小さなエリザベス
むかしむかし。
このせかいには、たくさんの、「ちがう」ものたちがおりました。
「ちがう」ものたちは、それぞれの「ちがい」から、おたがいをしんじあうことができずにいました。
なぜなら、ちがうものたちにとって、「ちがう」は「こわい」だったからです。
とは、ラーマ王国の学校で習うお話の一節。
ラーマ王国は各国との交易によって発展した国である。交易による立国は、さまざまな文化の流入を招いた。
開明的な当時の国王はあらゆる知識を集めて、人種間の差別を禁じた。
「耳の長い者も短い者も、鼻が長い者も短い者も、尻尾がある者もない者も、皆同じく我らの民だと」
その言葉に、これまで忌避されてきた者は喜んだ。
そして現在、多くの人種がラーマ王国で暮らしている。
王都シヴァは私の庭だ。幼い頃は悪ガキどもを引き連れて走り回ったものだ。
良くも悪くも雑多な街、毎日どこかで事件が起きた。
私はその度に駆けつけては見物したり、首を突っ込んだりしていた。
「たっ大変だ!街道に軍隊狼の群れが出た!」
なにっ!?行かねば!
まるで矢のようにすっ飛んで行く私。
門を出てすぐに獣の唸り声と喧騒が聞こえてきた。
商人の荷車が軍隊狼に襲われている!商人達は必死に剣で応戦しているが、軍隊狼の数と速さに全くついていけない。
嗚呼、一人倒れた!騎士の到着はまだ!?
そうこうしているうちに、一人、また一人と商人達が押し倒されていく。
私は居ても立っても居られず、全速力で走った。誰も私の接近に気づかない。
ドカッッ
商人を組みふしている狼の1匹を蹴り上げる。
口から血を撒き散らしながら狼が飛んでいく。
周囲の狼が私に気づき威嚇する。
私は微笑みを讃えつつも狼どもを挑発する。
「バーカ、バーカ、犬っころー」
こういう魔物はたいてい知能が高い。人の言葉を解してるわけではないが、十中八九、この挑発は効く。
予想通り一斉に飛びかかってきた。
私はそれらを嘲笑うかのように、ヒラヒラと身を交わす。
そしてほとんどの狼が私に釣られたところで速度を上げ、商人達から離れる。
「これぐらいならいいか」
私は立ち止まり、拳大の岩を拾い上げる。そして
ボコォ
握り潰した。
狼どもが迫ってくる。
私は細かく握り潰した石を狼の群れ目掛け放る。
ビシィっドカッッキャィンッ
先頭集団が弾け飛ぶ。間髪入れずもう一投。
ブシィッギャヒッ
狼達は仲間が肉塊へと変わっていくことに恐怖し、やがて散り散りに逃げ出した。
商人達のもとへ戻ると、皆私を見て怯えていた。何故だ?とりあえず挨拶してみよう。
「やぁ、大丈夫だった?」
すると
「ア、アンタ、何者だ?」
そう訊いてきた。
「エリザベスだよ」
素直に答える私
「い、いやそういうことでなく」
困惑する商人
なんかヘンだな。小首を傾げる私。
「とっとにかく、助かったよ。お、お礼をしたいんだが、いくらほど・・・?」
「お礼!?」
「あ、ああ」
まさかお礼がもらえるとは!?目を輝かせる私。
そして腕を組み、何事か考えるように眉間に皺を寄せて、
「ぎ、銀貨一枚!!」
ズビシッという擬音が鳴るかのように指を一本立てる。
「そ、それだけで、いいのか?」
「じゃあ二枚!」
指を増やす。
「は、はいよ」
「そ、それじゃあ私達はこれで・・・・」
そう言ってそそくさとその場を後にした。
突然な臨時収入に舞い上がっていると、街の門から騎士達が駆けつけてくるのがわかった。
マズイッ
思わず商人達を助けてしまったが、騎士隊に顔を見られるのだけは絶対に避けなければならなかった。
もうグレイ兄さんに騎士の修行と称してボコボコにされるのは嫌だ!
私はフードを目深に被り、さりげなく門番の騎士に挨拶しつつ街に戻った。
街中が未だ混乱冷めやらぬ中、私は一人、ヨランダの店に向かった。
ヨランダの店は涼しいからな。
ヨランダ曰く
「これは古くからエルフに伝わるいにしえの秘宝なんじゃよ」
ほんとか〜?
「で、今日は何しに来たんじゃ?また涼みにか?」
半眼で問う。
「ふっふっふー、今日はお金を持ってるのだ!」
自慢げに胸を張ってみる。
「いくらじゃ?」
ヨランダは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「なんと、銀貨二枚!」
私は銀貨をヨランダに見せびらかす。
「ほほう、金持ちじゃのう」
「うん!軍隊狼をやっつけたお礼に貰ったんだ!」
「ほう、軍隊狼にの?」
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「どうしたの、ヨランダ?」
「誰かの手伝いで倒したのか?」
ヨランダは固まってる
「うん、商人さん達の」
首肯する
「ほう、その商人達はよっぽど強い護衛を雇っていたんじゃのう」
「え?みんな大して強くなかったよ?群れのほとんどを追い払ったの私だし」
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「ふむ、ところでご家族は元気かの?」
なんか寒気がした。