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4.夢と現実・姉妹の縁談

私は、最近同じ夢を見る。


どこまでも広い草原にひとりぽつんと立っていると、どこからともなく女性の囁き声が聞こえて来るという謎の夢だった。


『・・が・・・・いて・・それ・・・・・・・』

んー、何だろ…さっぱり分からない。


『あな………の………1つ……………なわ』

「え?なに?」


『……………ほしいもの1つ……………』

「ほしいもの…?ひとつ?ほしいものと言われても…」


やっと言葉らしい声が聞き取れた。

それにしても、この声…どこかで…。

そこまで考えて、ふと思い出した。

「あーーー」

謎は解けた。私はその場に膝を抱え座り込んだ。


「そうだった。なんで忘れてたんだろう。女神様から加護を頂いたんだ」

きっと、それを知らせる為に、女神様は夢の中まで知らせに来てくれていたんだろう。


『 あなたがほしいものを1つ思い描いて それが加護になるわ 』


私は、困った。

ほしいものと言われても、今世まだ生活に困る事はないし…幸せで至って元気だ。

野心家ではないので、俺TUEEE的な力だったり、聖女の様な能力なんてほしくないし、できれば、普通にのんびり暮らしたいのだ。


そう言えば、前世の記憶を思い出してから、たまに、前世にあった物が恋しくなる衝動にかられる事がある。

そう考えて、ふっと目の前に現れたのは、前世の私の部屋。夢と言うものは便利だ。


「ああ…、そうそう、こんな感じだった。なつかしい」

目の前には、白いコタツ。コタツに置かれたノートパソコン。


「そうそう、このノートパソコンよく使ったっけ…」

私は部屋をぐるっと見渡した。


TV、DVD、棚に並んだ小説や漫画、ゲーム、それに冷蔵庫などの家電製品。

他にも色々…。

楽しむ物が沢山つまった私の部屋だ。


私は、目の前のベッドに腰かけるとポスンッと後ろに倒れ込み天井を見上げた。

今は夢の中、現実に戻ればこの部屋は消えてしまうのだ。

「ほしいな…この部屋ほしい」

つい無意識にぽろりと出てしまった言葉だった。


そのまま、白い天井をボーっと眺めていると また、フッと目の前の景色が変わた。

「え?」

目の前に見えるのは、雲一つない青い空。元の草原に戻って来てしまったようだ。


トットット

「ん?何の音?」

何かが走って来る様な音が聞こえた。


私は、ゆっくり起き上がると周囲を見渡した。

すると遥か向こうの方から白い生き物が走って来くるのが見えた。


「うさぎ?…」

走って来るうさぎの姿は近づいて来るうちにどんどんと大きくなっていった。


ドッドッドドッドッドッド

「え?」

ドスドスドスドスドスと地面まで揺れ始めた。

「え?!えええっー!ちょっ!ちょっと、あのうさぎ大きくない?!」

気付いた時にはもう遅かった。

数十メートルほど向こうにいる巨大なうさぎは止まる気配もなかった。


(これは、やばい!)

そう察した私は、その場から走って逃げ出した。

後ろを振り返る事なく必死に走ったけれど、ドスドスと揺れる音は鳴りやまない。

どうやらうさぎは、私を追いかけて来ている様だ。

チラッと怖いもの見たさに後ろを振り向くと、うさぎとの距離数メートル。

3メートルはありそうな、白い巨大うさぎは迷いなく私目掛けて走って来る。


「えええっー!噓でしょ」

振り向いた事で身体のバランスを失いよろけた瞬間、走るスピードが落ちた。


(あ…足がもつれる。もうだめかも)

そう思った瞬間、背中をトンっと何かに押され前のめりにコケてしまった。


「へぶっ!…」

柔らかい草の地面がクッションになり、倒れ込んだ時の衝撃だけですんだ様だ。

急に視界が暗くなった事に気付いて、恐る恐る後ろを振り向くと…そこには巨大なうさぎがちょこんと(どっかりと)座り私を見下ろしていた。

「「………」」

どれだけ、お互い見つめあっていただろうか……どうやら、襲って来る気配はない。


(ちょっと大きすぎるけどよく見ると可愛い顔をしてる。耳の前に角生えてるけど白くてもふもふだ…ちょっと、触ってみたいな)


