、絶対にマスターは守ってみせるわ」
政之の肩をツイナが抱き寄せた、負けじとカーサも聡羅の腕に抱き着く。
「異能者の保護は輝士械儕の絶対義務と認識」
「当然よ、絶対にみんなで生きて帰るんだから」
手のひらに隊規を浮かべたサイカが小首を傾げ、カーサは肩まで伸びた髪を掬うように払って胸を張る。
「話がまとまったのなら、もう寝ようぜ。休息も異能者の大事な任務だ」
「貴官も速やかな休息を推奨」
「仕方ない、ダメ押しの充電に付き合いますか」
一連のやり取りを見守っていたテツラが寝室の方へと親指を向け、期待に満ちた笑みを浮かべるサイカに袖を引かれた翔星は軽く肩をすくめて寝室へ向かった。
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「全員席に着いたか?」
「はい、推進機能は良好です」
翌朝、三段に分かれたブリッジの上段に位置する艦長席の隣側に座ったテツラに下段の夏櫛が頷きを返す。
「レーダーも正常に動いてる」
「火器管制システムも問題無い……のだが、これはどうにかならないかな?」
「どうしたんだい、政之? 顔が赤いけど、熱でもあるのかい?」
中段で計器の確認を終えたツイナは、隣でぎこちなくパネルの操作をする政之にそっと顔を近付けた。
「い、いや……ちょっと想像してたのと違うかなって」
「今さら何言ってんだ? 輝士は異能者がいないと能力を発揮できないだろ?」
「逆に礼真は、よく落ち着いていられるな」
言葉を濁しつつ目を逸らした政之は、夏櫛の隣で平然とパネルを操作する礼真に複雑な表情を向ける。
「そうかい? 小さい頃からこれが普通だったぜ?」
「はい、それに愛は人間が持つ最大の武器ですから」
全く理解出来ない様子で首を横に振った礼真が余裕の笑みを返し、静かに頷いた夏櫛は礼真の腕に抱き着いた。
「いきなり愛とは唐突だな」
「電子天女は、再現出来ないデータを実践で取得する方針」
「だからって、こいつは直接的にも程があるだろ」
衝角ブロックにつながる扉近くの椅子に座っていた翔星は、隣で手のひらに立体映像を浮かべるサイカに呆れてため息をつく。
「ところで艦長さん、俺ちゃん達はここに座ってていいのか?」
「当然だ、突入部隊と防衛部隊は体力を温存してもらわないといけないからな」
「それに艦の制御も席から離れられませんので」
同じく扉近くの椅子に座っていたピンゾロがブリッジの上層に向けて手を振り、力強く親指を立てた祐路に続いて下段に座る夏櫛が微笑み掛ける。
「だったら、祐路達が一番危険じゃないか」
「いざとなったら衝角ブロックを切り離して脱出できますから」
「そりゃ心強い事で」
思わず立ち上がろうとしたピンゾロは、着席を促すために差し出した手のひらに3色に分けた宇宙船の画像を浮かべた夏櫛に芝居がかった仕草で肩をすくめた。
「そろそろいいか? システムオールグリーン、いつでも行けるぜ祐路艦長」
「やっぱり言わなきゃダメか?」
パネル型立体映像の確認を終えたテツラがデータを物質化した船長帽を手渡し、祐路は躊躇いがちに受け取る。
「もちろんだ。それが艦長の役目ってもんだぜ」
「わかったよ。レゾンデートル、発進!」
事も無げに頷いたテツラに覚悟を決めて船長帽を被った祐路が右腕を力強く前に振り、宇宙船『レゾンデートル』は静かにゼロ番街から飛び立った。




