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6.婚約を白紙にしてください (テオドール)

婚約式当日


(長い一週間だった。やっと、レイチェルに会える!)

いつもより、念入に身支度を整え自室を出た。軽い足取りで庭園へ向かう途中、後ろから息を切らして走って来たハリスに呼び止められた。


「ん?…ハリス?」

「はぁ、はぁ…でっ、殿下!大変です!また、またあの手紙が届きました!」

「…っ?!」


手渡された手紙には、


 『 婚約したら令嬢の命はない 』


背筋にゾクゾクと冷たいものが走った。


「これは……。至急父上に話さなければ!ハリスは、周囲を警戒してくれ!」

「御意」

(レイチェルの命が狙われている。俺が警戒を怠ったせいだ。婚約式を取り止めなければ、いや……婚約者候補のままでは、レイチェルに危険が及ぶかもしれない。いったい誰がこんな…)


頭をフル回転させ考えながら父の元へ急いだ。

父は、ちょうど庭園へ出る扉の前にいた。

「父上!至急お話があります!」

「おお、テオ来たか。もう庭園にレイチェル嬢が来ておるぞ。話は後でも良かろう。さぁ、行くぞ」

「父上!先に話を!」

父は、話も聞かず、そそくさと庭園へ向かってしまった。

(くそっ!困った……このままでは、レイチェルの命が危ない……もう、婚約を白紙に戻すしかない)

考えた結果、胸を締め付けられる思いを我慢し庭園へと向かった。




綺麗な花が咲き乱れる庭園に、クローズ伯爵とレイチェル嬢は待っていた。

俺は父の横を歩きながら分からない様に周囲を警戒する。どこでレイチェルを狙っているかも分からないからだ。自然と眉間に皺が寄って険しい顔になってしまう。父と伯爵が会話をしている間、レイチェルからの視線を感じてチラッと目があった瞬間、胸がキュッと締め付けられるほど苦しくなった。

(ああ……やっと会えた。会いたかった。ああ…俺の事めちゃくちゃ見てるな…可愛い。俺の癒し、俺のレイチェル)


ハニーブラウンの長い髪が風になびきパッチリとした青紫の瞳は、あの日と変わらず愛らしいけれど前より綺麗で女らしくなったレイチェルを僕は、本当だったらすぐにでも駆け寄って、その柔らかそうな身体を抱きしめたいと思う気持ちに蓋をした。


(俺は、今からレイチェルにひどい事をする。俺は…最低だな)

「レイチェルと申します」

(ああ…声も可愛い…)

俺の瞳の色をした美しいドレスのスカートを手でつまみ綺麗な淑女の礼をするレイチェルに俺は深々と頭を下げた。


「レイチェル嬢 すまない……この婚約は、なかった事にしてくれ。頼む…」


声が震えそうになるのをグっと我慢し、できるだけ落ち着いた声をだせたはずだ……。

(本当は、こんな事言いたくないんだよ。こんなにも好きなのに……レイチェルを守る為には、こうするしかないんだ。ごめん……)

突拍子もない俺の行動に辺りは静まり返った。

レイチェルは、黙って俯いてしまった。


「何を言い出すのだ!テオ!あれほど……」

「父上!いいのです。どうか白紙に戻してください!」


(父上にもう少し早いタイミングで報告できていれば、違う結果になったかもしれない。俺の責任だ…。今は誰があの手紙を送りつけて来た犯人か分からない以上 こうする他ないんだ)


レイチェルは、震えた声で口を開いた。

「殿下のお気持ちはよく分かりました。……その申し出承知いたしました。私はこれにて失礼いたします」

(ああ、終わってしまう…。今からでも違うんだ!君を守る為なんだ!と叫んでしまいたい。レイチェルを悲しませた俺は、なんて無力なんだろうか……)

無理な笑顔を作って一礼して去って行くレイチェルを見えなくなるまで見送った。俺は、しばらくその場を動けなかった。


すぐに父に耳打ちでこの婚約式での出来事を王命で箝口令を引いてもらい。父と伯爵に話がしたい旨を伝えた。

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