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48.予定地へ①

3日後


「レイチェル準備はできたか?」

「はい!」

「じゃあ、行こうか」


今日は、休日。

王子と『予定地』を探検しようと約束した日だ。

探検なんて姉と幻想の森へ行って以来していない。楽しみで仕方がない。

私は朝からマリーと厨房を借りて久しぶりにお弁当を作った。


離宮の裏の厩舎まで行くと王子は私の腰を軽々と抱え上げ馬に乗せ自分も乗り込んだ。マリーも同じ様にハリスさんの馬に乗せてもらい、早速4人で探検へと出掛けた。


不意に隣の馬を見るとマリーが顔を真っ赤にしているのが見えた。案外ハリスさんとお似合いなんじゃないかな?などと思って見ていると、

「レイチェル…今何考えてるの?」

「…っ?!」

耳元で王子の声が降ってきてビクリと肩が震えた。

「マリーが顔真っ赤にしてて…可愛いくて…見てたんですよ?」

「そうか…、レイチェルも真っ赤だけど…大丈夫?」

「…っ!」

慌てて両手で頬を押さえ、いつもの様にからかって来る王子をチラッと見てプイっと顔をそむけると…

王子は、ふふっと笑って私を支える手にギュッと力を込めた。

「ひゃっ」と思わず声が出てしまい恥ずかしくなって口を押える。

見上げれば悪戯が成功したと言わんばかりにニッと笑った王子の顔があった。

「ちょっと…からかわないで、ください…」

口を押えながら呟くとクククッとまた笑われてしまう。

最近の王子は、いつもこうだ…。

こんな慌てる私の反応を見て楽しんでる…悔しい…。


馬は、秘密の通路ではなく今日は裏門を通り抜けた。そこには、広い広場がありその向こうは森が広がっている。


「あの…『予定地』までは、結構時間がかかるのですか?」

「ああ、1時間以上掛かるだろうな。第二の城壁内は広いからな…それに、王族が管理していると言っても全部把握出来ていないんだ」


この国の城壁は、大きな2重の円で築かれており。半円でわけた上部分は王族エリア、下部分は貴族と平民エリアに区切られ暮らしている。王族が住むエリアは、王城を中心に建物が配置され第一城壁の外側は、王族が管理する植物や動物を保護するエリアになっている。

前に私が泉に連れて来てもらったのも、このエリアで魔獣などは侵入して来ない。とにかく迷子になるぐらい広い。


前に来たときは真夜中だったし、はじめて家族以外の男性と相乗りをした緊張でそれどころじゃ無かったけれど、もちろん…今回も緊張してるけど…。

今日は昼間ともあって景色はとても美しく動物もちらほら見かけた。2日前にふった雪は、嘘のように溶けて今日は比較的暖かい。

数十分たっただろうか森を抜けると綺麗な小川が流れるひらけた場所に出た。


「少し疲れただろう?ここで昼食にしないか?」

「はい」「畏まりました」「了解」

ハリスさんとマリーは、馬から降りると馬を近くの木に繋ぎ、テキパキと敷物をひいて準備をはじめた。

「レイチェルは、準備ができるまで俺と散歩しようか」

「はい!」


王子は私と手を繋ぐと小道をゆっくりと進んで行った。その先には見覚えのある泉があった。

「あ…ここは…あの泉?」

「ああ、そうだよ。俺のお気に入りの場所」

満月の夜、怪我をした動物たちが光る泉の水を飲んで治癒した神秘的な光景は、今でも忘れられない。

泉の水面を覗き込むと、綺麗な水が水草の間からポコポコと湧き出し小川となって流れている。


「きれいですね…」

私が泉の中を覗き込んでいると、繋いだ手をゆっくり引き寄せられポスっと王子の懐に抱きしめられた。

「え?テオ様?ちょっと?」

「レイチェル…」

「はい…?」

「………」

(どうしたのだろう?…)

良く分からないけれど…王子の懐は、暖かくて良い匂いがした。

黙り込んだ王子を見上げればチラッと顔を赤くした王子と目があってすぐに顔をそらされた。私の心臓もドクドクとうるさい。

「???」

「はぁ…。何でもないよ。…今じゃないな。でも、もう少しだけ」と王子は呟いた。

いつもと様子が違う王子に戸惑いはしたが、いつもの事だし嫌ではないので小さく頷く。

(何かあったのだろうか?悩み事でもあるのかな?)

