第105話【日常<raison d’être>に気付いたのは、元Fランクの怪力男】
UFO級駆除作戦の確認を終えた翔星達は、
作戦決行の前日に1日だけの休暇をもらった。
「おはよ~、昨夜はお楽しみだったかい?」
「「そ、それは……」」
「随分と進展したみたいだね~、待機任務の時とは大違いだ」
気さくに手を振ったテツラは、食堂に入るなり同時に口を噤んだ斑辺恵と焔巳に豪快な笑みを浮かべる。
「回り道だったのは否定しないよ」
「その調子だ、とりあえず飯にしようぜ」
「かしこまりました、お手伝いしますね」
ため息をついた斑辺恵に満足そうな頷きを返したテツラが備え付けのキッチンに親指を向け、軽くお辞儀をした焔巳は割烹着のデータを実体化させる。
「助かる、しばらく焔巳を借りるぞ~」
「少々お待ちくださいませ、斑辺恵様」
「ああ、よろしく頼むよ」
悪戯じみた笑みを浮かべたテツラと柔らかな微笑みを浮かべた焔巳がキッチンに入り、斑辺恵は躊躇いがちに手を振って見送った。
「こっちだ、斑辺恵。今回も出番なしだ」
「仕方ないよ、ただでさえ輝士全員入れないんだし」
丸テーブルに並べられた椅子のひとつに腰掛けていた翔星が手招きし、向かいに座った斑辺恵は静かに首を横に振る。
「うむ、わしも腕を振るえなくて残念じゃ」
「おかげさんで美味い手料理が食えるってね」
隣で腕組みをしたコチョウが頷き、更に隣のピンゾロは肩を震わせて笑った。
「どういう意味じゃ? ピンゾロ」
「そ、それにしても立派な食堂だね~、とても宇宙船とは思えないぜ」
「まったく、お主は……じゃが、これも電子天女の意向じゃからの」
ジト目で睨み付けたコチョウは、大慌てで話題を変えたピンゾロにため息をつきながら手のひらに立体映像を浮かべた。
「俺達を気遣ってこれなら、ちょいと過保護過ぎやしないか?」
「図鑑で見た事のあるロケットの内部くらいでよかったよ」
戸惑いながら食堂を見回した翔星が呆れ気味に頭を掻き、斑辺恵もLバングルに画像を浮かべながら静かに首を横に振る。
「宇宙ロケットは各国の最大機密、完全再現は誠意を欠くと電子天女は判断」
「それで古典を再現するなんて、やはり天女サマの考えは分からんよ」
翔星の隣からサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、翔星は理解を諦め切った表情を浮かべて首を横に振る。
「逆に人間だけでこのレベルに追い付くには、どれくらいかかるのやら」
「すぐには無理でも、いつかは出来る。人間の想像力に限界は無いからの」
遠い目をしたピンゾロが床に固定されたテーブルの支柱を軽く撫で、静かに首を振ったコチョウは余裕の笑みを返した。
「いつか、ね……」
「言いたい事は分かるよ、キッド・ザ・スティング」
「心配しなくていいぜ。俺の手には余るし、関わる気もねえ」
冷めた目で肩をすくめた翔星は、隣のテーブルでガジェットテイルを起動しようとしたツイナに手のひらを向けてから愛想笑いを返す。
「助かるよ。ボクもサイカくんを泣かせたくないからね」
「ん? 何の話だい?」
「政之の幸福を守っただけだよ」
緊張を解いたツイナは、皆目見当が付かない様子の政之に顔を近付けてから顎を人差し指で持ち上げつつ満面の笑みを浮かべた。
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「ごちそーさん、美味かったぜ」
「おそまつ様、今夜はコチョウの当番だから楽しみにしておけよ」
箸を置いて手を合わせたピンゾロが食器をキッチンへと持って行き、中から受け取ったテツラは芝居がかったお辞儀をしてから悪戯じみた含み笑いを返す。
