第101話【感謝したのは、元Fランクの闇使い】
新種の硼岩棄晶を駆除した翔星達だが、
戦線崩壊の報を聞いて撤退指示に従った。
「だいぶ遅れちゃったね」
「申し訳ございません、斑辺恵様。荷物の圧縮に手間取ってしまって」
「ゴメン、焔巳さん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
本部に到着した斑辺恵は、後ろで頭を下げた焔巳に慌てて両手を向ける。
「荷物の圧縮なぞ一瞬じゃろ? 何をそんなに手間取ったのじゃ?」
「「それは、その……」」
「相分かった、みなまで言うな」
横から不思議そうな顔で聞き返したコチョウは、顔を合わせて口を噤む斑辺恵と焔巳に目を細めて静かに頷いた。
「ふっ、それに今回は出遅れて正解だったろうな」
「いつぞやの分断作戦と同じか……」
「ああ、あの時も方針が決まるまで待たされた」
最後尾で余裕の笑みを浮かべた翔星は、振り向いて慎重に呟いたピンゾロに軽く頷きを返して天井を見上げる。
「電子天女より通達、行動可能な異能者と輝士械儕は所定の位置に集合」
「ナイスタイミングだ、行こうぜ」
続いて天井を見上げてから手のひらに映像を出したサイカに翔星が肩をすくめ、一同は移動を開始した。
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「ここか、地球の本部と同じで助かったぜ」
「やっぱり、お前らは無傷だったか」
「充木隊長!? 隊長も無事だったのか!」
軽口を叩きながらブリーフィングルームの扉を開けて入ったピンゾロは、呆れと安堵の入り混じった表情で出迎えた充木に驚きの声を上げる。
「いや、本部との連絡要員と後詰めの兼任だ」
「ふっ。ここまで見事な采配とは、恐れ入谷の何とやらか」
軽く首を横に振った充木が乱雑に通信機が置かれた隅の机に親指を向け、翔星は得心の行った様子で肩をすくめる。
「ん? どゆこと?」
「確実に無傷な俺達を指揮できるのは、充木隊長だけって話だ」
「そこまで分かってるなら話は早い、まずは空いてる席に着いてくれ」
思わず聞き返したピンゾロに翔星が不敵な笑みを浮かべ、小さくため息をついた充木は椅子と机の並んだ室内に手を差し伸べた。
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「知ってのとおり、今我々の置かれてる状況は最悪だ」
「重傷者が多く、ゼロ番街の医療施設はほぼ満室状態です」
部屋の正面に立った充木が重々しく口を開き、隣に立つ輝士械儕のヒサノは手のひらに浮かべた映像を正面のスクリーンに映す。
「二階級特進が出なかったのは、不幸中の幸いか」
「輝士械儕による応急処置がありましたので」
Lバングルに一覧表を浮かべた翔星が複雑な表情を浮かべ、ヒサノは画像を切り替えて微笑んだ。
「そっか。今回は分断されてないから、それほど深刻でも無いのか」
「とはいえ、新種の登場で初日からこのザマだ」
隣からピンゾロが納得の表情を浮かべて頷き、充木は静かに首を横に振る。
「それだけの準備を硼岩棄晶もして来たって事だ」
「これまで築き上げて来た戦術を一瞬で崩されるなんてね」
Lバングルの画像を切り替えた翔星が不敵な笑みを浮かべ、ピンゾロと反対側に座った斑辺恵は複雑な表情を浮かべる。
「おそらく100年かけて騙して来たんだろうさ」
「コネクトカバーを無効化する硼岩棄晶の出現は、電子天女も予測していました」
溢れ出しそうになる感情を抑え込んだ翔星が腰のRガンに触れ、同意するように頷いたヒサノは手のひらの画像を切り替えて正面のスクリーンに映した。
「それで発想跳びの訓練をしてた訳か」
「ついでに言えば、俺達がしてきた無断外出の黙認もだろ?」
スクリーンを見詰めていた斑辺恵が頷きながら視線を落とし、つま先で軽く床を蹴った翔星は不敵な笑みを浮かべる。
「コネクトカバー以外に異能者を守る手段が電子天女には想像出来ませんでした」