私がそのうさぎにゆっくり手を伸ばすと、うさぎは「ウキューッ」と鳴いて、予想以上にぱっくりと開いた口から鋭い尖った歯が無数に見えて、大きな舌が私の顔をベロンと舐めた。




「ひょあああっ!!!」


ガバッと上半身を起こした私は、それが自分の部屋のベットの上だと気付いて今のは夢だったのだとホッとした。


「…ああ…、はぁ…よかった」

窓の方を見るとカーテンの向こうが少し明るくなっている。

すこし早く起きてしまったのだろう。


それにしても、強烈な夢だった…途中までは楽しかったのに…。

同じ様な夢は見ていたけれど今日の見た夢は、今ままでと違うものだった。


「ん?あれ?…なんだろう」

自分の左手にいつの間にか銀色の鍵が握られていた。

そして、ベッドの脇には見た事もない白い扉があった。


白い扉には、木で作られた『 XXX room 』と書かれたプレートが張り付いている。


(…xxx…ルーム…?)

この世界にないroomと言う文字。読めたのは私が転生者だからだ。

そして、察するにxxxは、たぶん前世のわたしの名前が書かれてあったのだろう。


さっきまで見ていた夢と、手にした鍵、目の前の白い扉。

私の心臓はドキドキと音を鳴らした。

ギュッと鍵を握りしめたまま、ベットから降りるとその扉の前に立った。


(たぶん、この扉の鍵だよね。きっとそう…)


私は、扉の鍵穴に躊躇なくその鍵をさし、くるっと回した。

「カチャン」と鍵の開く音がなった。


(入っても大丈夫だよね?ちょっと、怖いけど…あの巨大なうさぎがいたらどうしよう…)

恐る恐るドアノブをまわして中へと入った。


そこは、15畳ぐらいの殺風景な白い部屋だった。

床は木のフローリング、窓はなく天井の丸い照明でとても明るいかった。

部屋の真ん中には、ぽつんと大きめの白いコタツのテーブル。

その上にはノートパソコン、白い球体を持った白いうさぎのぬいぐるみ、手紙が置いてあった。


私は、さっそくテーブルの上の手紙を読む事にした。


『 この部屋をあなたにさしあげます。                』

『ここにあるアイテムを駆使して、あなた好みの部屋を育ててください。 』

『追伸、ぬいぐるみを可愛がってあげてね。              』

『   銀の鍵は腕輪となり、腕輪をかざせば扉は現れます。      』


最後まで読むとその手紙は、ふわっと煙の様に消えてしまった。


なるほど、これが女神様が私に与えてくれた加護なのだろうと察した。

確かに夢の中で「この部屋ほしい」と呟いた気がする。


コタツの上に置かれたノートパソコンは、前世で使っていた物そっくりだった。

手紙に書かれていたアイテムを駆使するとは、きっと、このノートパソコンの事だろう。


好みの部屋を育てる…つまり、私の人生に部屋づくりと言う楽しみが一つ増えた事になる。

まだ、何が出来るのかも分からないし、謎しかないがそれが楽しい。

育つ部屋なんて聞いた事がない。

わくわくする気持ちが抑えきれず、顔がにやけた。


握っていたはずの銀の鍵は、いつの間にか左腕に腕輪となってはまっていた。


「お嬢様ー!どこいったのかしら」

ドアの向こうから私を呼ぶ声がした。


(やばい。もう起きる時間?)

