43.隣国の王子の訪問
姉が帰国してから1ヶ月と少し。
隣国からの手紙が届いた。ルミエール王家の封蝋の印がされたその手紙には、3日後レナルド殿下が邸を訪ねるとの知らせが書いてあったらしく、「大変だ…」と呟いた父は執事を呼ぶと慌ただしく使用人達に指示を出した。姉は、執務室に呼ばれその知らせを聞いた後から、様子がおかしい。そんな姉とは、反対に母はなぜか気合が入っている様子で仕立て屋や服飾店主を呼んで忙しくしている。
3日後……
昼過ぎに豪華な馬車と数人の護衛を引き連れて隣国の第三王子レナルド・ルミエール殿下が訪問して来た。両親は、レナルド殿下の訪問を歓迎し応接室へと案内をした。
その頃、私は…姉と秘密の部屋でお茶を飲んでいた。
「お姉様は、行かなくてもいいのですか?」
「ええ…呼ばれるまでは…。それにしても、このココア美味しいわ。甘くって落ち着く」
向かいのソファーに座り美味しそうにココアを飲む姉の今日の装いは、とても美しい。
淡い若草色に白い花をあしらって、金糸で刺繍を施されたドレスは姉にとても似合っていた。パールのピアスが耳元で揺れて可愛らしい。
「あの、お姉様……変装は、もうしないのですか?」
「ええ、途中で殿下に顔はバレちゃったの……あ、でも赤茶色の髪だったから、ピンクブロンドの私を見たらどんな顔するかしらね?ふふふっ」
「え?!バレたって…大丈夫だったの?」
私は、驚いて姉の隣に座り直すと姉の顔を覗きこんだ。
「庭師の見習いをしていた時に、殿下に後をつけられていたみたい…。バレても何も言われなかったから大丈夫よ。まあ、他の妃候補の目もあったから向こうにいる間はずっとあの地味な変装をしていたけれど…もう、意味ないでしょ?」
「そうですね…」
姉は、私の頭を優しく撫でて微笑んだ。
(お姉様は、この三年間いっぱい我慢してきたんだろうな…)
きっと、家族を心配させない様に心にしまっている事もあるのだろう。私は、これ以上追求して聞くことをやめた。
数分後。
コンコン
「どうぞ」
「アリエルお嬢様、伯爵様がお呼びです」
「わかったわ」
姉は「じゃあ、行ってくるわね」と、手を振り応接室へと行ってしまった。
私は、自分も一緒に行きたかったけど…呼ばれたのは姉だけ、わざわざ隣国まで王子が訪問に来たと言う事は、きっと、大事な話をするのだろう。
「お姉様、大丈夫かしら…」
私は、姉の事が心配で落ち着かない。なんとなく、バルコニーに出て外の空気を吸う事にした。
帰国した姉の様子は、とてもおかしかった。
たしか、最後の舞踏会でトラブルがあったと言っていた。まさか…よくあるノベルの断罪劇でもあったのだろうか?まさかね…
「お嬢様。きっと、大丈夫ですよ」
マリーが落ち着かない私の為にお茶とお菓子を用意してくれた。
「そうね。ありがとうマリー」
お茶を飲みながら庭に目をやると紅葉した木が風に揺れてサワサワと葉が音を立てた。
「…っ!?」
その木の向こうに姉と王子らしき人の姿を見て「ぶふっ!」とお茶を吹き出しそうになった。
「大丈夫ですか?!お嬢様!」
「ええ、大丈夫よ。マリー……。わたし少し庭を散歩して来ようと思うの」
私は、ニッコリ笑うと姉達のいる庭へとこっそり向かった。
私は、気付かれないように植え込みの隙間からこっそり二人を観察する。
(わたしは、植え込み。わたしは、雑草よ)
はじめて見る隣国のレナルド殿下は、艶のある金髪にモスグリーンの瞳をした長身の美青年だった。まさしく二人は美男美女。
「アリエル嬢」
レナルド王子が足を止めて姉の方へ振り返ると
「本当に、すまなかった…」
姉に深々と頭を下げた。
「…っ?!」
私は、口を両手で押さえ見た事のある光景に胸がズキンズキンと傷んだ。まるで数年前の自分の出来事を見ているかの様に……。
(え?なにこれ?……なにこれ?)
