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47.禁書庫

次の日私は、自分の部屋で目を覚ました。

(あれ?わたし…いつの間に自分の部屋に戻ったんだろう…?)


少し不思議に思いつつ…時計に目をやると昼前でギョッとした!完全に…寝坊だ。

急いで起き上がり着替えていると、


「お嬢様、おはようございます」

扉の方でいつもの声がした。マリーは、にこにこしながらトレーに軽食をのせて部屋に入って来た所だった。

「マリー!どうして起こしてくれなかったの?」

「はい。今朝方 殿下がいらっしゃって、昨日夜遅くまで付き合わせたので今日は昼からでいいそうですよ?」

「…っ?!そ、そうなの、昨日の夜ちょっとね。仕事の手伝いをしてたの…」

少し言い訳っぽい言葉になったけど…陛下に頼まれた仕事の報告をしてたんだし?

(夜分遅くに王子の部屋を訪ねたなんて事…口が裂けても絶対言えないわ…)

「そうでしたか、昼までゆっくり休んで下さいね」

「ええ、ありがとう。マリー」

いつもより、にこにこしているマリーに違和感を感じながら…私も笑顔を返して、このまま誤魔化し通す事にした。



昼食を済ませた私は、いつもの様に執務室へと足を運んだ。

王子は、テーブルの上に数枚の見取り図を広げ、昨日の夜報告した通り初代国王の部屋を探している所だった。

「テオ様、お疲れ様です」

私は、王子にお茶を入れテーブルの上に置いた。

「ああ、レイチェルちょうどいい所に来たな。父上にも聞いてみたんだが…やっぱり王城は、200年の間に何度か改装されてる…今持ってる見取り図では見当もつかない」

「そうですか…」

「レイチェルには、あの残されたヤマトの本に手掛かりがないかもう一度調べてもらいたい」

「分かりました」

「それから…」

王子は、側に立っていた私の手を取ると自分の隣に座らせた。


「???」

「今から王族しか入れない禁書庫に行くのだが…レイチェルも行くか?」

「…っ!き…禁書庫?!」

私は、その神秘的な言葉を聞いて、王子の手をギュッと両手で握り返した。

禁書庫!…王族しか入れない所に入れる!チャンス?でも…そんな場所に私の様な者が簡単に入って大事な本に触れていいのだろうか?

「行きたくないのか?」

「い、行ってみたいです!でも、いいのですか?」

「ああ、いいよ。レイチェルは特別だ」

王子は、にっこり笑って私の頭を優しく撫でた。

「ありがとうございます」

(はや)る気持ちを押さえながら、テーブルの上の見取り図を速やかに片づけ王子と一緒に執務室を出た。


王子が向かった場所は、書庫だった。

ハリスさんとマリーには、書庫の入口付近で待機してもらい。

私は王子の後をついて書庫の一番奥へと向かった。

途中で私と手を繋いだ王子は、私の方を向いて黙って人差し指を口に当てた。

(黙ってついてこいって事かな?)

私はそれを見て黙ってコクリと頷いた。右へ左へと迷わず奥へと進んで行く。

すると…いつの間にか、本棚に囲まれた個室の様な場所にたどり着いた。

(こんな場所あったんだ…)

小さな丸いテーブルと椅子が置かれ、その後ろの棚には分厚い本が、ずらーっと並んでいた。


王子は、その本棚の本を1冊手に取った。『精霊と白竜』…?美しい挿絵の付いた分厚い本だった。

再びその本棚の隙間に手を差し入れ、何やら魔力を流しているのを私は黙って見守っていると…。


本棚が奥へとスライドし通路が現れた。


「…っ!」

『 暗いから足元に気を付けて 』

王子が私の耳元で囁くので黙ってまた頷く。



本をもとあった場所へと戻し、指先に光魔法を灯した王子に手を引かれ通路に入ると…あっという間に入り口は勝手に閉じていった。


通路は、身体の大きな人が一人通れるほどの広さがあり…壁は、まるでコンクリート。城の中とは思えない作りだ。


乾燥した少しカビ臭い通路を少し進むと下り階段になっていて、ゆっくりと降りて行く。コツコツと二人の足音だけが響いて…私は、なんとも言えない緊張感で繋いだ手にキュッと力が入った。

それに気づいた王子が静かに口を開いた。

「レイチェル、大丈夫?」

「はい…大丈夫です」

「この王城には…こうした隠し通路がいくつもあるんだ。俺でもまだ8割しか覚えていないから…絶対手を離さないで」

「はい…」

階段を降りた後、広くて長い通路に出た。


「…っ!?」

目の前には羽の生えたドラゴンの石像が置かれていて、思わず王子の腕にしがみついた。ドキドキと心臓がうるさい。

「俺も最初の頃は、この石像に驚かされたな…。もうすぐだから、そのまましがみ付いてて」

「はい…」

少し歩いた所で王子は大きな扉の前で立ち止った。扉には丸くて大きな緑の魔石が埋め込まれている。王子は、その魔石に触れて魔力を流している様だった。


ガチャリ


扉から音がしたかと思うと勝手に扉が開かれた。二人が中へ入ると扉は勝手に閉まった。

「ちょっと、ここで待っててくれ」

「はい…」

私がしがみ付いていた腕から離れると、王子は部屋の奥へと向かっていった…私の周囲は、あっという間に暗くなった。

少し心細くなって胸の前で両手をギュッと握った。

少しして、ポォ、ポォ、ポォっと部屋の奥から順番に明かりが灯った。

「ここが…禁書庫…」

「そうだよ。ヤマトの本もここで保管されてたんだ」


一般公開できない本や手記…国の機密文書など閲覧禁止の物がここに保管されているらしい。

20畳程の部屋の真ん中には、四角いテーブルが置かれ4脚の座り心地の良さそうな椅子がある。壁に沿って本棚が置かれ奥に頑丈そうな魔石のついた鉄製の扉があった。

「奥の扉には、近づかないで呪いの書物が封印してあったりするから」

(の…呪い?!)

