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52.執務室(ハリス視点)

執務室


「はぁ…」

「………」

「んー………」

「………」

「ふぅ…」

「……殿下ー?」

「ん?なんだ」

執務机に顔を伏せた王子は、項垂れていた。


「一体なんなんですか?仕事して下さいよー」

「わかってる…。はぁ…」

「その、悩ましげなため息やめてくださいよー」

「ハリス…聞いてくれるか?俺の悩みを…」

「僕で良ければー、で?何があったんですかー?」


めんどくさいができるだけ相談にのってやろうと王子の方を見ていると、伏せた顔をガバッと上げた王子と目が合った。


「………」

「???」

「………、レイチェルが可愛すぎて…辛いんだ……」

「…はあ?」


ハリスは、アホらしくなって真剣に聞くのを辞めた。

「………」

「だから、言ってるじゃないですかー!はやく本当の事を告白しろって!」

「ハリス…素が出てるぞ…。…告白か」

「こんだけ近くにいるんだから、いつでも言える機会なんて沢山あるだろー?」


「……この前の休日の事、覚えてるか?」

「ああ…、あの探索した日かー?…あれは面白い1日だったなー。あんなご令嬢は見た事ない」


いきなり、どこかからスコップだして地面掘り出した時は、驚いた。

タケノコ?だっけ?後で試食したけど、美味しかったな。あれー。


「だろ?相乗りしたら良い匂いするし、手を繋いだら頬を赤くするし、抱きしめても最近抵抗しなくなって、柔らかいし小さいし…堪らないんだ。この間なんて夜中に俺の部屋まで来たんだぞ?俺の理性が……もう、限界だ…」


「じゃあ、はやく本当気持ち言っちゃえば?好きだから本当の婚約者になってくれってー。婚約者なら手が出せるんだし?…あ、でも相手まだ16歳か…もうすぐ17?」


「お、お前!簡単に言うなよ!…これでもこの前、我慢できなくて言おうととしたんだ…けど、言えなかった」


「はあー?なんでー?わけ分かんねー」


「慎重になるだろ…。彼女は規格外すぎるし。あの日のあんな顔見たら…、消えてしまう気がした。捕まえておかないとって…」


「消えてしまうねー」


片手を顔に当てて赤くなる王子を見た。

あー…、抱きしめただけでいっぱいいっぱいだったわけね。と察した。


確かに、なつかしい。なつかしい。と言っていた。

この世界にはない何かを、あの令嬢は知っている。

確かに規格外。

全魔法、特殊なスキル、未知の知識。

俺のタイプではないが、そこそこ可愛い。

毎回驚かされるが、顔に出さない様に我慢するのが大変だ。

よくあんな令嬢が知られていないのか不思議になる。

伯爵も隠すのに必死なのだろう。まあ、社交界デビューする前に離宮に来ることになったのは陛下のおかげか…。


「前にさ…レイチェルに言われただろ?『小さい頃約束した男の子がいるから』って…」


「じゃあさ、はやくそれも打ち明けたら?」


「………」


「殿下…ヘタレだな…」


「はあ……。今は、それどころじゃなく忙しいし。気持ちを告白しても、かまってやれない」


「あー、確かにそうですね。あの問題解決しないと殿下自由になれませんからねー」


「ああ…、そういう事だ」


やる気になったのか王子は、書類に目を通しはじめた。


王子は小さい時から努力家だ。

俺はこの国の騎士団長の三男坊。

陛下と親父が親友だから、小さい時から王子の遊び相手だったし、親友だから側近護衛官にもなった。

「僕は予備だから」王子はよく言った。

兄より目立たず兄より優秀ではいけない。

そんな事はないと言ってやりたかったが、王太子派の貴族達に目をつけられるのも面倒で、側にいる事しかできなかった。


ある日、剣術の訓練中にたまたま兄に勝ってしまった殿下は、周りの騎士達に鍛え直してやるとボコボコにされ、悔しかったのだろう…、そのまま走り去ってしまった。

子供に対して大人げない…。

そして、俺もそれを止める事が出来ない子供だった…


次の日から王子は変わった。

何事にも前向きに取り組むようになった。

「兄上にはかないません」と、王太子を立てるようになった。

どうやら、好きな人が出来たらしい。会ったのは2度だけ辺境で暮らしているご令嬢だそうだ。

自分の事をもう予備とは、言わなくなった。

そして、家族と信用できる相手以外で、感情を見せなくなった。

今くだけた態度をとっているのは、俺の前だから…

執務室の外へ出れば王子の顔は、無表情に変わる。

氷の王子、冷酷王子と言われる理由だ。

王子は「これでいいんだよ。にこやかにすれば俺の派閥が喜ぶだけだ」そう言って、澄ました顔をする。

王位継承権があると大変だな…。


王子はやっぱり仕事にならないと、ソファーに移動しドカッと座った。

そんな王子にハリスは適当にお茶を入れた。


「あ、そういえばさ、他の婚約者候補どーしたの?」


「ああ…、レイチェルが俺付きの行儀見習いになってからすぐ、候補者に、候補が決まったと断りの手紙を送った。詮索されない様に、後日あきらかになると書いたからな、いつまでも待つだろ?それに、王族の婚約者候補になってたんだから、箔が付いて令嬢達も良い相手が見つかるんじゃないか?」


「なるほどなー。ご令嬢達も婚約者候補のままだと、他に良い人ができても婚約できないもんな…。あんだけ他の令嬢に冷たくすれば、あっさり諦めてくれるだろうな…氷の王子だし。冷酷だっけ?」


「レイチェル以外に優しくする必要ないだろ?まあ、仕事で愛想笑いしないといけない時は、仕方ないが…」


「まあ…その時が来るまで頑張れー。応援してるよ。ちょっとは、話してスッキリしたかー?」


「ああ…ありがとう。さすがは俺の親友だな!」


王子はハリスが入れたお茶をいっきに飲みほすと、執務机について仕事を再開した。


ここ数年、あまり帰って来ない王太子の為に仕事を引き受けている。

それを知っているのは一部の人間だけだろう。

要は、王太子の仕事は、殿下がしても王太子の手柄だ。

王太子も遊んでいるわけではない。ちゃんと理由があるのだが…俺はなんだか納得がいかない。

それでも、優しい殿下は、兄の為だ仕方がない。と優秀すぎる為、難なくこなしてしまう。

はあ…、まったくこの人は、本当にすごい人だ。


「ふぅ…、これでいいだろう。ハリス、通達係に各関係者に書類を届ける様に言ってくれ、俺はレイチェルに会いに行く」


「了解ー!時間が来たら声かけに行きます」


「ああ、頼む」


颯爽と執務室の扉を開け、出て行く殿下の後ろ姿を見送った。


数日後、陛下の命で遠征に出ないといけなくなり、レイチェル恋しさにまた項垂れる王子を連れて、

「殿下、早く終わらせたら、早く会えますよ」と慰める。


俺は、今日もまた、殿下と一緒に奔走するのだった。




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