第104話【口が滑ったのは、元Fランクの風使い】
宇宙船へと移動した翔星達は、
各自の役割を確認し合った。
「話をまとめると、俺達は動き回るUFO級のコアを破壊すればいいんだな?」
「その通りだ、さすがはキッド・ザ・スティングだぜ」
「この体の異能者は通常の呼称を好む」
Lバングルの確認をした翔星にテツラが満足そうに頷き、サイカは間髪入れずに訂正を促す。
「さすがは翔星だ、輝士械儕を大事にするんだぜ」
「何か意味が違って聞こえるぞ……言われなくても大事にはしてるつもりだ」
素直に名前で呼び直したテツラが含み笑いを浮かべ、曖昧な笑みを返した翔星は決意に満ちた視線をサイカに送った。
「貴官はこの体よりも自分の体を大事にすべきと具申」
「言いたい事は分かってる……善処はするけど、期待すんなよ」
目が合ったサイカが真剣な眼差しを返し、翔星はばつが悪そうに頭を掻く。
「サイカもマスターの心が分かってきたみたいね」
「カーサの助言に感謝」
「あなたを放っておいたら輝士械儕の沽券に係わるじゃないのよ」
肩にかかる黄褐色の髪を掬うように払ったカーサは、笑みを返したサイカと目が合って恥ずかしそうに頬を指で掻いた。
「ちょっといいかい? コアを破壊したらUFO級も消えるんだよな?」
「ゼロ番街に入ったUFO級は全て分裂したが、他の硼岩棄晶と同じじゃろうな」
タイミングを見計らいつつ手を挙げたピンゾロが慎重にモニターを指差し、隣で頷いたコチョウは手のひらに記録映像を浮かべる。
「だったら駆除した後、俺ちゃん達は宇宙に放り出されるよな?」
「まあ、そうなるかの。コネクトカバーがあるから安心せい」
「さすがは輝士サマ、どこまでも離れられないね~」
モニターに映った光球の外へ指を移したピンゾロは、懸念を理解して含み笑いを返したコチョウに芝居がかった仕草で肩をすくめた。
「もしコネクトカバーの圏外に出ても、制服には宇宙服の機能があるぜ」
「そいつは初耳だ。まあ、宇宙空間に出るなんて考えもしなかったからな」
続けて察したテツラが手のひらに白い詰襟制服の立体画像を浮かべ、翔星は呆れ気味に袖や裾に視線を落とす。
「ちょっと前までは本部の周囲に湧いた硼岩棄晶を駆除してただけだものな~」
「気楽な独り身だったのが随分と昔に思えるよ」
目の高さまで袖を上げたピンゾロが力強く拳を握り、懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵も複雑な笑みを浮かべる。
「斑辺恵様!?」
「ゴメン、焔巳さん! そんなつもりで言ったんじゃないんだ!」
「ご安心ください、斑辺恵様の幸せが私の幸せですから」
両手を口で押さえて瞳を潤ませた焔巳は、慌てて弁明する斑辺恵に余裕を含めた満面の笑みを返した。
「とうとう鎌鼬の斑辺恵も年貢の納め時か」
「言うなよ、それが自分達の運命だったんだから」
2人のやり取りを見ていた祐路が大きく肩を振るわせながら笑い、斑辺恵は自嘲気味に頭を掻く。
「運命か、違いねえ! アタシも祐路とは運命の出逢いだからな!」
「だからクマのハグは洒落にならないって!」
斑辺恵の言葉に頬を緩めたテツラが勢いに任せて祐路を抱き上げ、悲鳴にも似た祐路の声が揺れながらブリッジに響いた。
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「話を戻そうぜ、今回はどうしても翔星達の負担が大きいのは否定出来ない」
「構わん。動き回るコアを確実に捉えられるのは、俺の闇だけだろうからな」
満足そうに笑っていたテツラが真剣な表情に切り替わり、目が合った翔星は事も無げに余裕の笑みを返す。
「予想通りの返答に感謝するぜ」
「それに、侵入者の排除と宇宙船の破壊のどちらを重視するかはUFO級次第だ」
複雑な表情を返したテツラがため息をつき、入れ替わるように羽士がモニターに映った光球に宇宙船の画像を重ねた。
