第102話【出世を祝ったのは、元Fランクの風使い】
異能輝士隊の内情を理解した翔星は、
電子天女の配慮に素直に感謝した。
「そろそろ本題に戻るぞ?」
「ああ。どこに行けばいい?」
「急くな、時影。まだ準備中だ」
ブリーフィングルームの正面で軽く咳払いした充木は、腰のRガンに手を当てた翔星に手のひらを向ける。
「準備中? どゆこと?」
「皆さんにはUFO級硼岩棄晶を駆除してもらいます」
頭の後ろへと手を回したピンゾロが聞き返し、ヒサノは宇宙空間に浮かぶ光球の画像を正面スクリーンに映し出した。
「UFO級って、何だか俗っぽい名前だね~」
「他に誰も候補を出しませんでしたので、鵜埜さんの案を採用いたしました」
組んでいた手を解いたピンゾロが腕組みをしてから首を横に振り、ヒサノは手のひらに申請書型の画像を浮かべて微笑む。
「ありゃま~、ちょいと迂闊だったか?」
「分かりやすくていいじゃないか」
「違いねえ」
大袈裟な仕草で額に手のひらを当てたピンゾロは、からかうように笑う斑辺恵に親指を立てて返した。
「それで、どうやってあのUFOに乗り込むんだ?」
「今回の作戦に向けて建造していた宇宙船に乗り込んでもらいます」
軽く息を整えた翔星がスクリーンの光球を指差し、光球を縮小したヒサノは船の形状をした記号を浮かべてから矢印で結ぶ。
「なるほど。いい作戦じゃないか、分かりやすくて」
「しかし宇宙船とはね~」
一瞬面を食らった翔星が口元を緩めて余裕を取り戻し、腕組みをしたピンゾロは曖昧な表情と共に天井を見上げる。
「元よりわしらの服装は船に乗るためのものじゃ、何も不思議はあるまい」
「そういえば前にもそんな話を聞いたな、とんだ伏線回収になっちまったぜ」
自らの着る水兵服の襟をコチョウが軽く引き、頭を掻きながら記憶の整理をした翔星は呆れ気味にため息をついた。
「でもその宇宙船……いくらなんでも自分達だけでは動かせないよね?」
「情報生命体の技術により、操作は輝士械儕が担当します」
「輝士に動いてもらうには、異能者が不可欠だがな」
慎重に口を開く斑辺恵に微笑んだヒサノがスクリーンの画像を切り替え、横から充木が悪戯じみた笑みを浮かべる。
「それじゃ今回も充木隊長が?」
「安心しろ、今回は本部でバックアップだ」
「いや、そんなつもりで聞いたんじゃ……」
塩を掛けた青菜のように顔を引きつらせたピンゾロは、つまらなそうに首を横に振った充木に慌てて愛想笑いを取り繕う。
「充木隊長は皆さんだけを危険な任務に送り出すのが不満なんですよ」
「聞こえてるぞ、ヒサノさん」
「あらあら、この話はここまでですね」
ピンゾロに近付いて小声で事情を説明したヒサノは、わざとらしく咳払いをした充木を横目で確認してから口元に手を当てて微笑んだ。
「こいつは、お暇した方がいい空気だな」
「気を遣わせてすまん。時影翔星、斑辺恵、鵜埜戒凪、以上3名は輝士械儕と共に宇宙港区画に向かってくれ」
「了解した、これより乗船任務に就く」
見慣れた空気を察して立ち上がった翔星は、手にしたタブレット端末を操作して辞令を通達した充木に敬礼を返してから出口に向かう。
「宇宙船はまだ準備中だ。他の異能者もいるから、今のうちに仲良くしとけよ」
「善処する」
タブレット端末の操作をしながら軽口を投げた充木に翔星が背を向けたまま手を振り、一同はブリーフィングルームを後にした。
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「転移装置の正常な作動を確認、港湾区画に到着」
「あれが宇宙船か、礼真が見たら喜ぶだろうな~」
転送ゲートを抜けたサイカが周囲を確認し、翔星は港湾施設から突き出た部分が見える黒い流線形の物体を指差す。
「そうだね、さっきから興奮しっぱなしだよ」
「なるほど。翔星が工業区画に興味を持ったのは、礼真のためだったんだね」
翔星達の背後から眼鏡を掛けた男、隹戸礼真が声を掛け、隣に立つもうひとりの眼鏡の男、祀波羽士は納得しながら頷いた。
「もしかして礼真と羽士か!? 無事だったのか!」
「何とかね、これも翔星の戦いを間近で見てたおかげだよ」
「お役に立てたようで何よりだ」
