第99話【撃ち抜かれたのは、元Fランクの闇使い】
心の傷を抱えたまま訓練に臨んだ翔星は、
サイカの献身に少しずつ心を開く覚悟を決めた。
「電子天女より通達。硼岩棄晶の誘導を開始、現時刻を持って迎撃態勢に移行」
夕食の片付けを終えた頃、団欒室にてデータの整理をしていたサイカはしばらく天井を見上げてから手のひらに立体映像を浮かべる。
「ようやく来たか。それで、あと何分で戦えるんだ?」
「迎撃区画への誘導は12時間後の予定」
「明日の朝か……」
隣でRガンの手入れをしていた翔星は、映像を切り替えたサイカに複雑な表情を返す。
「かなり待っちまうな」
「いや、休息と準備の時間が充分に取れるのは結構な事だ」
「さすがは翔星ちゃん、頼りにしてるぜ」
部屋の隅で筋トレをしていたピンゾロに翔星が余裕の笑みを返し、一同は翌日に備えて解散した。
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翌朝、一同は宿舎正面に集合した。
「電子天女より通達。硼岩棄晶の99%をゼロ番街への誘導に成功、間もなく迎撃区画に到着」
「言ってるそばから来なすったみたいだぜ」
空を見上げたサイカが通達画像を手のひらに浮かべ、サングラス型のバイザーを掛けた翔星は口元を緩めて遠方を指差す。
「あんな遠くに着地させるなんて、まさに天女サマ様ね~」
「ビジョンホッパー射出、キャンサー級とアント級のようじゃの」
靴底に出した異能力で距離を確認したピンゾロが軽く肩で笑い、左腰の筒を手に取って小型ドローンを飛ばしたコチョウは撮影した画像を手のひらに浮かべる。
「低級硼岩棄晶ばかりなのか?」
「まずは様子見と言ったところだろう」
共有した映像をLバングルに出した斑辺恵が眉を顰め、同じ映像を確認していた翔星はバイザー越しに空を見上げた。
「これは?……キャンサー級に妙な反応が混ざっています」
「見たところでは、外見の違う硼岩棄晶はおらぬようじゃの」
黒い額当てに意識を集中した焔巳が感知した熱源画像を手のひらに浮かべ、該当箇所をドローンで撮影したコチョウは睨み付けるように見比べる。
「自分でも熱の違う硼岩棄晶がいるのは分かる、ただの様子見じゃないかもね」
「確かに、今までとは違う音が混ざってるような気がするな」
意識を集中した斑辺恵が遥か遠くの影を見据え、再度足元に意識を集中したピンゾロも同じ方向を見据えながら頷きを返す。
「そいつは面白い。鬼が出るか蛇が出るか、まずはお手並み拝見と行きますか」
「標的はカニとクロアリに類似した形状と認識」
「あのな……まあいい、行くぞ!」
不敵な笑みを浮かべながらRガンを地面へと向けた翔星は、淡々としたサイカの指摘にバランスを崩した勢いを利用して跳び立った。
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『『グルルルゥ……』』
「アントが攪乱してる間に、キャンサーが後方からナパームか」
誘導地点に遥か手前に着地した翔星は、広大な草原を慎重に哨戒する巨大なクロアリに似た硼岩棄晶を見て布陣と作戦を推測する。
「先にキャンサーと行きたいが、やはりアントが障害になるな」
「やっぱりアントから片付けるしかないみたいね」
後方に控えている緑色のカニのような硼岩棄晶を見据えた斑辺恵が手前に視線を戻し、ピンゾロも哨戒を続けるアント級を睨み付けた。
「ならばここは、わしの出番かの」
「アント級を速やかに駆除、進路を確保次第キャンサー級の駆除」
「火炎弾は私達のコネクトカバーで防いでください、今しばらく待機を」
前に出ながら緑色のマフラーから翅状の機器を広げたコチョウに続いてサイカが脚部の推進装置を起動し、隣で振り向いて微笑んだ焔巳も赤い翼を広げる。
「こっちの返事も聞かずに飛びやがって……こっちも跳ぶ準備だけはしておくぞ」
「おっけ~」「もちろんだ」
あっという間に上空に消えた3人の影に呆れた翔星が地面にRガンを向け、ピンゾロと斑辺恵もそれぞれ体のバネを溜めた。
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「ライドハーケン、真空二段返しじゃ!」
『『グルァーッ!?』』
飛行したままキックと共に衝撃波を放ったコチョウが反動で生じた回転に任せて更なる衝撃波を重ね、先頭を歩くアント級が崩れ去る。
