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38.王子からの手紙

「お嬢様、またお手紙が届いてますよ」

「ありがとう」

「殿下もマメですね。ふふふっ」

王子とは手紙のやり取りをするようになった。そのうち回数も減るかと思ったのだけれど……変わらず一週間に一通届いている。内容は、些細な日常の事が多い。そして、最後に会いたいとかアイスクリームが食べたいと書いてあった。


私は、さっそく封を切ると手紙を読んだ。

(どうせ、いつもと変わらない…ん?)


『次の満月の夜、王城の庭園にこっそり転移しておいで。見せたい物があるんだ。待ってる』


「………え?」

「どうされました?」

「ううん。何でもない、いつもの内容よ」

(こっそりって書いてあるし…マリーには黙っておこうかな。てか…いきなり転移して来いなんて…見せたい物って何だろ?確か、満月は3日後。まぁ、久しぶりに会えるんだし。ちょっと、楽しみかも)

私は、届いた手紙を引き出しにしまうと早速手紙の返事を書いた。



3日後の夜……

「お嬢様、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい。マリー」


薄暗い部屋の中そっと薄いカーテンを開け窓の外を見上げると、ぽっかりと満月が浮かんでいる。

私は、今日の為に王子が食べたいと書いてあったアイスクリームをインベントリにこっそり忍ばせ、皆が寝静まる頃、そっと着替えてベッドの側の壁に手をかざし、

『 転 移 』 と小さく呟いた。

手が光り真っ白な扉が現れた。

(あっさり成功してしまったけど…。…どうか、庭園に繋がっていますように)

二年前一度だけ訪れただけの王城の庭園。忘れもしないあの婚約拒否された場所…。

私は、ドキドキしながらそっとドアノブを握って扉を開くと…


「ひゃ…ふぐっ…」

(なに?え?え??)

いきなり誰かに手首をつかまれそのまま引っ張られた私は、誰かに抱きしめられた様だ。


『 シーッ、静かに… 』

『…っ!』

顔を上げると笑みを浮かべる王子の顔がすぐ側にあった。


『 ちょっと、もう……テオ様 心臓に悪いです…… 』

私の心臓は、未だにバクバクしていた。

(本当にびっくりした…。死ぬかと思った…)


『 ふふっ、会いたかったよ。レイチェル 』

『 あ、あの、離して下さい… 』

王子のスキンシップは相変わらずで、困ってしまう。兄ですらこんなに抱きついて来ないのに…。

(…テオ様は…妹が欲しかったのかな?)