聞き覚えのある呼び声に振り向いた翔星は、右腕に軽く振れながら余裕の笑みを作った礼真に安堵の笑みを返す。
「それでも2人とも生兵法だから、戦力としてはアテにしないでくれよ」
「羽士も無事で何よりだ、まさか礼真と知り合いだったとはな」
Lバングルに軽く振れた羽士が首を横に振り、頷きを返した翔星は並んだ2人に交互に目を向ける。
「いや、礼真とはついさっき知り合ったばかりだよ」
「それで意気投合するなんて、大したもんだよ」
曖昧な笑みを浮かべた羽士が肩をすくめ、思わず視線を逸らした翔星は誤魔化すように頭を掻いた。
「もしかして翔星ちゃんが待機任務中にお世話になってた異能者かい?」
「隹戸礼真、雷使いだ。怪力のピンゾロに鎌鼬の斑辺恵だろ?」
背後から翔星の肩に腕を回したピンゾロが屈託の無い笑みを浮かべ、簡単に自己紹介をした礼真は納得を確信に変えるべく聞き返す。
「その通りだ。まさか俺ちゃんの名前がそこまで有名だったとはね~」
「自分もだよ、これが広まってるなんて思いもしなかった」
否定する事無く頷いたピンゾロが頭の後ろで手を組み、斑辺恵も慎重に頷きつつ懐から竹とんぼの羽を取り出した。
「細かい紹介は後回しでいいね。今回は艦のメンテ全般を担当する事になった」
「夢が叶ったようで何よりだぜ」
はやる気持ちを抑え切れずに視線を宇宙船へと向けた礼真が腰の工具入れに手を当て、翔星は素直に賛辞を返す。
「ああ。夏櫛達は先に行かせてるんだ、とりあえずブリッジに行こうか」
「そうだな、よろしく頼む」
照れ笑いを浮かべながら親指を宇宙船へと向けた礼真に翔星が頷き、一同は港湾施設に向かって歩き出した。
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「邪魔するぜ~。それで艦長さんは、っと」
「なあ、テツラ。やっぱりここに座らないと駄目なのか?」
「当たり前だろ。祐路以上に船に詳しい異能者はいないぜ?」
軽いノリでブリッジに入ったピンゾロは、落ち着かない様子で中央の椅子に座る背丈の低い男、祐路の頭を撫でる背の高い輝士械儕のテツラを確認する。
「あらま、随分と頼り甲斐のありそうな輝士ちゃんで」
「見る目があっていいじゃないか、あんたが斑辺恵の話してたピンゾロだね?」
軽口を叩いたピンゾロに気付いたテツラは、不敵な笑みを浮かべて手を振る。
「その通り、俺ちゃんがピンゾロだぜ。よろしくな、逞しい輝士ちゃん」
「アタシはテツラ、こっちは異能者の祐路だ」
「山源祐路、水使いだ。今回はこの宇宙船の艦長をやる事になった」
軽く名乗ったピンゾロが手を振って返し、テツラと祐路も名乗りを返した。
「祐路も夢が叶ったんだな」
「からかわないでくれよ……全員揃ったんだし、まずは自己紹介と行こうぜ」
ピンゾロの後ろから顔を出した斑辺恵が肩を小さく震わせて笑い、釣られて笑い出した祐路は軽く手を振ってから周囲を見回す。
「その前に、ひとつよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ、焔巳?」
遮るように焔巳が小さく手を挙げ、テツラは気さくに聞き返す。
「今いるこの宇宙船に名前は無いのでしょうか? 電子天女に何度アクセスしても名称が見付かりませんし……」
「先に説明した方がよさそうだな……祐路、頼んだ」
手のひらに一覧表を浮かべた焔巳が天井を見上げ、大袈裟に頭を掻いたテツラは説明を祐路に委ねた。
「この宇宙船は今回の作戦のために造られたばかりだから、名前がまだ無いんだ」
「普通は名前くらい付いてるだろ?」
慣れた様子で事情を説明した祐路が複雑な笑みを浮かべ、斑辺恵は釈然としない様子で聞き返す。
「でもここは異能輝士隊、異能者の想像力が戦力を左右する」
「それって、つまり……」
首を横に振った祐路が腰のケースに手を当て、ピンゾロは考えを纏めようと息を呑む。
「祐路達、この作戦に参加する異能者に名付けて欲しいんだ」
「期限は出航前だから、あと2日ってことになるかな」
「そいつはまた、随分と重大な任務になりそうだ」
神妙な面持ちで頷いたテツラに続いて祐路がLバングルにカレンダーを浮かべ、翔星は呆れ気味に肩をすくめた。




