第100話【振り下ろしたのは、元Fランクの怪力男】
襲来した硼岩棄晶を迎撃していた翔星だが、
新型硼岩棄晶の存在に苦戦を強いられていた。
「勢いよく飛び出しちまったけど、何か策はあるのかい?」
「俺はある、2人は下がっててくれないか?」
振り向いて宿舎前に佇む輝士械儕の影を確認したピンゾロが勢いよく宙を蹴り、翔星は用心金に指に通したRガンを軽く回す。
「翔星らしいな、自分も付き合うよ」
「マグナム級がどう動くか分かんねえだろ? こうなりゃ一蓮托生よ」
慣れた様子で笑みを返した斑辺恵が竹とんぼの羽を指に挟み、ピンゾロも周囲の空気を掴まんとばかりに力強く拳を握る。
「どうやら準備は出来てるようだな、一気に行くぞ」
「ああ、やっと翔星に追い付いたよ」
「おうよ! 奴等にひと泡吹かせてやるぜ!」
緩む口元を見せないようにRガンを撃って加速した翔星に合わせて斑辺恵とピンゾロも加速し、3人は連続で空を蹴りながら目的地へと跳躍を続けた。
▼
『『グオォォ……』』
「おっと、奴等が俺ちゃん達を狙ってるマグナム級か」
「どうやら、ひとりにつき1体が担当するみたいだね」
カニ型の硼岩棄晶を確認したピンゾロが距離を取りながら着地し、斑辺恵も隣で慎重に動きを観察する。
「タイマン勝負とか、向こうは番長でも出張って来たんかね~」
「だが話は早い、この勝負に乗ってやろうぜ」
芝居がかった仕草と共に手のひらを額へと当てたピンゾロが冗談めかして笑い、前へと躍り出た翔星は不敵な笑みと共にRガンを構える。
「賛成~、俺ちゃん狙いのマグナム級はこっちだせ!」
「ならば、自分も!」
『グォーッ!』『グォォオーッ!』
両脚のバネを溜めたピンゾロと手のひらに爆風を起こした斑辺恵が左右に大きく跳び、2体のマグナム級も2人を追ってそれぞれ駆け出した。
「ふっ! 残ったあんたが俺の相手か」
『グォォー!』
不敵な笑みを浮かべた翔星が正面に向かって跳び、斑辺恵達を追わずにその場に残ったマグナム級がハサミから集束した火炎弾を放つ。
「オーバーサークル! 同じ手を食うか!」
『グォーッ!』
Rガンを指で回して闇の円刃を作った翔星が火炎弾を後方に受け流しながら横に跳び、標的が射線に入らないと判断したマグナム級は脚を忙しなく動かし始めた。
「遅い! Rガン、ダブルファイア!」
『グギャォァーッ!?』
後方で着弾した火炎弾の爆風に乗って跳び上がった翔星がRガンの回転を止めて素早く引き金を2回引き、マグナム級の両眼を焼き飛ばす。
「容赦はしない……闇よ!」
『グォオアォーッ!?』
「駆除完了。コアの位置が同じなら、あいつらも心配ないな」
間髪入れずに左手を振って闇を広げて仄かに光るコアを闇の針で貫いた翔星は、即座に闇を消してからバイザーを僅かに指で押し上げて安堵の笑みを浮かべた。
▼
「ここでいいかな?」
『グォーッ!』
「狙いが正確で助かるよ、逆手鎌鼬」
宙を蹴りながら振り向いた斑辺恵が指に挟んだ竹とんぼの羽を手のひらに乗せて振り、マグナム級の放った火炎弾を切り裂いて掻き消す。
『グォ!……グォッ!?』
「狙撃用の眼では、発想跳びを追えないみたいだね」
再度狙いを付けようとしたマグナム級の頭上を飛び越えた斑辺恵は、手のひらに乗せた竹とんぼの羽を再度指で回して元に戻してから軽く振る。
『グァォッ!?』
「逆手のままでは切れないんだよな~、当面は使い分けるしかないか」
瞬く間に爆ぜて消えた高圧縮の炎にコアを焼き切られたマグナム級が灰となって散り、斑辺恵は竹とんぼの羽を指で回しながら静かに息を整えた。
▼
「さて、そろそろ真打ちの披露と行きますか……」
