冬の星座のトライアングルと私達のトライアングル
夜空に輝く冬の大三角形が好き。
いつも3つ並んでいる。まるで私達みたいだ。
「お待たせ、美咲」
振り返ると彩香が立っていた。後ろにはサトシもいる。
「遅い。どうしたの?」
「彩香が宿題見せてくれないからノート奪ったら、上履きで頭を思いっきりひっぱたかれて、」
ちょっとしたじゃれ合いのつもりが、予想以外の反撃を受け、サトシはシュンと落ち込んでいる。
「そこを先生に見つかって、こういう所から大きな事件になっていくってお説教。サトシの所為でね」
いやいや二人とも悪い。暴力ダメ絶対。それは怒られて当然だ。
「うんで、ふたりは仲直りしたの?」
ばらばらのタイミングで返事。目も合わせない。まだわだかまりがあるみたいだ。
「なんだ、なんだ。握手して仲直りせい。そうしたら、サトシには私のノートみせて、彩香にはモンブランおごっちゃう」
彩香が「いいの?」と目を輝かしてきて、脊髄反射のようにサトシの手を取る。我ら幼馴染はふたりが喧嘩したら、もうひとりがきっちり仲裁する。そうやって時間を積み重ねてきたのだ。
ふたりにファミレスでモンブランとノートをお見舞いして帰宅した。
いまは冬の大三角形を検索している。
ペテルギウスはオリオン座。シリウスはおおいぬ座。プロキオンはこいぬ座。
私達の誰がどの星座なのか考えて遊んでいる。
すると珍しくスマホが鳴り出した。サトシから電話だった。LINEじゃなくて電話なことに少し胸がざわめく。
「ゴメン。いま、いいかな」
その声は何処か思い詰めていた。
「あのさぁ、美咲は彩香のこと、どう思っている」
不意な質問に言葉が詰まる。
「俺さぁ、彩香のノート取った時、見ちゃったんだ。美咲について一杯かいてあってさ。どうも美咲の事、すっ……、俺、彩香のことが好きなのに」
それだけ言って、電話が不意に切れた。
唖然としていると、彩香からLINEが来た。グループLINEじゃなくて直で。
“明日、話したいことがあるの。放課後、時間ちょうだい”って。
返事に困って既読スルーしたまま、逃げ込むようにさっきの冬の大三角形の検索ページを見ていると、ペテルギウスが暗くなり、いつ爆発してもおかしくないって記事が出て来た。
ペテルギウスがヤバいらしい。冬の大三角形がピンチらしい。
ずっと三人で居たいと思っているのに。
でも私だって、窓ガラスに映るこの顔は、サトシが彩香を選んだことに哀しいでいる。
私達はみんなオリオン座で、ペテルギウスを抱えている。