だいぶ時間が経っていたのか、部屋の外でマリーがベットにいない私を探している声がした。

そっと扉を少し開けて、マリーが忙しそうに部屋から出て行った事を確認してからベットの上に戻った。


「ふぅー、セーフ」

xxx roomの扉は、私が部屋から出た後スッと消えて行った。


とりあえず、マリーがもう一度私を起しに来るまで、ベットの上で手を合わせ感謝の気持ち込めて女神様に祈りをささげたのだった。


「女神様、素敵な加護をありがとうございました。もう少し詳しい説明がほしかったよ」






ある日の昼食後に父に執務室に呼び出された為、私は執務室のある2階の廊下を歩いていた。


「あら?レイチェルどこに行くの?」

「お前も何かしたのか?」

後ろから双子の兄と姉に呼び止められた。

振り返ると、ゆったりとした長いウェーブの髪をいじりながら、青紫色の瞳でにっこり笑う姉アリエルと、同じくピンクブロンドの短髪、ペリドットの様な黄緑色の瞳をした兄ルーカスが立っている。


(ああ…いつ見ても惚れ惚れするふたり…眼福だわ)

そんな事より、お前もと言う事は、

「もしかしてお兄様、お姉様達も呼ばれたの?」

「あら、あなたもなのね?わたし達もお父様に呼び出されたの、何の用事なのかしらね?わたし何かしたかしら?」

人差し指を顎に当てて何か考える素振りをするその手には土がついた手袋をはめている。

姉は小さい頃から土いじりが大好きだった。


「俺も呼ばれたんだよね。あの魔道具買ったのバレたかな…」

兄は、頭をガシガシ掻いてにっこりと笑った。兄は魔道具収集が趣味で部屋の中には訳の分からない魔道具がごちゃごちゃ置いてあり、小さい頃痛い目にあったので二度とあの部屋には入らないと決めている。


私は、一緒に執務室へと向かった。


「父上 お呼びですか」

「ああ、三人とも一緒に来たのか」

執務机で書類に目を通している父は、すごく疲れた顔をしていた。

執務机の前のソファーには、母が座っていて、

「三人ともここに座りなさい」と落ち着いた声でそう言った。

「「「はい」」」

三人はソファーに座るとお互いの顔を見て何だろうと首を傾げた。


少しの沈黙の後、向かいのソファーに腰かけた父がため息をついて口を開いた。

「今日ここに三人を呼んだのは、アリエルとレイチェルの事だ」

「「「???」」」


(わたしとお姉様?…)


「んー、まず、アリエル…」

「はい」

「隣国ルミエールの第三王子レナルド殿下の婚約者候補に選ばれた」

「えええ!なんでわたしなのですか?!嫌です!」

「ああ、分かっている。別に妃なんかにならなくていい。大勢いる妃候補の中の一人だからな。ルミエール王国との貿易の窓口であるクローズ領との繋がりが欲しいのだろう。隣国と言えども王命だ…断る事ができない。アリエル、三年だけ辛抱して隣国に行ってくれないか?」

「………」

姉は、俯いて土のついた手袋で汚れるのも気にせず、スカートを握りしめた。


父の話によると、レナルド殿下は現在17歳。王位継承権3位だが、もうすでに第一王子が王太子となっている為、自由に結婚相手を選んでもいい事となったのだが、どうも殿下は内向的でこのままでは、結婚もせず余生をおくりそうだと心配した国王夫婦が、出会いの場を作る為に妃候補を10人選び3年の親睦会と称したお見合いを計画した。3年もあれば好きな相手もできるだろうと考えたのだろう。

そして、殿下が20歳になる誕生日の舞踏会で婚約者が決まる予定だと言う。


「アリエル、隣国に留学すると思ったらいいわ?三年後帰って来たら自由なのだから、それに、ルミエール国には、珍しい植物が沢山あると聞くし」

「え?…珍しい…植物…?」

母は、流石だ。姉の興味を引く事を熟知してる。

姉は、人差し指を顎に当てて何か考えていた。そして、土のついた手袋をぬいだ。


「どうしても断る事ができないのですね…。わかりました…。お父様ひとつお願いがあるのですが?」

「なんだ?聞ける願いならな」

「わたし妃になりたくないので、三年間変装して過ごしたいと思います」

「ん?!…ああ、確かにアリエルの髪は目立つからな。まぁ、いいだろう」

「ありがとうございます」

なるほど、ナイスアイデアだ。

妃になる気がないのだから本当の自分を見せる必要がない。

変装する事で目立たず3年過ごせば、無事帰って来る事ができるのだから、まだ、姉は15歳だし帰って来てから結婚相手を探しても遅くはない。

両親は、姉を説得できた事にホッとしたように見えたが…すぐに顔を険しくした。


「で、だな……次はレイチェルなんだが…」

「はい…」

父は、はあ…とため息をついて額に手を置いた。母が心配そうに父の背中を擦る。

(え?…なんだろう)