「ひゃぃ…!」

私は、背筋がゾッとして変な声が出てしまった。恥ずかしい…。

「ふふっ、大丈夫だよ。ほら、ここに座って?」

王子は、椅子を二つ並べると私をそこに座らせた。やっぱりここでも王子との距離はすごく近いけど、ここは呪いの書物も保管されている禁書庫…側にいてもらった方がありがたい。


「確か…この辺に初代国王の事が書かれた本があったはず…」

王子は、数冊の本を手に取ると私の隣の椅子に腰掛けた。

「とりあえず、手分けして見ていこうか。分からない所や気付いた所があったら教えてくれ」

「はい、分かりました」

目の前に置かれたのは、古そうな薄い本…禁書庫にあるくらいだから王族しか見てはいけないのだろう。私は手が震えた。表紙には、何も書いていない…本を開いてみるとヤマト王の側近が書いた手記の様だ。

(魔獣を討伐した話ばかり書いてある…)

緊張のあまり最初の内は無言で本を読んでいた私もだいぶ慣れて来た頃、


「あ、これだな。見取り図…」

本棚の隅に置かれた木箱からクルクルと巻いてある大きな紙をテーブルにひろげた。

「わぁ…これは…ちょっと、絵も文字もかすれてて読めない所が…」

「そうだな…それに俺は読めない文字があるな…」

1枚目は大きく手書きで描かれた城のイメージと敷地内の建物、2枚目は見取り図が書かれていた。初代国王が手書きしたものだろうか。矢印で人の名前が書いてあったり、所々に日本語でメモがしてあるがはっきりと読めると所は少ない。

(メモは、だいたい部屋割かな…壁白とか絨毯赤とかイメージも書いてる…)

「何か分かるか?」

「まず、ここに『俺の城』って書いてありますね…。で、見取り図のここに『俺の部屋(仮)』って書いてあります。たぶん…ここが国王の部屋なのかな…」

私が指さしたのは2階の奥の広い部屋だった。ちょうど、謁見の間の上辺り。

「やはり、父上の部屋ではないな…確かここは会議室だったと思うが…」

他に何か書いてないかと探すと…1枚目の右下に星のマークが描いてあって矢印でここに魔力を流せと書いてあった。


「あ…テオ様!このマークに魔力を流して頂けませんか?」

「ん?ここに?」

「はい」

王子は「分かった」と言うと星のマークに手を当てゆっくりと魔力を流した。するとパァーッと紙が光って目の前に立体の王都の防壁と城などの建物が現れた。


「「!!!」」

王子と私は驚いて顔を見合わせた。

「なんだこれは…すごいな」

「綺麗ですね…」

立体になった城に触れると、触れた場所の見取り図が表示された。

2階の見取り図の奥の部屋には矢印で『俺の部屋(仮)』と書いてあった。


「なんで(仮)なんだろう…」

私は、疑問に思った事をポロッと呟いた。

「レイチェル(仮)とは、どんな意味があるんだ?」

「とりあえずとか仮の場所といった所でしょうか…。本当の『俺の部屋』は、どこか別の場所にあるんですかね…?」

「はぁ…。振り出しに戻ったな…」

(また、一から…)

少し悔しくて私は、俯いた。

「………」

「そんな顔をするな。色々分かった事もあるし、これからだろ?」

私がコクンと頷くと王子はにっこり笑って頭を撫でてくれた。

(きっと、まだ見逃してる事があるはず…よね)


紙の上の立体の建物は、城を含めて全部で6棟。城を中心に東に騎士棟、北、北東と北西に離宮、南東に礼拝堂…。城壁と…ぐるっと一番外側を囲む防壁、北西の端には小さく『予定地』と書いてある場所を見つけた。

「テオ様が住んでいるのはこの離宮ですよね?」

「ん?ああ…そうだな。あの離宮もヤマト王が建てたものらしいな」

「あの、ここなんですけど…予定地って書かれてるんです。今は何が建っているのですか?」

「ここか?あの泉より向こうだな…。んー……そんな離れた場所には何もなかったはずだが…」

私は、何故だか分からないけれどその場所に何か惹かれるものを感じて『予定地』の場所を見つめていると、その様子に気付いた王子は、私の肩にポンっと手を置いた。


「じゃあ、3日後の休日にでもその『予定地』を探検しに行くかっ!」

「ふぇ?!」

「行きたいんだろ?そこへ」

「でも、テオ様の大事な休日が…」

「レイチェルは、俺と休日過ごすのは…嫌?」

「え?…嫌じゃないですよ」

「だったら、予定あけといて!昼食は久しぶりにレイチェルの手作り弁当がいいな」

それを聞いた私は、プッと吹き出して笑った。

「ふふふっ、じゃあ頑張って作ります」

「ああ、楽しみにしてるよ。あと少し、本を調べたら離宮に戻ろう」

「はい!」


私達は、それから1時間程して書庫へ戻るとハリスさんは長椅子でイビキをかいて寝ているし、マリーは恋愛小説を読んで泣いていた。

「まったく、おまえらは…」

王子は、呆れてハリスさんを叩き起こすと私の手を引いて離宮へと戻った。

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