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39.王城の書庫

3日後……


今日は、マリーに王城へ行く事を知らせ出掛ける事にした。

「じゃあ、行ってくるわね。夕食までには帰るから何かあったら通信してね」

「はい、畏まりました」

私は、最近ロイとマリーにもスマホを渡した。

(これで、離れていても連絡取れるしスマホって本当に便利ー)


さっそく、王子の部屋へと繋げた扉を開けると、

「ひゃ!」

「お嬢様?!」

また、手首をつかまれ引き込まれた私は王子にギュッと抱きしめられた。


「ごきげんよう。レイチェル」

「ふぐっ、ちょっと、また、苦しっ…離して下さい!テオ様」

「ふふっ、これは俺とレイチェルの挨拶だよ」

それを見たマリーは、驚いた顔をしていたが安堵して王子に一礼した。

「殿下ー、今日は僕もいる事をお忘れなくー」

「ああ、分かってるよ」

王子は、ハリスに言われて渋々私を離すと、マリーに話しかけた。

「ちゃんと夕食までには帰す。危険な目にはあわせないから心配しない様に」

「はい、お嬢様をよろしくお願いいたします。お嬢様いってらっしゃいませ。楽しんで来てください」

マリーは、にっこり笑って送り出してくれた。


「今日は、両親や兄も公務でいないんだ。だから、書庫で誰かに会う事もないから緊張しなくていいよ。レイチェルは、前に手紙で王城の書庫に行ってみたいと言っていただろう?」

「はい、東の国について知りたくて…」

「ああ、東と言えば…さくら国と言う国があるな」

「さくら国?!」

(まさか、さくらってあの桜かな?…)

「他にも島国が点々とあるからな…。とりあえず書庫に案内するよ」

「はい!ありがとうございます」


私は、お米が東の国にあると聞いてノートパソコンで検索してみたのだが、情報が何一つ見つからなかった。どうも、この検索エンジンは、私が本で調べたり聞いたりして少しでも情報を得ていないと情報を与えてくれないのかもしれない…未だ謎の検索エンジンだ。とりあえず、言える事は私はもっと色々知る必要があると言う事だ。


書庫は、王城の中庭を通って奥の突き当りにあった。

大きな扉を開けると、目の前には壁一面の本棚にずらーっとすごい数の本がならんでいた。

「すごい…」

「まぁ、国の書庫だからな…俺でも全部は、読みきれてないな…」

「静かで昼寝するには、いい場所ですよねー」

「ハリス…サボるなよ?」

「ふふふっ」

さっそく、本を探して回ってやっと一冊見つけたので、私は椅子に座って本を読み始めた。

王子は、奥の棚で本を数冊取り、私が座るテーブルの上に置いた。

「この数冊は、東の国の本だな…」

「ありがとうございます。読んでみます」

「ああ、俺は少し離席するけど人は来ないと思うからゆっくり読んでくれ」

「はい」

私は、さくら国についての本を読みはじめた。

ペラペラと本をめくる音が響き、窓から入ってくるそよ風が髪をかすめていく……

数十分たっただろうか、書庫の扉が開いて一人の中年男性が入って来た。

「こんにちは、お嬢さん。王子の友達かな?」

「はい、レイチェル・クローズと申します。こんにちは」

「ああ、私はここに世話になってる使用人みたいなものだよ」

ゆるいウェーブのかかった銀髪をぼさぼさにしてメガネをかけ、ラフな格好をしたそのおじさんは、にっこり笑って私の読んでいる本を覗き込んだ。

「君は、東の国に興味があるのかな?」

「はい、東の国には珍しい食べ物が沢山あると聞いたので…」

「そうか、声を掛けてしまって悪かったね。気にしないで本を読んでくれ」

「はい」

私は、ふとそのおじさんが持っている本に目がいって表紙の題名を読んだ。

「ヤマト…?」

「……っ!お嬢さん、もしかしてこの文字が読めるのか?」

おじさんのメガネの奥の青い瞳が見開かれ、驚いた顔をこちらに向けて来る。

「え?」

よく見るとその文字は、前世のカタカナだった。

(あ、しまった。どうしよう…なんとか誤魔化さないと…)

