9032K列車 人消えた郷
あさひサイド
帯広でレンタカーを借り、1時間45分くらいかけて糠平まで来た。少し時間がかかっているのはテル君が雪道の運転に慣れてないことと途中で橋梁を写真に収めていたからだ。確か、第三音更川橋梁と第四音更川橋梁だっけ・・・。音更川を越える橋って言うのはそんなにあったのか・・・。
右にダムが見えてから通るトンネルを抜けると糠平温泉郷に入る。ホテルの近くにある駐車場に車を止めた。
輝「すいません。予約してた輝ですが。」
受付「はい。少々お待ちください。・・・輝真太様、本日より2泊、2名でのご宿泊でお間違いないでしょうか。」
輝「はい。間違いないです。」
その間、私はホテルのロビーを見回した。見た目の古さって言うのは所々に見られる。しかし、それが逆に良い味を出している感じだ。
輝「ところで家族風呂って言うのは。
受付「有りますよ。予約されますか。本日は何時からでも予約が可能ですが・・・。」
あさひ「・・・。」
テル君が部屋の鍵を持って戻ってくると
あさひ「テル君。ここに家族風呂があるの知ってて予約したでしょ。」
と悪態をついた。
輝「そんなことないって。カウンターに書いてあったからもしかしたらって思っただけだよ。」
あさひ「・・・怪しい・・・。」
輝「怪しくない、怪しくない。」
あさひ「・・・。」
納得は出来ないけど、テル君はどこか隠し事してるような感じでもない。・・・チッ、このくらいなら見抜けるのになぁ・・・。
ホテルに荷物を置いてから、私達はまた車で出掛けた。糠平温泉郷から更に旭川方面に車を走らせる。前に糠平に来た時に見た幌加駅跡を通り過ぎ、更に山奥へと進む。幌加温泉の案内を後にすると人の営みは完全に消えた。
輝「あっ、ここだ。」
強くブレーキをかけ、道を外れた。
あさひ「何、いきなり。」
輝「いや、ここだったんだなぁと思って。」
テル君はそう言いながら、私の方を指さす。そっちの方向を見ると見慣れた駅名標が経っていた。平仮名で「とかちみつまた」と書いてある。
あさひ「こんな所にも鉄道が来てたのね。」
輝「よくここまで鉄道通したと思うけどね。」
それは確かに・・・。辺りは開けているが、その周りは原生林が広がっているだけだからねぇ・・・。昔はこんな山奥に1500人住んでいたらしいけど、今は見る影もない。いや、見る影はこの変に開けた空間か・・・。
あさひ「昔は旭川の方まで繋がる予定だったんだっけ。」
輝「そうだよ。」
あさひ「流石にここから旭川まで繋がっても、誰が使ったのかなぁ。前に体よくここら辺の鉄道を切り離したって意味が分かる気がするわ・・・。」
輝「でしょ。・・・まぁ、使う人はいたんじゃないかな。便利ならね。」
刺さる言葉だ。今の世の中便利じゃ無きゃ利用されない。それが例え公共交通であろうと。しかし・・・、
輝「寒そうだね。早くホテル戻ってお風呂で暖まろうか。」
私が腕をさすっているのを見て、テル君はそう言った。車から降りた時一緒にコートを羽織っておくべきだった・・・。だが、それよりも・・・。
あさひ「・・・やっぱり家族風呂知ってたでしょ。」
輝「何でバレた。」
そんな嬉しそうな顔されたら嫌でも分かってしまう・・・。でも、私も甘いなぁ・・・。許してやるか。