「聞こえてたのかよ……」
「当たりめーだ、自分の輝士械儕は大事にしろよ」
「分かってるよ……」
言葉を詰まらせたピンゾロは、不機嫌そうな表情を返したテツラの強い視線から逃げるように目を逸らして力無く頭を掻いた。
「テツラ殿、それくらいで勘弁してくれぬかの?」
「本人が言うなら、この話はここまでだ」
「恩に着るぜ、コチョウ先生。それで、これからどうするよ?」
ピンゾロの後ろから顔を覗かせたコチョウに毒気を抜かれたテツラが満足そうな笑みを浮かべ、安堵のため息をついたピンゾロは話題を切り替える。
「見ての通り、今日の俺は監視付きだ。2人は好きにしてくれ」
「そう言われてもね……」
外套を掴むサイカに視線を落とした翔星が大袈裟に肩をすくめ、斑辺恵は複雑な笑みと共にLバングルの操作を始めた。
「特に予定が無いなら、釣りにでも行かないか?」
「なんだか懐かしいな、でも釣りが出来る場所なんてあるのか?」
「中心街も迎撃区画とは湖で区切ってる仕組みなんだ」
釣竿を持つ仕草をした祐路は、頬を綻ばせながらも首を傾げた斑辺恵に中心街の地図を浮かべたLバングルを見せる。
「なるほど、そういう事か。自分は行くけど、ピンゾロはどうする?」
「俺ちゃんは遠慮しとくぜ」
得心の行った様子で頷いた斑辺恵に声を掛けられたピンゾロは、小さく首を横に振ってから大きく伸びをした。
「では、拙僧が同行してもよろしいですかな?」
「もちろん、かまわないぜ」
「それじゃ、さっそく行こうぜ」
入れ替わるように声を掛けて来た蔵に祐路が快く頷きを返し、テツラは予め持ち込んでいたクーラーボックスを抱えて食堂を出る。
「俺達も行くか」
「了解した、同行する」
「いってらっさ~い」
斑辺恵達を見送った翔星とサイカも立ち上がってから出口に向かい、ピンゾロは大きく手を振って見送った。
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「みんな行ったね」
「羽士と礼真はどっか行くの?」
一気に人影が消えた食堂を羽士が見回し、ピンゾロは残った2人の異能者に聞き返す。
「いや、僕は宇宙船を見て回るよ。こんな機会は滅多に無いし」
「僕達の主戦場になるからね、今のうちに勝手を知っておきたいんだ」
好奇心を抑え切れずに礼真が立ち上がり、続いて立ち上がった羽士とブリッジの方へと向かった。
「確かに面白そうだ、俺ちゃんも付き合うぜ」
「では、ワタシがご案内を……」
「待つのじゃ、夏櫛殿」
俄然興味を持ったピンゾロも後を追ってブリッジに向かい、呼び止めようとした夏櫛の水兵服の袖をコチョウが掴んで首を横に振る。
「あの、コチョウさん?」
「男子の探険にわしらが出張るのは野暮というものじゃ」
「それもそうですね、ワタシ達は今のうちに仕事を済ませてしまいましょう」
慎重に聞き返した夏櫛は、再度首を横に振って言葉に含みを持たせたコチョウに得心の行った笑顔を浮かべて頷いた。
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「確認と言っても、この艦は至ってシンプルなブロック構造なんだ」
「前部がUFO級に乗り込む衝角ブロック、後方がさっきまでみんなでいた食堂を含めた居住ブロック、その中間がブリッジのある操舵ブロックだ」
ブリッジに入った礼真がLバングルに宇宙船の立体映像を浮かべ、自分のLバングルを操作した羽士は立体映像を透過して3色に分ける。
「ちょっと待ってくれ、エンジンはどこにあるんだい?」
「外部装甲全体が推進装置なんだ、だから自由自在に方向転換も出来るんだよ」