なんだか嫌な予感しかない。


「んー、この国の第二王子テオドール殿下から婚約の申し出が届いた」

「え?!」

驚きすぎてハクハクと口が動くものの、これ以上言葉が出てこない。

(今なんて?婚約者候補じゃなくて…婚約?!婚約者って事?!噓でしょ???)


「「!!!」」

姉達もびっくりしたのか、大きな瞳で私を見る。

私は思わず横に首をフルフルと振った。

(いやいやいやいや。ないないありえない)


「候補じゃなくて?婚約…ですか?」

「ああ、そうだ婚約だ」

「手紙を出し間違えたんじゃ…」

「いや、間違いではない」

「………………」

こんな事が起こるなんて、予想もしていなかった。


「そんな、無理です!荷が重すぎます!嫌です!」

私は自分の気持ちを思いっきり叫んだ。


「はぁ…、これも王命なんだ…。何か理由がない限り断る事ができない。それに殿下からの切実な申し出だそうだ」

「なんで、なんで私なんでしょうか?こんな、会った事もないちんちくりんの私じゃなくてもっ!…」

「さぁ、俺にも分からん!」

父は、ちんちくりんってなんだと言いながら、どうして、こんな続けざまに…とブツブツ呟いている。

父も困惑している様だった。


姉が黙ったまま心配そうに私の背中を撫でた。

(婚約って、いずれは結婚して妃になるんだよね?まだ、見た事もない人と婚約なんて!)

不安でしかない。


それに…

私には、小さい頃に出会った忘れられない男の子がいる。

「大人になったら必ず迎えに来るから」と約束をしたのだ。

だけど、テッドと言う名前以外何も知らない彼とは、あれ以来会う事はなかった。

どこの誰なのかも不明。

小さい頃のおぼろげな記憶があるだけ、今頃約束だって忘れているかもしれない不確かなものだ。

だから、私は「テッドがいるから無理」だとは言えない。彼は今どこにいるのだろう。


私が俯いて思案してる間に、母が言葉を紡いだ。

「殿下は、とても聡明な方らしいわ。それに結婚するのは数年後の話よ?まだ、最終的に結婚するとは限らないでしょ?どうしても、無理だと思ったら私達に言いなさい。全力でレイチェルの事を守るわ」

「ああ、そうだ。国王陛下は俺の親友だしな、レイチェルを悲しませるような事があれば婚約を破棄してもかまわない」


(そう、そうか…婚約破棄もできるんだ。だったら、会って確認してからでも遅くないよね)

………仕方ない。

「わかりました。お受けします」

「ああ、では返事を出しておこう。………それにしても、うちの娘が二人とも王族と関わるなんてな…。これから、少し注目を浴びるかもしれん。ルーカスも来年は、王立学園に入学だ。辺境の地を守る者として隙を見せない様に、これからきびしくしごいてやるから覚悟しとけよ?」

「はい、父上」


話が終わると父は、執事を呼びテキパキと指示を出した。

それからは、各自準備に追われ 姉は二週間後に立派な迎えの馬車で隣国へと旅立った。

もちろん、しっかりと変装をして。


私はと言うと、両親も王族との婚約なのだから半年は時間がかかると思っていたのだが、父が至急王城へ呼ばれ話し合いの結果、婚約式が一週間後に決定してしまい。私は、加護の事など考える暇もなく…目まぐるしい日々を送った。


そして、冒頭の出来事が起こったのである。

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