それからは、かすかに二人の声は聞こえて来るものの話が頭に入って来なかった。何か言い合いをして姉が王子の腕を振り払って、
「そんな事…信じられません!」
「アリエル嬢!?」
泣き出した姉は、王子を置いて足早に庭の奥へと行ってしまう。それを追いかける王子。
(……え?お姉様?!泣いてた…)
私は、ドキドキする胸をギュッと押さえ、こっそりとあとを追った。
「待ってくれっ!アリエル嬢!…エルル!」
王子が姉を追っていった場所は、レイチェルのお気に入りの場所だった。
(なぜそこなの?!エルルって言ってた…?なに?エルルって?ん?)
レナルド王子は、姉の手を掴むと自分の方へ引き寄せて抱きしめた。
「ひゃっ!」
「愛してるんだ。アリエル・クローズ嬢…僕の妃になってくれないか」
「!!!」
(うひゃ!お姉様!プロポーズされてる!)
私は、あまりの急展開にびっくりしてドキドキしすぎて心臓が飛び出しそうで慌てて手で口を押さえた。二人は抱き合ったまま何か囁く様な小さな声で話をしている。姉も嫌そうな様子もないし安心した私は、バレないうちにそろそろ自分の部屋へ帰ろうと振り返って今度はギョッ!とした!マリーが口を押さえて号泣していたのだ。今にも声を上げて大泣きしそうで慌ててマリーを連れて自分の部屋へと戻った。
「うっ……ふぐっ……よかった。本当に…うぅ…よかった」
マリーは、私の事が心配で後えおついて来ていたらしい。未だにさっきの出来事に感動し安心したのだろう。ハンカチを握り締めて泣いている。その姿を見ているとなんだか可笑しくなってきて、私の潤んでいた瞳は乾いてしまった。
「ふふふっ、泣きすぎよ!」
「はい……ひぐっ……うぐ…」
私は、自分が結婚する時もマリーはこうして泣いてくれるのかな…。と思いながら泣き止むまで隣に座って背中をさすってあげた。
姉は、レナルド王子のプロポーズを喜んで受ける事にし、早速荷物をまとめて明日王子と一緒に隣国へと向かう事にしたらしい。両親は、もう少し一緒にいたいと願ったが王子が片時も離れていたくないと言うので、娘の事をそんなに想っていてくれるのならばと諦めたようだ。
その日の晩餐に、私はレナルド王子にはじめましての挨拶をすると「君の話はアリエル嬢から聞いているよ」と笑いながら言われた。(姉は、何を話したのだろうか?)王族だからと偉ぶらないし優しそうに姉に微笑みかける所を見て姉を大切にしてくれるだろうとホッとした。
翌日
「お姉様、幸せになってね。何かあったら言ってね!飛んでいくわ!」
「ええ、ありがとう。レイチェルとまだ、話したい事は沢山あるけれど…メッセージ送るわ。それに…また会えるわ」
そして、姉は、最後に私の耳元で、
「案外、あなたも私と一緒かもしれないわよ」
と、囁いてルミエール国へ行ってしまった。
姉は、精霊に愛されし者『幻の庭園の主』だ。その庭園は、ここにあって、ここにない。つまり、近くに緑さえあれば転移する様に移動できるのだと思う。姉もチートの持ち主だった。まだ、私にしか話していないらしい。いずれ両親と兄と王子だけには打ち明けると言っていた。これから先、問題がなければ次に会えるのは一年後の姉の結婚式だろう。本当に心から幸せになってほしいと願って姉と王子を見送った。