「柩連焔刃、ニードルモード!」
『『グルゥェェ……ッ!?』』
後方に下がったコチョウと入れ替わった焔巳が手にした円盤状の武器から大量の火花の針を降らせ、敵襲に気付いて振り向いたアント級が次々に灰となった。
「虎影灯襖虚、起動。瑞雲、出力上昇」
『『グルァァァーッ!?』』
隙を突いて低空飛行をしていたサイカが手にした懐中電灯から光の刃を伸ばし、閃光の如く飛び回って残ったアント級を切り伏せる。
「さすがはお姫さん達だ、瞬く間にアント級が消えてくぜ」
「火炎弾を出す前に行くぞ!」
「あらら~、今日は一段と張り切ってるね~」
足元へと意識を集中していたピンゾロは、言葉少なにRガンを地面に撃って跳び立った翔星を見送ってから足のバネを溜めて跳び上がった。
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『グォォー!』
「間に合わなかったか! 仕方ない、コネクトカバーに……!?」
肉迫したキャンサー級がハサミを前に突き出し、輝士械儕にダメージを肩代わりさせる機能に渋々頼る決断をした翔星が飛んで来た火球に弾かれる。
「コネクトカバーを貫いたじゃと?」
「瑞雲出力最大。被弾者の保護と治療を優先」
「大袈裟だな~。咄嗟にオーバーサークルを使ったから、ほぼ無傷だよ」
周囲のアント級を駆除していたコチョウが慌てて振り向き、光の矢のように飛び込んだサイカに抱きかかえられた翔星は引き金に指を掛けたRガンを見せた。
「まさかの隠し玉だったとはね」
「電子天女より通達、以降は新型硼岩棄晶をマグナム級と呼称」
「誰が付けたか、いいセンスしてるぜ」
危険を察知して大きく後方へと跳んだピンゾロは、翔星を抱きかかえたまま立体映像を手のひらに浮かべたサイカに肩をすくめてから再度大きく後方に跳ぶ。
「まずは下がって策を練り直す。焔巳さん、頼む!」
「かしこまりました。柩連焔刃、ニードルモード!」
爆風を使って後方に跳んでいた斑辺恵が空を見上げ、上空で周囲を警戒していた焔巳はサイカに向かうキャンサー級に火花の針を降らせる。
『『グォっ!?』』
「今だ! 焔巳さん!」
「はい! 斑辺恵様!」
上空からの奇襲に足を止めたキャンサー級を確認した斑辺恵の手を焔巳が掴み、一同は宿舎周辺まで後退した。
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「龍仙光、照射」
「だから大袈裟だな~、こんなのかすり傷にもならないぜ?」
青い球体を取り付けた左手の装甲をサイカが掲げ、青い光を浴びた翔星は瞬時に消えた小さな傷痕を複雑な表情で見詰める。
「翔星さん、ここは素直に治療を受けてください」
「わ、分かった……サイカ、ありがとな」
背後から焔巳が力強い視線を向け、背筋に冷たいものが走った翔星はぎこちない笑みをサイカに向けた。
「それにしても、アントとキャンサーを囮に使うなんてね」
「しかも確実に異能者を狙って来る」
「まさに、木を隠すなら森の中って訳ね」
Lバングルで記録を確認したピンゾロは、同じくLバングルを起動して火炎弾の軌道を計算した斑辺恵に心底参った様子で頭を掻く。
「このまま宿舎まで退くのも手じゃぞ?」
「いくら頑丈な結界だって、あの攻撃力は未知数だぜ」
後方に親指を向けたコチョウが含み笑いを浮かべ、ピンゾロは静かに首を振る。
「なら、マグナム級を駆除するまでだ、サイカ、何体いるか分かるか?」
「推定質量、熱量、行動速度から3体と推測」
「異能者ひとりにつき1体か、随分と気の利いた配置じゃないか」
完治した傷を確かめていた翔星は、バイザー越しに硼岩棄晶を確認したサイカに不敵な笑みを返してからRガンを抜いて跳び上がった。
「そいじゃ、いっちょ荒野の決闘と洒落込みますかね」
「手のうちが分かれば、こっちのもんだ」
何度も宙を蹴って空に消えた翔星を目で追ったピンゾロが足のバネを溜め、手のひらに爆風を起こした斑辺恵と共に跳び上がる。
「あ、斑辺恵様」
「こうなったら聞かぬのが、うちの男子達じゃ。今は支えるしか無かろう」
手を伸ばして呼び止めようとした焔巳の短い着物の裾を掴んで止めたコチョウが静かに首を横に振り、2人は同時に無言で飛行機能を展開した。




