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8.俺の知らない怪しい噂 (テオドール)

婚約が白紙に戻り数か月


あれから匿名の手紙は届いていない。俺は少しほっとしている。婚約式の関係者達を調べてみたが、怪しい動きをする者は一人もいなかった。

俺の婚約式は貴族達には知らせていなかった。婚約式を終えてから(レイチェルを確実に俺の婚約者してから)王宮の舞踏会で貴族達を集め婚約を発表する予定だったのだ。だが、王城で働いている者だったら気づく者もいるだろう。そこからバレてしまったのだろう。

(脅しだけだったのか?まだ犯人が捕まっていない以上分からないが……。ひとまず、レイチェルが無事で良かった)

婚約が白紙に戻った事で言い寄ってくる貴族も増えた。煩わしいがそんな貴族達の動向を暇な時間を使い探るのが最近の日常になっていた。そのおかげで数名の貴族の不正や横領の証拠を掴む事ができたのだが……俺が知りたいのは、そんな事じゃない。


コンコン

「殿下 ハリスです」


「ああ、入れ」

「失礼します。あの件についてご報告が…」

執務室に入って来たハリスは、呆れた顔で俺の前まで来ると、

「殿下、…少しヤツレちゃいましたねー」

執務机に着く俺の顔を覗き込んで来る。俺は、フイッと顔おそらした。

「…ヤツレもするだろう?あんな、手紙さえなければ、今頃 レイチェルが俺の婚約者だったんだ」

「そうですよねー」

ハリスは、ソファーに座るとテーブルの上のクッキーを掴みパクッと食べる。

俺は、その様子を見て頬杖をついた。

「ほんとうにお前は、呑気な奴だな。で?報告があるんだろ?」

「あ、そうでした。殿下 あの婚約者候補を集めたお茶会覚えていますか?」

「ああ……あのお茶会がどうした?」

「あのとき、殿下にやたらと擦り寄って来ていた令嬢いましたよね?」

「いたな。しつこく触って来て香水臭いし失礼な令嬢だった」

(思い出したくもないな…あの日は最悪だった)

「あの令嬢の噂なんですが……貴族の間で 『近いうちにテオドール殿下の婚約者がジャスミン侯爵令嬢になる』 と噂になっているんですよ」

「は?!俺は、レイチェル一筋だっ!誰がそんな根も葉もない噂を……」

「それがどうやら、令嬢本人からも聞いたと言うんです。この侯爵家ちょっと怪しいですね。あと、関係あるか分かりませんが、二か月の間で二人の令嬢が行方不明になっていますね。大っぴらにはなってませんが、それも殿下の婚約者候補だった令嬢もいますよ。まだ、見つかっていません」

たぶん、嫁入り前の令嬢だ傷が付く事を恐れて行方不明になっている事を隠しているのだろう。

ハリスから一枚の調査書を受け取った。

「そうか……ジャスミン・ヘンデン侯爵令嬢か。……影を送るか。ジャスパー仕事だ侯爵家を調べろ」


「御意」


何処からともなく声が聞こえた。







王都の貴族地区のヘンデン邸


「ふふふっ、流石は叔父様、上手くいったわね。これで邪魔者がまた1人減ったわ。辺境の田舎娘が婚約者だなんて、それにお茶会にだって呼ばれていなかったのよ?田舎者は、田舎に引っ込んでいればいいのよ。まぁ、いいわ。テオドール殿下に近付く邪魔者を排除していけば、婚約者に相応しいのは私だけよ!あの方法でダメならアレを使うだけ」

(次は、誰にしようかしら)


ヘンデン侯爵の長女ジャスミンは、華美なドレスを着てブラウンの縦ロールの髪をクルクルと触りながら若草色の瞳をギラつかせ自室でお茶を飲んでいた。甘やかされて育ったジャスミンは、両親も手を焼くほどの我儘娘だった。最近では、両親にも見放され叔父を頼りに我儘放題の生活を送っていた。


「ノーラ いつもの商会に頼んでまたアレを手配して来なさい」

「かしこまりました」

部屋の隅に控えていた侍女のノーラは、感情のない顔で一礼すると部屋を出て行った。


「テオドール殿下は、もう直ぐ私のものよ!次は誰を消そうかしら。ふふふっ!あはははははっ!」


(ふむ……この令嬢はペラペラとよく喋る……馬鹿なのか?)

そっとベランダから話を聞いていた影は、呆れた。

(アレとは、なんだろうか…次は、侍女を尾行するか……)

邸の屋根に跳び上がると霧のようにフッと消えていった。





ノーラは、自室で紙に何かをメモすると紙をポケットに入れてヘンデンの邸を出た。

王都の大通りを少し外れた先のクロウ商会と言う小さな商会へ入って行くと店番にその紙をそっと渡してまた邸へと帰って行った。


店番の男は、メモ紙を開くと店の奥へと入って行く。

店の奥には、ガラの悪そうな男達が数人椅子やソファーにドカッと座って暇を持て余していた。

一人の男がそのメモ紙を受け取るとニヤッと笑った。


「まーたあの令嬢からの依頼か、懲りないねーあの令嬢も これで何人目だよ!ヒヒヒヒッ!」

「どうせまた、あの令嬢の叔父とか言うやつに、攫った女を渡すんですか?」

「そうなるだろうなー。この商会がやっていけるのはあの人のおかげだからな…仕方ないだろ」

「あーあ、つまんねーなー。つまみ食いしちゃダメかなー」

男は、ナイフを磨きながら舌舐めずりした。

「おい!お前だけずるいぞ!」

「バレなきゃいんじゃね?ヒヒヒヒッ!」


隠れてその話を聞いていた影は、グッと手を握り感情を押し殺すと殿下に報告する為、その場を後にした。

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