49.予定地へ②
「これって…」
見上げた感じ5.、6メートルは、あるだろうか?真っ赤な鳥居だけがぽつんとそこにはあった。
(…鳥居だよね?どうして、こんな所に?)
「おい!レイチェル!?いきなり走り出して危ないだろ?」
「そうですよ!お嬢様!危ないですよ!下がってください!」
慌てて後を追って来た3人は、異質な柱からレイチェルを守る様に周囲を警戒した。
確かに…こんな見た事もない真っ赤な柱が立っていたら危険を感じるだろう。
それに、鳥居だと知っていてもそれが絶対安全な物だとは言い切れない。
罠かもしれない。
「あの…、ごめんなさい…私」
(わたしの軽率な行動でみんなに心配をかけてしまったんだ)
ヤマト王のノートを読んでからと言うもの、気持ちが前世に引っ張られる事が多くなった。
せっかく転生して新たな人生を得たのに、ヤマト王の挑戦状に振り回されて、好奇心で身を亡ぼすわけにはいかない。
王子は、しゅんとする私の様子を見てホッとしたのか私の頭をポンポンと軽く撫でた。
「分かってくれたならいい。今度からは気を付けてくれ…」
「はい…」
「それにしても……これは何なんだ…」
「さあー、何でしょうねー」
3人は黙って考え込んだ。
「これは、鳥居だと思います」
「とりい?」
「はい。前世で…見た事があります」
「前世…そうだったのか…、で?この柱は何なんだ?」
(確か…神社の鳥居って神聖な場所と俗界との境界の意味だった。そんな神聖な所に罠なんてしかけるだろうか?)
「たぶんこれは、結界の様なものだと思います。今からここを潜ります。私と同じ行動をしてくれませんか?」
3人は、結界と言う言葉に驚いたが、静かにコクリと頷いた。
「では、行きますね」
深呼吸をして心を落ち着かせると鳥居の前で立ち一礼して、鳥居の真ん中を潜った。
続いて3人とも同じようにして鳥居を潜る。
すると、『ブンッ』と一瞬だけ音がして目の前の竹林に石畳の道が現れた。
「わぁ、道が」
「結界…そうか、そういう事か…」
王子は、口に手を当て何か考えたあとヤマト王のノートを取り出すとペラペラとページをめくった。
「レイチェル、これを見てくれ。このマーク似てないか?」
「あ、これ、鳥居ですよ!『邪魔する奴ははいれない』と書いてますね」
「やっぱり、ここが地図にある『予定地』なのかもしれないが、…ハリスまだ警戒を怠るなよ」
「了解」
ハリスさんは、先頭を。マリーは後方を警戒しながら歩く。
王子は、馬の手綱を引いて私の手を握り石畳を進んだ。
しばらく歩いてカーブした道の先に二階建ての建物が見えて来た。
「これは…見た事もない建物だな…」
「そうですねー。小屋でしょうか?」
そこにあるのは、神社ではなく黒い瓦の日本家屋だった。
今世、貴族の住宅は石造りやレンガ調、平民は木組みの家が主流でヨーロッパ様式に似た建築物しか見た事がない。
王城に住んでいる人にとっては、倉庫に見えてもおかしくないけど…
「前世では、一般家庭のよくある普通の家ですよ?」
「これが?普通の家なのか?」
「はい、平民の家です。前世ではわたし平民だったので…。まぁ、ほぼ平民しかいなかったけど」
「は?ほぼ平民しかいない?」
「はい、わたしのいた国では皇族はいましたけど、政をするのも平民でしたし、移動手段も馬車みたいにお尻痛くないし…あと」
倉庫なんて言われたせいなのか、ムキになって前世と今世を比べてペラペラと話してしまった。
後で後悔するともしらずに。
「…そうか…ふむ…。レイチェル、その話ゆっくり後日聞かせてもらぞ…」
「あ、え?」
王子はニヤリと笑うと逃がさないとばかりに私の腰を引き寄せた。
(王子スマイル怖い…。ああ…やらかしたー)
後日、根掘り葉掘り色々と聞かれる未来が見えた。
4人は、厩舎に馬を繋ぐと家の入り口らしい格子ガラスの扉の前で足を止めた。ハリスさんが先に危険がないか入り口や周辺を調べた。
「ドアノブがない…、ん?あれ?この扉どうやって開けるんですかねー?」
押したり叩いてみるも扉はびくともしない。
「これは、引き戸なんですよ」
わたしは窪んだ戸ってに手をかけ横に引いた。
どうやら鍵はかかっておらず、あっさり開いてしまった事に驚いた。
(ちょっと…不用心な…)
振り返れば、3人は黙って先に入ってみろと言わんばかりの顔をしているので、恐る恐る先に扉を潜った。
「……ごめんください?…お、おじゃまします…?」
無人の家に返事はなく、靴を脱ぎ揃えて家に入ると、続いて3人が同じ所作で家に入った。