「いえ、トマト…トマトジュースが飲みたいなー…って思ったもので…つい口に出しちゃいました。ふふふっ」

(これしか思いつかなかった…。無理があるかな…)

「ああ、そうかトマト、ジュースか…ハハハッ面白いお嬢さんだ。その飲み物は無いかもしれないが、近くの侍女に飲み物を持って来る様に頼んでおくよ。じゃあ、また」

「はい、ありがとうございます」

そのおじさんは、来たばかりだというのに書庫から出て行ってしまった。


「………」

私はテーブルに顔を伏せて「はぁ…」と息をついた。

(良かった…追求されなくて助かった…。それにしても、あの本カタカナで書いてあったな…私の他にも転生者がいるの?)

さくら国だってそうだ。やっぱり、桜の木があると書いてあったし文化も日本に似ていた。


それからまた、しばらく本を読んでいると王子とハリスが帰って来た。

「レイチェルすまない。遅くなってしまった…。何か変わった事はなかったか?」

「あの…使用人だと言う人に会いました」

「は?使用人?」

「中年の男性で髪は確か銀髪でメガネをかけていて、確かテオ様と同じ青い瞳をした…」

「え?ああ、そうか…まぁ、その人なら問題ない」

「???」

「で?…東の国の事は、何か分かったか?」

「そうですね。たぶん、さくら国であってました」

「そうか、今日だけじゃ調べ足りないだろうから、また、書庫を利用できそうな日を手紙で知らせるよ」

「はい、ありがとうございます。…あの一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「あの『ヤマト』って何の事か分かりますか?」

私は、さっきおじさんが持っていた本の事が気になって仕方なかった。どうも知り合いの様だし王子なら何か知っているんじゃないかと聞いてみる事にした。

「ヤマトは、オルティス王国を作った初代国王の名前だな」

「え?!」

「ん?どうした?」

「いえ、なんでもないです…」

(ヤマト…この国の初代国王が日本人かもしれない?まさかね……)

この後、もう少しだけさくら国の本を読み王子の部屋へと戻った。


「今日は、ありがとうございました」

「ああ、少しは役に立てたかな?」

「はい、とても」

「それなら良かった。また、手紙書くよ」

「はい、私も書きます。ふふふっ」

その時だった。


ピチュ、ピチュン、ピピピピピッ


「…っ!」


私のポケットで着信音が鳴った。ポケットからスマホを取り出すとマリーと名前が表示されている。

私は、後ろを向いて指でスライドしてスマホを耳に当て小声で話しかけた。


「マリー?どうしたの?」

『お嬢様、すみません。伯爵様がお呼びです。どうされますか?』

「え?そうなの?すぐ帰るわ」

『はい、かしこまりました』

(お父様…何の用事かしら…今日の事バレた?まさかね…)


通信を切ってスマホをポケットにしまうと私は、王子に帰る挨拶をした。

「あのテオ様、急用が出来たのでこれで失礼します」

「………ちょっと、待て」

王子は、前に腕を組んで眉間に皺を寄せていた。

「え…っ!?」

(なんか、顔怖いんだけど…)

「…レイチェル、今のは、何かな?」

「ああ…えーっと、何のことでしょうか?」

(あ、そうだった。テオ様はスマホの事、まだ知らないんだった)

私の事情を知らない普通の人ならば、私が何をしているのかさっぱり分からないのだろうが、察しのいい王子は、さっきの私の行動で気づいたのだろう。

「さっき何かをポケットから出して耳に当てていただろう?あれは、なんだ?」

私はしぶしぶポケットからスマホを取り出して見せた。

「これは、スマホと言います」

「ふむ…スマホとは、何だ?魔道具なのか?」

「これは、私が作った通信道具です」

「通信道具?!………なぜ、それを俺にもくれないんだ?」

「え?ああ…」

私は、スマホを渡すのは家族とロイとマリーだけと決めていた。だが、王子も秘密を守る協力者であるしスマホを渡してもいいのだろうが…。

(帰ってお父様に相談かな…)