「異能者側もコネクトカバーが当たり前になって、想像力が働かなかった訳か」
スクリーンの画像を切り替えたヒサノが浮かない表情を浮かべ、斑辺恵は自分の右手を眺めながら小さく頷いた。
「樹海で白い意識と合流できたのは、異能輝士隊には僥倖でした」
「でなけりゃ俺ちゃん達の真似事をする羽目になってた訳ね」
再度画像を切り替えたヒサノが心持ち頬を緩め、ピンゾロは足に風を流してから小さく肩で笑う。
「マニュアル化は試作段階でしたが、発想跳びへのスムーズな転換が出来ました」
「そこまで褒められると、ちょいとこそばゆいね~」
「調子に乗るなよ、鵜埜」
スクリーンに画像を追加してから微笑むヒサノにピンゾロが頭を掻きながら照れ笑いを浮かべ、充木は小さく咳払いする、
「おっと、いけね」
「まあいい、今後の方針を説明する」
視線に気付いたピンゾロが芝居がかった仕草で身をすくめ、諦め混じりに眼光を緩めた充木は強い意志と共に部屋全体を見回した。
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「今後の、って。各迎撃区画のマグナム級を駆除するだけでは無いのか?」
「そっちは結界で足止めすれば、どうにか出来る。問題なのは、こっちだ」
怪訝な表情を浮かべた翔星が聞き返し、充木はスクリーンを操作して宇宙空間に浮かぶ光球を映し出す。
「こいつは? UFOがまだ残ってたの?」
「元より、全部をゼロ番街に誘い込めないのは想定済みだ」
眼鏡の蔓に手を掛けたピンゾロが目を見開き、充木は光球が映ったスクリーンを人差し指で軽く弾いた。
「当初は主要戦力をゼロ番街に誘い込み、宇宙に残る予備戦力を別働隊で駆除する作戦を予定していました」
「だが、この戦線崩壊だ。戦える異能者を掻き集めての総力戦になる」
スクリーンの画像をゼロ番街と光球との位置関係図に切り替えたヒサノが矢印を交えて説明し、静かに首を振った充木は光球に向かう矢印を重々しく指差す。
「総力戦? まさか、他の国の異能者も参加すんの?」
「いや、作戦はあくまで我が国の異能者だけだ。他国の異能者は全て、各々の国の防衛に専念してもらってる」
Lバングルに地球の立体映像を浮かべたピンゾロが軽く指で弾いて回し、充木は静かに首を横に振った。
「あらら……何でまた?」
「どの国も電子天女と反りの合う候補が少なく、異能者の覚醒も多くありません」
「異能者が10人もいない国ばかりで、多くても100を超えない有り様だ」
おどけるような仕草で聞き返したピンゾロにヒサノが複雑な笑みを返して俯き、充木も棒グラフをスクリーンに映してため息をつく。
「だからと言って、天女サマ自ら薄い本を布教する訳にもいかないものな~」
「実に鵜埜らしい発想だな。布教も無しに大規模な戦力を展開出来る我が国には、どこも遠く及ばんよ」
Lバングルに浮かべた地球の立体映像を軽く回したピンゾロが肩で笑い、曖昧な笑みを浮かべた充木は棒グラフの端に天井まで届く程の棒を追加した。
「逆に言えば最終防衛線はパーペキ、それに個々の想像力が物を言う異能輝士隊で面倒な問題はゴメンだぜ」
「想像のありようも大きく変わるじゃろうからのう」
Lバングルに世界地図の画像を浮かべた翔星が指で軽く弾いて回し、ピンゾロの隣から顔を覗かせたコチョウが腕組みをして深々と頷く。
「お互いにステレオタイプの押し付け合いになってただろうし、俺達はちょんまげ結って刀を振り回してただろうな」
「俺ちゃんも、青竜刀やらバールのようなもんを振り回す連中と仲良くやってける自信は無いな~」
地図を閉じた翔星が両手で刀を握る仕草を見せ、ピンゾロは大きく肩を震わせて笑う。
「国境は多様な想像力の維持に有効と電子天女は判断した」
「ふっ、今だけは天女サマの采配に感謝だな」
手のひらに世界地図を浮かべたサイカが地域ごとに線で囲み、密かに頬を緩めた翔星は弾む気持ちを誤魔化すようにサイカの頭を軽く撫でた。