何か言いたそうにして辞めてしまったと言う事は、私に言いづらい事情でもあるのかもしれないし…。

何かあったんですか?なんて追及して聞くのも違う気がして、黙ってそばにいる事にした。


しばらくすると、

「そろそろ行こうか」

王子は、抱きしめていた手を緩めにっこりと笑った。

そしてまた、手を引かれ来た道を戻った。


「おかえりなさい。お嬢様!昼食の準備できてますよ」

私達の姿を見つけたマリーが笑顔で大きく手を振った。

すでに昼食の準備は出来ていて、昼食時の王子は何もなかったかのように普通に過ごしていたので私は少しホッとした。

4人でサンドイッチを食べながらこれから向かう目的地について地図を拡げ話をした。


「今はここ、目的地はここだな」

「距離にして数十分って所ですかねー」

「ああ、だが獣道を進む事になるからな。危険がないとは言えない。もっと時間がかかるだろう。それから探索するとなると帰りが遅くなる。時間が足りないな…。目的地の探索は後日だな…」

「探索を数回にわけてするのですね?お嬢様の予定も考えなければ」

「ああ、そうしてくれ」

モグモグとサンドイッチを食べていた私は、ピッと人差し指を立てた。

「そんなの転移したらいいんですよ」

「「「!!!」」」

その言葉に三人は「そうだった」と納得した。

「ハハハッ、それだったら午後からでも探索にいけるな。レイチェル」

「今日乗って来た馬はどうするんですかー?」

「んー……扉を大きくすれば通れますよね?まだ、やった事ないけどたぶんできます」

「お嬢様さすがです!」

あっさり時間短縮する方法を見つけて4人はまた目的地へと出発した。


ガサガサとなんとか馬で通れる道を進む…地面は木の根がはい馬も歩きづらそうだ。それに動物達を見かける事が多くなり王子達は周囲を警戒しながら進んだ。

そして、進むにつれて景色が変わっていった。

「ん?あれは…竹?」

「たけと言うのか?…この国では見かけない変わった木だな。昔から視察に行った先で見つけた珍しい植物等を持ち帰り植える事があるんだ。昔誰かが植えたのかもしれないな」

いつの間にか4人の目の前には、竹林がひろがっていた。私は、その光景に前世の日本を思い出しゴクリと唾を飲み込んだ。

「レイチェル、大丈夫か?」

「はい…ちょっと、懐かしくて」

「懐かしい?」

「はい…あの、ちょっと馬から降りてもいいですか?」

「ああ、分かった」

私は馬から降ろしてもらうと、その辺りを歩いた。見上げるとスーッと真っ直ぐ上に伸びた竹が風で揺れている。地面からは所々タケノコが顔を出していた。

(わぁ、タケノコ…それも食べ頃の…)

「どうした?」

後ろについて来ていた王子が心配そうに声を掛けた。

「まあ、見てて下さい!」


地面から少しだけ頭を出したタケノコを見つけた私は、腕まくりをしてインベントリーからスコップを取り出すとその盛り上がった地面を掘り起こした。


ザクッザクッ


「「「!!!」」」

その様子を見て3人はギョッとして目を丸くした。

「ちょっ!ちょっと待て!レイチェル」

「はい?」

王子は、私から慌ててスコップを取り上げた。

「それは力のある俺やハリスに任せてくれ、ここを掘り起こせばいいのか?」

「はい、じゃあ、お願いします。その茶色の角の様な物を傷付けない様に掘り起こして下さい。優しくですよ?」

「ああ、わかった」

私はもう一つスコップを取り出すとハリスさんに渡した。


ザクッザクッ

「これでいいのか?」

「はい、ありがとうございました!」

私は、あっと言う間に掘り起こされたタケノコを持ち上げ土をはらった。

「それは一体なんなんだ?危ないものではないよな?」

「え?ああ…これは、タケノコです」

「……たけのこ?」

首を傾げる3人に私は簡単に説明する。

「ふむ…食べ物なのだな?」

「そうです。このタケノコが育つと、この竹と言う木になるんですよ。帰ったら料理するので食べてみて下さいね」

タケノコを嬉しそうに持ってブツブツとどう料理してやろうかと呟いている私を見た3人は、噴き出す様に笑った。

「くっ、ハハハッ、レイチェルといると飽きないな」

「僕も驚きっぱなしですー。参りましたー」

「ふふふっ、そうでしょ?お嬢様といるととっても楽しいんです」

「えーっ?」

なぜか3人に笑われてしまい、恥ずかしかった私は少し頬を膨らませて見せた。


それから、少しの間タケノコを収穫していると周囲の偵察に行っていたハリスさんが何かを見つけたのか王子に報告をした。

「は?奇妙な柱?」

「はい、赤くて見た事もない柱が」

「わかった。案内してくれ。何があるか分らない警戒を怠るな」

「了解」

私は、収穫したタケノコをインベントリーにしまい水魔法で土のついた手を洗った。

「レイチェル、この奥には何かある様だ。危険だと判断したら戻る事にする。結界を出す準備もしておいてくれ」

「はい、分かりました」

(赤い柱って言ってた…一体何があるんだろう…)

4人は、また馬に乗ると黙って竹林を進んだ。



数分後。


「あれか…確かに赤いな」

「はい、異質ですね」

私達の目の前に真っ赤な二本の柱が静かに立っていた…。

「あれは……!」

私は、そう呟くと居ても立ってもいられなくなって馬を無理やり自分で降りるとその柱に向かって駆け出した。

「おい!危ないぞ!レイチェル!?」

「お嬢様!?」

3人は、慌ててレイチェルの後を追いかけた。

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