44.国王陛下からの呼び出し
「はぁ、もぉ、離れたくない……」
「………」
「連れて帰りたい……」
「あ、あの」
「あぁ、ずーっと一緒にいたい……」
「ちょっと、テオ様?!」
「自分がダメになりそうだ」
「……あの、紛らわしい言い方しないで下さい!」
マリーを見ると壁際で真っ赤な顔を手で覆いプルプルしている。
(わかるよ。マリー…)
目の前では…私の秘密の部屋に来た王子がコタツに入って冷えた身体を温めながら蕩ける様な顔でテーブルの上を撫でまわしている所だ。
「ああ、このコタツというのは実にいいな。俺の冷えた身体を温めてくれて…ここから出たくなくなるんだよな…。持って帰りたい……」
王子は、キラキラした瞳で私を見て懇願する。
(また、そんな顔して…)
「この部屋から持ち出せないの知ってるでしょ?そんな顔してもダメですっ!」
「えー」
私は、プイッっと後ろを向いてドキドキする心臓を落ち着かせる。
そして、マリーは、サッとトレイにティーカップを乗せると、
「お茶を入れ直してまいります」
と言って逃げるように部屋を出て行ってしまった…。
「「………」」
二人きりになってしまった…。
「……じゃあ、レイチェルを連れて帰ろうかな?」
「…っ!?」
王子は、さらっと心臓に悪い事を呟いた気がしたけれど、
「……何かいいましたか?」
と、言って誤魔化した。
「ふふっ、なんでもないよ」
王子は、少し背伸びをして何もなかったかの様に持って来た本を読みはじめる。
(ああ、これは試練なのかな。本当に心臓に悪いよ……私このままじゃ早く死んじゃうかも)
今は、貴族にとって社交シーズン。
私も友達のお茶会や社交デビューする為に、クローズ伯爵家の王都の邸に母と来ていた。
一週間後、私もやっと社交の場に出て色んな貴族の人との交流をしないといけないらしいけど、正直言ってめんどくさい。
王子とは、メッセージのやり取りを続けていたのだけど、暇な時間を見つけては、「転移しておいで」と呼びつけられ…。王都の邸に来ていると知らせてからは…先触れもなく私の所へやって来る。最近は特に顔を見ない日はないんじゃないかと言う程にやって来るのだ。
「テオ様、こんなに頻繁に来て学園は?公務は大丈夫なのですか?」
「ああ、学園は、卒業前の長期休暇中 知ってるだろ?レイチェルの兄も休みだろう。公務は、大丈夫だ問題ないよ。俺は優秀だからなっ!」
そう言うと、コタツでうさぎさんクッションに頭を乗せ本をまた読みはじめた。
私は、さりげなくスマホを取り出すと写メってすぐにポケットに閉まった。イケメンの隠し撮り…少し癖になりそうです。
ちなみに、兄は、長期休暇に入ってすぐ忙しいと言う父の手伝いをする為、領地に戻っている。
コンコン
「どうぞ」
「また、ここに来てたんですねー。殿下探しましたよ!」
と言いながら護衛騎士のハリスさんが入ってきた。
ハリスさんも慣れているのでドアの前で靴を脱ぎコタツに入って来る。
「ああ、あったかい…コタツは最高ですね。殿下が来たくなるのも分かりますけどねー」
「そうだろー。俺は、ここに住みたい……」
「…っ!?」
ハリスさんは、戻って来たマリーに出してもらったお茶を飲みながら何か思い出した様に話し出した。
「あ、そうでしたー。殿下 至急王城へ戻るようにと陛下からの言伝です。レイチェル嬢もご一緒にとの事です」
(!!!)
「え?!…私もですか?」
「おい!それを早く言え!お前はいつも抜けてるなー。まったく…」
そう言いながら王子は名残惜しそうに立ち上がると帰り支度をはじめた。
ハリスさんは、へへっと笑い頭をかいた。
「あ…あの、私…なんで呼ばれたんでしょうか?」
「ん?さぁな…俺も分からない」
「そうですか…」
「まぁ、行こう。心配するな、俺がついてる」
「はい…」
陛下の呼び出しなんて嫌な予感しかしないけど断ることもできない。
私は、国王陛下に呼ばれた事を母に伝えた所、マリーと数人の侍女達にいつもより気合の入った身支度を整えられた…。
(私…これで行くの?こ…コルセットが…苦しい…)
社交デビューの為に持って来たドレスの一つ、淡いピンクのドレスだった。可愛らしいドレスだけど背の低い私が着るとすごく幼く見えるのに…。
母は、「これがいいわ!」と言ってきかなかった。
至急の呼び出しだと言うのに時間を掛けてしまった私は、急いで玄関へと向かった。
「テオ様、おまたせしました」
「…っ!?」
玄関で待っていた王子は、無言で私をジーっと見つめたまま固まっている…。
「あの…?」
「え?ああ、レイチェル…行こうか」
手を差し伸べて来る王子にエスコートされて馬車まで歩く。
(どうしたんだろう…テオ様の様子がおかしい…。私…どこか変なの?)
馬車に乗ろうとした時、不意に王子が私に耳打ちをした。
「レイチェル…ドレス似合ってるよ。とても、可愛い」
「…っ!?」
今度は、私が固まってしまった…。顔がじわっと熱くなった。
「レイチェル?」
「ふぇ?…あ、はい…」
我に返った私は、馬車に乗り込んだ。王子が乗り込むと馬車は王城へと出発した。
「「………」」
向かい側に座る王子は、なぜかすごく嬉しそうに微笑んでいる…。
「あの…、先ほどは、ドレスを褒めていただいて…ありがとうございます…」
お礼を言った方がいいのかと思って話し掛けた。
「ああ、可愛すぎて困る」
「…っ!?」
さらっと、そんな言葉を口にする王子に…私の方が困ってしまう。
数十分後…。
何度も来ている王城だけど馬車で王城の正門を通るのは何年ぶりだろうか…。
馬車はあっと言う間に王城の前に到着し、先に馬車から降りた王子は、また私をエスコートしてくれる…。
こんなに、堂々と王城の中へ入るのは初めてで…緊張して手が震えてしまう。
「大丈夫だよ。俺がついてる」
王子は、腕に手を回す様にさりげく教えてくれた。
王城の扉が開くと数人の侍女と従者が頭を下げた。煌びやかな装飾が施された玄関ホールを王子は、気にせず通り抜け中央の広い階段を登り廊下の奥の扉の前で足を止めた。
(…ここに国王陛下がいるのかな…)
私は、緊張のあまりゴクリと唾を飲み込んだ。