『グォォオー!』
足を止めてから振り向いたピンゾロにハサミを向けたマグナム級は、体の僅かな揺れと共にずれる中心点を逃さず狙いを定めながら火炎弾を撃つ。
「甘いぜ! 真空金剛腕!」
『グォァアッ!?』
手のひらを前に向けたピンゾロが火炎弾を掴んで投げ返し、全く予期せぬ反撃を受けたマグナム級はハサミを砕かれて悲鳴にも似た声を上げた。
「上手く行った。さて、カニちゃんをどう料理するかねぇ……!?」
『『グルルァーッ!』』
「取り巻きが戻ってきやがったのか!?」
予想以上の成果に気を良くして肩を回したピンゾロは、土煙を上げるアント級の群れに気付いて慌てて身構える。
「ライドハーケン、シュート!」
『『グルァァーッ!?』』
直後に頭上から響くコチョウの声と共に衝撃波が駆け抜け、最前列のアント級を大きく薙ぎ払った。
「助かったぜ、さすがはコチョウ先生だ」
「お主は油断し過ぎじゃ。もういっちょ、ライドハーンじゃ!」
空に向かって親指を立てたピンゾロが再生を続けるマグナム級の方に目を向け、緑色のマフラーから翅状の機器を広げたコチョウは再度衝撃波を蹴り放つ。
「ちょうどいい! ライドハーケン・真っ向唐竹割りー!」
『グオオォォーッ!?』
タイミングを合わせつつ跳び上がったピンゾロが衝撃波を両手で掴んでから宙を蹴って落下速度を上げ、掴んだ衝撃波を振り下ろしてマグナム級を両断した。
「まさかわしのライドハーケンにあんな使い道があったとはの」
「あはは、咄嗟の思い付きだ」
軽やかに着地したコチョウが2つの小さな山となった灰を呆れ気味に眺め、ピンゾロは照れ臭そうに頭を掻く。
「それでも上出来じゃ。さて、残りの硼岩棄晶を駆除するかの」
「おっけ~、もうひと踏ん張り行きますか」
腕組みをして深々と頷いたコチョウが翅状の機器を広げて飛び立ち、ピンゾロも大きく膝を曲げて跳び上がった。
▼
「周囲に敵影なし」
「どうやら切り札は、マグナム級だけだったらしいね」
ネコ耳の付いた髪留めからバイザーを下ろしたサイカが周囲を見回し、斑辺恵も記録をLバングルに残す。
「この分だと、追加も来そうに無いな」
「やれやれ、翔星先生は消化不良かよ」
「そのうち来るんだし、今は休もうぜ」
淡々とRガンを腰へと戻した翔星に慣れた調子でピンゾロが肩で笑い、斑辺恵も複雑な笑みを浮かべて宿舎に親指を向けた。
「電子天女より通達、至急本部に帰還せよとの事」
「ここまで用意した前線基地を初手で放棄なのかい!?」
突然空を見上げたサイカが手のひらに緊急通告の画像を浮かべ、斑辺恵はLバングルを操作する手を止めて不満を口にする。
「斑辺恵様の……いえ、異能者の命には代えられません」
「それに勝利したのはここだけのようじゃからの」
水兵服姿に戻った焔巳が静かに首を振り、コチョウも腕組みをして頷いた。
「あ~……言われてみれば、他は苦戦して当たり前か」
「戦線の瓦解は思った以上に深刻なのか?」
しばらく自分の手のひらを眺めたピンゾロが軽く頭を掻き、翔星は慎重に言葉を選んで聞き返す。
「うむ、二階級特進が出なかったのが不幸中の幸いじゃ」
「そこまでなのか……」
腕組みをしたまま頷いたコチョウが静かに首を横に振り、翔星は言葉を失う。
「ここで話し合っても仕方ないし、早いとこ荷物をまとめようぜ」
「そうだな、ほぼ無傷の俺達なら硼岩棄晶は駆除し放題だ」
「あらら~、何とも前向きな事で。俺ちゃんも地獄の底まで付き合いますか」
気を取り直すべく伸びをした斑辺恵に頷きを返した翔星が不敵な笑みを浮かべて宿舎に向かい、ピンゾロも軽く肩を回してから後を追った。




