9035K列車 分かっているはず
あさひサイド
2台の車に分乗して、国道273号線を上川方面へと走る。しばらく北に向かって走って行くと国道の両脇が変に広くなる部分にさしかかる。主に進行方向右側に多くの車が駐車している。ナンバーは札幌・帯広・北見・釧路と様々だ。
車は右にウィンカーを出し、脇のスペースが終わりにさしかかる辺りでハンドルを切って止まる。
NPO職員1「タウシュベツ川橋梁ツアーの出発地に到着しました。今扉開けますね。」
そう言い、職員さんは外に降りて車のドアを開けてくれた。降りると同時に「国道を走るトラックには気を付けてください。ここは直線になっててスピード出しやすいんですよ。」と教えてくれた。その解説を待っていたと言わんばかりに糠平の方へ向かって大型トラックが走り去る。確かに、かなりのスピードを出していた。走りやすいというのは間違いなさそうだ・・・。
車の後ろのドアを開けてスノーシューとスティックを職員さんがてきぱきと並べていく。私もテル君もスノーシューとさっき言われた青色のスティックを手に取った。
あさひ「テル君、付けられる。」
輝「まぁ、思い切り引っ張って鍵に引っかければ良いだけだからね。結構簡単だね。」
テル君はもう右足の分のスノーシューを付け終わっていた。
あさひ「早いなぁ。私のも手伝ってくれない。」
輝「僕よりもNPOの人に付けて貰った方が良いんじゃない・・・。」
あさひ「うーん・・・正論。」
10人全員のスノーシューの付け方を職員さんが見て回り、全員の確認できたら林の中へと足を踏み入れた。
林の中には既に道みたいに雪に溝が続いていた。しばらく歩いていると木が生えていない筋が一本通っている部分にでた。私はすぐにここがなんなのか分かった。士幌線の跡だ。
NPO職員1「皆様。ここまで歩いてきましたが、左をご覧ください。」
それにツアー参加者全員の目が左を向く。
NPO職員1「それでは右をご覧ください。」
今度は目線が右を向いた。
NPO職員1「ここは国鉄士幌線の跡です。今向いている方向が糠平方面。左が終点の十勝三股方面です。今皆様が経っているところも士幌線。これから行くタウシュベツ川橋梁も士幌線です。ここに2つ士幌線が通っているんですが、皆様何故2つ有るか分かりますか。」
と聞いてきた。それに私はチラッとテル君を見た。
輝「新線と旧線。」
とボソッと言うだけ。分かってるくせにそれじゃ聞こえないでしょうが。そう言ってやりたい。
NPO職員1「どうですか。」
一人をさして聞いてきた。
ツアー客1「・・・貨物線と旅客線ですか。」
NPO職員1「貨物線と旅客線。うーん、違います。他には。貴方どう考えますか。」
ツアー客2「えっ、なんだろう。」
結構知らない人多いんだなぁ・・・って言ってもそれは当然か。私もテル君に教えられるまでここに鉄道線が走っていたことも知らなかったわけだし。本来、自分が生まれるよりも前に廃止された鉄道線の存在を知っていることの方がおかしい。
NPO職員1「これ何でかご存じの方いらっしゃいますか。」
と今度は全員に振ってきた。私は肘でテル君のことをつつきながら、
あさひ「知ってるんだから答えなさいよ。」
輝「・・・知ってるのはそっちも同じでしょ。」
NPO職員1「おっ、いかがですか。」
あさひ「えっ・・・。」
聞こえていたみたい。
あさひ「えっと、新線と旧線ですよね。」
あっ、何か恥ずかしい。
NPO職員1「新線と旧線。はい、その通りです。ここにある2つの士幌線は走っていた時代が違います。今、皆様が経っている部分の士幌線は昭和30年から廃止される昭和62年まで使われていた線路です。実際に鉄道がここを通っていたのは昭和53年なので20年くらいしか鉄道は通っていませんでした。これから行きますタウシュベツ川橋梁の方は昭和14年に開業しました。その後ダム建設でこちらの線路に移ってきたのでタウシュベツ川橋梁の方は15年くらいで役目を終えています。もう水の下に沈んでいる時間の方が長くなっています。」
と解説してくれた。テル君からしてみれば常識なんだろうけど・・・。
一通り解説が終わると、士幌線新線跡から離れ再び森の中へと足を踏み入れる。3~4分歩き続けると視界が開け、辺りに真っ白な大地が広がる。
糠平温泉郷に入る前に私達を出迎えてくれた大型のダム。糠平ダムが作る人造湖、糠平湖である。