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51.多忙でも

あの探索のあくる日から、王子の公務が忙しくなった。


王子は王城で寝泊まりする日も増え、

たまに夜遅く帰って来ては、私の顔を見に部屋まで会いに来る。


詳しい事は教えられないと言われたのだけど、商売をしていると商人達の噂話は聞こえてきていた。

どうやら、この国に出入りする旅商人達がレヴァイン帝国の国境での荷物検査が厳しくなっている、商人が盗賊に襲われる事件が増え、輸入品の物価が上がっている。近いうちにレヴァイン帝国と戦争がはじまるのではないか?…と噂が流れていた。


それに加え、まだ王太子殿下が長期視察中の為、公務を王子が肩代わりしているらしい。



静かな部屋にコンコンとノックの音が鳴る。


「俺だ」


わたしは読みかけの本をベットに置いて部屋の扉を少し開いた。



「テオ様、おかえりなさい。今日も遅くまでお疲れ様です」


「ああ、夜分遅くにすまない…」


「いえ、大丈夫です。読みたい本もありましたから、夜更かしはいつもの事です」


「そうか、ほどほどにしとけよ?」


王子は、私の頭を優しくぽんぽんと撫でた。


「はい。それより…テオ様、ちゃんとお食事されてますか?」


「ああ…まあな」


三日ぶりに見た王子は、困った顔で苦笑いを浮かべた。目の下には薄っすらとクマができている。


(激務のせいで、少し痩せたんじゃないかな…)


疲れている王子をソファーに招いて、暖かいココアを出す。



「はぁ…、うまいな。落ち着く…」


そう言って、テーブルにカップを置いた王子は私の膝にゴロンと横になった。


(ふあ…っ!私の心臓がんばれー…)


ドキドキと心臓がうるさい。



最初は、隣に座って話をするだけだったのに、


「少しだけ、ここで休ませて」と言われ、いつの間にか、膝枕をする様になった。


たまに私の髪を指先に巻き付けて遊びながら話をする王子に心臓の音が聞こえないか心配になる。


毎回疲れきった顔をして現れる王子を見ると断る言葉も出てこない。


(はあ…平常心…平常心よ)



「それにしても、あの部屋がヤマト王の部屋じゃないとはな…」


「まったくです。まさかあの英雄ブラッドリー様のお部屋だったなんて…」


「だな…。まあ、それもヤマト王のノートがなければ分からなかった事だが」


「そうですね。陛下にどう説明したらいいでしょう。悩みますね…」


「ハハハッ、そうだな」



先日の予定地で見たオタ…コレクション部屋は、結局ノートを読み返してみるとヤマト王の部屋ではなかった。


英雄 ブラッドリー・ガーランド 初代騎士団長の部屋だった事が分かった。


オルティス王国を建国した仲間の一人で、大盾を使いこなす強者。ヤマト王の親友だと伝わっている。




ヤマト王の愚痴メモによると、


今日もブラッドに負けたー

賭けに負けるたびフィギュアだのグッズだの作らされるのめんどくせー

あいつにあのゲーム見せるんじゃなかったな


との事。


あの家には、テレビもゲーム機もなかったのでどうやってゲームを見せたのか謎だけど、あの大量のグッズ…数百個以上。たぶん賭け事に弱かったんだろうな…。ヤマト王の弱点を知ってしまったかも。



そして、あの予定地と書かれた場所は、仲間だけの隠れ家らしい。


ノートいっぱいになる大きさで書かれた鳥居のマークのページに、邪魔する奴は入れないようにした と書いてあった。


詳しい説明がない為、短い文章を見て察するしかない。


(あんなのぱっと見分からないよ。ただの太い線にしか見えないし。気付いた私を褒めて欲しい)


なぜ、あの場所を私達が見つける事ができて入る事ができたのかは不明、また調査の為おじゃまする事になると思うけど、プライベートを覗くみたいでなんだか申し訳なくなる…。



わたしは、色々考えながら無自覚に王子の頭を撫でていたらしく、王子は、いつの間にか眠ってしまった。


『毎日大変ですね…おつかれさまです』


小さい声で呟いて、回復魔法を掛けると目の下のクマがスーッと消えて行った。


(よかった…。わたしが出来るのはこれぐらいかな)



国の為、民の為、仕事は果てしなくあるのだろう。


書類上だけの婚約者(仮)で行儀見習いの私が手伝える仕事ではない。



そういえば…この離宮には、今まで男性の従者しかおらず


「あの第二王子の離宮に侍女がいる」と一時期噂になったらしい。



たしかに…書庫へ行く為に何度か城内を歩いてた時、人の視線をすごく感じたり、声を掛けられたりした事がある。


だけど、常に側にいるリズが対応してくれる(護衛をしてくれている)為、むやみに近づいて来なくなった。


(リズ、有能すぎる!)


どこの誰なのか知りたかったのかもしれないけれど、いつの間にかそんな噂もなくなった。


(人の噂ってそんなものよね)


しばらくして、コンコンとノックの音がした。


「そろそろ、時間ですよー」

「ん…、ああ、わかった」


ハリスさんの声にため息をひとつついた王子はスッと起き上がると


「レイチェル、おやすみ」


と言って頭をひと撫でした後、部屋を出て行った。


多忙でも会いに来てくれる事がうれしい。


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