「………」

不機嫌な顔をした王子は、じりじりと私の方へにじり寄って来ると私を壁まで追い詰めてドンッと両手を壁についてにっこり笑った。

「ひゃ!」

(こ、これは壁ドンされてるのでわ???笑顔なのに…怖い)

「レイチェル、スマホの話を詳しーく俺にしてから帰るように」

「は、はい、わかりました」

それから、私は二人でソファーに座るとガッチリ腰を逃げない様に引き寄せられたままスマホの説明をする事になり…。後日、王子にもスマホを渡す約束をしてしまった。

最後に王子は、「これで、手紙を書かなくても話ができる」と喜んで、私の頭をわしゃわしゃ撫でた。



「お嬢様おかえりなさいませ。楽しかったですか?すこし、遅かったようですが…」

「…ええ、楽しかったけど…疲れちゃった」

私は、最後のうっかりで散々王子に「他所では、緊急時以外通信にでるな。メッセージだけにしろ」と注意された、悪用されたらどうするんだとも言われたが、私はスマホを紛失した時の対策も抜かりなく作っている。スマホを持っている人以外には、拾われてもただの木の板にしか見えないし、もちろん、使用もできない。


「そうですか…。疲れてる所申し訳ないのですが…。伯爵様が執務室でお待ちです」

「ええ、分かったわ。言って来るわね…」

(スマホの事がバレて渡す事を約束してしまったし、お父様に話さないと…)



私は、怒られる覚悟をして執務室に行くと父は、相変わらず忙しそうに書類に目を通していた。

「お父様、お呼びですか?」

「ああ、俺はもうすぐルミエール国へ向かう予定だ」

「ルミエール国に?」

「そうだ、二週間後に第三王子の誕生日の舞踏会が開かれる事になった」

「え?じゃあ…」

「その舞踏会でレナルド殿下の妃が決まる」

「そうですか…、お姉様元気にしてるかしら…」

「ああ、大丈夫だよ」

そう言った父の顔が少し曇ったのを私は、見逃さなかった。

「…お姉様に、何かあったんですか?」

「……まぁ、色々複雑でな。安心しなさい。アリエルは元気にしているよ」

「そうですか」

「それでなんだが、俺は一週間以上邸を空ける事になる。領地の事は、ソフィアとロイがいれば問題ないだろう。だが、レイチェルくれぐれも俺のいない間に問題を起こしてくれるなよ?」

「はい、お父様…。あの…さっそくご報告しないといけない事が…」

(怒られる覚悟で…言うしかないかー。やだなー…)

「は?…また、何をしたんだ?」

私は、今日あった事を話すと、父は大きなため息をついて両手で少しの間顔を覆った。

「まさか…王城に転移するとは…。ニクス(国王)にバレたらどうするんだ?」

「テオ様が両陛下と王太子様が公務でいないのだと言ってたので…」

「そうか…。今回は問題なかったかもしれないが…安易に王城に転移する事のないように…。まぁ、スマホの事がバレたのは仕方ない。反対に連絡が取れて助かる事もあるからな。たちまち、俺が領地に居ない間に何かあったら駆け付けてくれるだろう」

確かに、何かあった時に父に助けを求めてもルミエール国に言った事のない私は、転移の扉を使って父を呼び戻す事ができない。

「はい、わかりました」


後日…

「スマホはまだか?」と王子から催促の手紙が届いて、急いでスマホを作るとその日の夜こっそり渡しに行った。王子は大喜びし使い方を一通り教えて帰ると、その日の夜からメッセージのやり取りがはじまった。


私は、書庫であのおじさんに会った事でこれからの生活が一変する事をまだ知らない。

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