『 んー…。もう少しこのままがいいけど、バレてもいけないから早速行くか 』


『 どこに行くんですか? 』


『 ついてからのお楽しみだ 』

私が転移の扉を消すと、王子は持っていた厚手のストールを私に巻きつけて手を引いて歩き出した。


しばらく庭園を進むと一頭の馬が待機してあり、

「ふぁ!」

王子は、私の腰を持ち上げ軽々と馬に乗せた。

「レイチェルは、軽いな…」

「…っ!」

王子は、サッと後ろに乗ると片手で手綱を握り、空いた手で私の身体を優しく支えた。


『 ゆっくり走らせるからね 』


背後から耳元に囁かれる声に一瞬ビクリと肩を震わせたがコクリと頷いて答えた。

庭園の奥にある木が茂る小道をしばらく進み目の前に壁が現れたが、王子が壁の凹みに手を入れると壁が扉の様に開いて馬は慣れたようにその扉を通り抜けた。

「テオ様…今のは…?」

「……秘密の通路だよ」

私に教えてしまっていいのだろうかと思ったが、王子が何も言わないのでそれ以上聞くのをやめた。


しばらく馬は、小道を歩き続け、少し開けた場所に着くと馬から降りて側の木に馬を括り付けた。

「あと、もう少しだから」

王子は、私の手を取って小さな小川が流れる道をゆっくり歩きだした。

「暗いから、足元に気を付けて」

「はい」


少し歩くと開けた場所に出て、目の前には小さな泉があった。

泉には、満月が水面に映りこんでキラキラと光っている。


「ここは王族の管理する森で俺のお気に入りの場所なんだ」

「すごく、綺麗な所ですね…」

王子は、泉の側の長い切り株にハンカチをひいて私をそこへ座らせ、自分も横に腰かけた。


「レイチェル、眠たくないか?」

「ううん、大丈夫ですよ。今日の為に昼寝してきました」

「そうか、夜遅くに呼び出して悪かった」

「そんなの、気にしないでください。まぁ、バレたら怒られますけどね…」

「くくっ、そうだな。その時は俺も一緒に怒られてやる」

二人して可笑しくなって静かに笑った。



「この髪飾り…着けてくれているんだな…」

私の頭の髪飾りに気づいた王子は嬉しそうにそっと髪飾りに触れた。

「はい、お守りだから」

「ああ、ずっと着けていてくれ」

「はい…」


優しく笑う王子は、泉に変化を感じたのか私の肩を抱いて泉を指さした。

「もうすぐかな…泉を見てて」

「はい…」

しばらくすると泉が黄金色にキラキラ光出し、森の奥から動物達が姿を現したが、みんなケガをしていて痛々しい。

「え?…」


『 シーッ。動物達が逃げるから静かに見てて 』

『 は、はい… 』

動物達は、光る泉に近付いて水を飲みはじめるとその身体が光を発し、みるみるケガが治っていった。

『 ……っ! 』

『 すごいだろ?人間には効果がないんだよ 』

『 え?そうなんですか? 』

『 ああ、俺が試したから間違いない 』

『 ちょっ!まさか 』

『 いやいや、ワザと自分を傷付けたりしてないからな?訓練中の打撲と擦り傷があったんだよ。それで泉の水を飲んでも治らなかったんだ…不思議だろ?満月の夜…この泉は、動物達を癒す泉になるんだ 』

傷が癒えた動物達は、嬉しそうに飛び跳ねている。


王子の話によると、夜どうしても眠れずこっそり泉までやって来た王子は、たまたま、その光景を目にしたそうだ。次の日もそのまた次の日も足を運んだが何も起こらず、結局満月の夜にだけその現象が起こる事に気付いたらしい。

『 あの、この事は… 』

『 ん?ああ、誰にも言ってない。話してしまうと大騒ぎになるだろ?動物達がケガを癒せなくなるからな…レイチェルと俺だけの秘密だよ 』

王子は人差し指を立てて私の唇に当てにっこり笑った。

泉が元に戻り動物達も去って行った為、私達も来た道を戻る事にした。


手を繋ぎ庭園まで戻ると私は、帰る前に王子に一礼した。

「今日は、ありがとうございました。すごく楽しかったです」

「喜んでもらえて良かった」

「あのこれ…アイスクリーム持って来たので食べて下さいね」

インベントリから箱を出して王子に手渡した。

その箱は、今日の為に私が作った、アイスクリームが4個入る程度の冷凍箱だった。

「これ冷凍箱なので、溶ける心配はありません」

「ああ…ありがとう」

「じゃあ、また」

私が後ろを向いて帰ろうとした時だった、

「あ、やっぱり、今食べたいから…ちょっと来て」

「え?」

王子は、私の手を掴むとそのまま手を引いて無言で歩き出した。

『 ちょっと、テオ様…? 』

大きな声を出す訳にもいかず、ついて行くしかなかった。はじめて歩く王城の中、暗くて静まりかえった廊下を歩き階段を上がって広い部屋へと入った。そこは青を基調とした家具が並んでいてとても落ち着いた素敵な部屋だった。

「ここは…?」

「俺の部屋だよ」

「え?ちょっと、私なんか入れちゃダメですよ」

「レイチェルはいいんだよ」

「………」

そう言って王子は手を引いたままソファーに座った。こんな所が誰かにバレたら大変な事になってしまうのに、なぜか冷静な王子は私を隣に座らせて何か思い付いたのか話し始めた。

「……レイチェル、アイスクリーム食べさせてくれる?」

「え?」

(テオ様は、いきなり何を言っているのだろうか…?)

「ダメかな…?」

「ダメとかじゃ…なくて…」

「………」

寂しそうな顔で見つめられ断る言葉も見つからない…。


「……分かりました」

私は観念して箱からアイスクリームを一つ取りだすとスプーンですくって王子の口の前に差し出した。

「はい…どうぞ?」

王子は迷わずそのスプーンをパクっと口に入れた。

「ん、冷たくて美味しい」

「良かった。ふふふっ」

いつの間にか、王子の笑顔につられて一緒に笑ってしまった。


そのまま、アイスクリームを食べ終えた王子は、

「レイチェル、これで俺の部屋覚えたかな?」

「はい…?」

「庭園だと昼間は、転移して来られないだろ?ここだったら、安心だ。いつでも転移しておいで」

「…っ!」

(あ、これが目的だったのか…)

「今度、アイスクリームのお礼に王城の書庫を案内しようと思うんだ」

「書庫?!」

「ああ、3日後の昼過ぎにまた俺の部屋に転移しておいで」

私は、王城の書庫の魅力に負け何も考えず頷いて約束をしてしまった。


いつの間にか、王子の思惑にはまってしまった私は、この後 謎のおじさんと出会う事になる。

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