「確かに宇宙船の守りも重要な任務だな」
「ああ。宇宙船の守りは任せてくれ」
納得した翔星が頷きを返し、聡羅は折り畳みスコップを入れた腰のケースに手を当てて親指を立てる。
「UFO級はマグナム級を主軸にした迎撃を展開と予測」
「突貫で新種を作る可能性もあるだけど、重要なのはマグナム対策だね」
手のひらに新型硼岩棄晶の立体映像を浮かべたサイカがモニターに転送し、目を閉じて腕組みをした斑辺恵は慎重に頷いた。
「そういや聡羅達は、マグナム級とどう戦ったんだ?」
「オレ達は羽士のアローウォールのおかげで、秒単位だが躱す時間を稼げた」
思い出したように翔星が聞き返し、羽士に親指を向けた聡羅はLバングルに記録映像を浮かべる。
「僕達と同じだね。政之がいなかったら、今ごろ病院送りだったよ」
「ん? もしかして、もしかすると?」
興味深く映像を眺めていた礼真が自分のLバングルに映像を浮かべ、ピンゾロは驚いた様子で政之と礼真を交互に指差した。
「ああ、小官は礼真と祐路の2人とチームだった」
「3人とも元Fランク組の知り合いだったから、話題には事欠かなかったぜ」
否定する事無く政之が頷き、祐路も思い出し笑いを堪えながら頭の後ろへと手を回す。
「そこまで息がぴったりなら安心だ」
「文字通り、大船に乗ったつもりで暴れてくれていいぜ」
思わぬ巡り合わせに口を軽く緩めた翔星が肩をすくめ、祐路は余裕の笑みと共に力強く親指を立てた。
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「作戦開始は明後日。それまで各自で鋭気を養ってくれ」
「養うのはいいけど、今夜の寝床はどこになるんだい?」
カウントダウンタイマーをモニターに映し出した祐路が緊張に強張っていた体を解し、ピンゾロは大きく伸びをしてから聞き返す。
「この艦の寝室を使ってくれ。残りは最終調整だから、設備は問題無く使える」
「宿舎の寝室とまではいかないけど個室だし、快適な睡眠は保障するぜ」
モニターを宇宙船の見取り図に切り替えた祐路が最後尾の区画を点滅させ、入れ替わるように説明を続けたテツラは親指を立ててウィンクする。
「随分と至れり尽くせりだね、想像とは大違いだ」
「ちなみに防音も完璧だぜ」
「それは助かります。必ず斑辺恵様に最高の癒しを提供いたしますね」
充実した設備に感情が追い付かない様子の斑辺恵にテツラが含み笑いを浮かべ、焔巳も隣から猛禽類のような眼差しを向けた。
「大事な決戦が控えてるんだ、お手柔らかに頼むよ」
「はい、最高のコンディションに仕上げましょう」
控え目に頭を掻いた斑辺恵が言葉を慎重に選び、焔巳は満面の笑みを返す。
「ははっ……ありがたい話だね……」
「すっかり板についてるな、しっかり可愛がってもらえよ」
愛想笑いを絞り出した斑辺恵が力無く肩を落とし、豪快に笑ったテツラは力強く親指を立てた。
「お互い大変だな。明日は丸1日休暇だし、中心街で羽を伸ばして来いよ」
「個人的には、別の迎撃区画に残った硼岩棄晶の駆除をしたいんだが」
「却下だ、休むのも異能者の仕事だぜ」
複雑な笑と共にモニターをタイマーに戻した祐路に翔星が要望を切り出し、入れ替わるようにテツラが首を横に振る。
「明日は貴官が休息を取れるよう、この体が見張る必要があると判断」
「サイカくんだけでは心配だな、ボクも一緒に行こう」
「うちのツイナが済まない、小官も同行させてもらうよ」
翔星の外套を掴んだサイカにツイナが両手を広げて微笑み、諦め気味にため息をついた政之は覚悟の表情を浮かべる。
「何だか頼りないわね、あたしも着いて行くわ。いいでしょ、マスター?」
「許可を取るならオレより翔星だろ?」
「今さらだな。構わん、好きにしろ」
力強く首を振ったカーサに上目遣いで許可を求められた聡羅が頭を撫でて親指を向け、翔星は慣れた様子で肩をすくめた。