しばらく立体映像を眺めていたピンゾロが聞き返し、礼真は立体映像を外観図に戻してから飛行シミュレート映像を再生した。
「これじゃどっちがUFOか分からんね~」
「確かにそうかもね」
鋭角を描く光の直線を眺めていたピンゾロが呆れ気味に呟き、礼真は思わず吹き出す。
「次は衝角ブロックに行ってみよう、僕とピンゾロには特に重要な場所だ」
「おっけ~」
ブリッジ前方にある金属扉に親指を向けた羽士にピンゾロが親指を立てて応え、一行は移動を開始した。
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「衝角がUFO級に突き刺さったらここのハッチが開いて、ピンゾロ達が突入する算段になってる」
「後は戻って来るまで、僕達が艦を防衛する手はずだ」
重厚な金属の壁に囲まれた部屋へと入った礼真が前方側面を指差し、羽士は腰に下げたケースに入ったスコップに手を当てる。
「それって開けっ放しになっちまうのか?」
「簡易結界が作動するから、しばらくは持つよ」
面白くない様子でピンゾロが聞き返し、羽士は曖昧な笑みを返す。
「そっか……あまり時間をかけられないね~」
「某もいるから、大丈夫でござるよ!」
軽く頷いたピンゾロが自分の手を見詰め、突然天井から顔を出した壬奈が自信に満ちた笑みを浮かべながら着地した。
「やっぱり先回りしてたんだね……」
「それは、その……」
Lバングルに宇宙船の見取り図を浮かべた羽士が天井のハッチと見比べ、壬奈は視線を逸らして口ごもる。
「あまり責めないでくれるかの? これも羽士殿を思っての事じゃ」
「二重チェックは基本ですから」
続くように天井から下りて来たコチョウが手のひら向けて首を横に振り、最後に下りた夏櫛は柔らかな微笑みを浮かべる。
「別に責めるつもりは無いよ。ここは僕達の持ち場だし、一緒に確認しようか?」
「承知したでござる!」
頬を緩めた羽士が部屋の前方を指差し、壬奈はは満面の笑みを浮かべて頷いた。
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「内扉にバリケードがせり上がる仕掛けまである、さすがは電子天女だ」
「某が自在に飛べるなんて、狭いながらも特殊な造りでござるな」
天井や床を確認していた羽士が小さく唸り、ガジェットテイルを起動した壬奈は背中のロケットで部屋の中を飛び回りながら感心する。
「操舵ブロックからも援護をするから、この艦が落ちる事はそうそう無いよ」
「そういや政之の土壁って、宇宙船の中で使えるのか?」
自分達が入ってきた扉に親指を向けた礼真が腰のRガンに手を当て、ピンゾロは確認の場にいない異能者の能力を気に掛ける。
「ご安心を、全属性の異能力を最大限発揮できるようにしてありますから」
「そいつは助かるぜ、俺ちゃんも張り切れそうだ」
柔らかな物腰でお辞儀をした夏櫛が手のひらに立体映像を浮かべ、安堵の笑みを返したピンゾロは大きく伸びをした。
「ピンゾロ達の任務が一番危険なんだ、艦は絶対に守ってみせるよ」
「某も全力を尽くす所存でござる」
「やれやれ。みんなが好き勝手に言ってたら、何が何だか分からなくなるよ」
力強く親指を立てた礼真と同じタイミングで壬奈が鼻息荒く頷きながら着地し、羽士はLバングルを操作する手を止めて笑いを堪える。
「なんだかね~。この戦いが終わったら、毎日がこんなに賑やかになるのかね~」
「うむ、これが電子天女の夢見る未来の日常じゃよ」
「未来の日常を守る、か……それが俺の存在意義なのかもな」
近くの壁へと寄り掛かったピンゾロは、隣に寄り掛かったコチョウの言葉を噛み締めるように頷いてから天井を見上げた。




