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37.サプライズします

黄金に輝く小麦畑を馬車が駆け抜ける。


風が吹き黄金の波となって揺れる穂を見て、

「わぁー!すごい!」

と、何度も声を上げる私に、向かいに座る父は足を組んで少し呆れたように見ている。

私と父は、朝早くからディオスへ視察だと母に嘘をついて、東にある幻想の森へと向かっている。

本当であればここには、母が乗っていたはずなのだが、数日前、母が階段で足を踏み外し転倒 回復魔法は効いたものの大事を取って行けなくなってしまった。

 

2日前、

父が私を執務室に呼びだして、

「これは、ソフィア(母)には内緒だぞ?」

と、言い計画を話してくれた。


 毎年この時期、両親は二人で視察へ行くのだが、実は、結婚記念日の小旅行で幻想の森へ出掛けていたらしい、今年は行けない母にサプライズしたい父は私の能力『転移の扉』を使う事を考えたようだ。

 この能力は、私がその場所に行った事がなければ使えない。そこで急遽、幻想の森へ向かう事になった。なぜ、急いでいるかと言うと結婚記念日は、明日だそうだ。もっと、早く言ってくれればいいのに…。

「お父様、間に合うでしょうか?」

「絶対、間に合わせる。大丈夫だ」

幻想の森は、クローズ領から東に位置し一日で行ける距離にある。ルミエール国とオルティス国に挟まれた広大な森だが、未だ謎に包まれた森でその森に認められないと入る事が許されないと言う。昔オルティスの調査団が入ろうとしたがどうにもできず断念したそうだ。未だに森に入ろうと試しに来る者は後を絶たないらしい。

「お父様…わたし幻想の森に入れるでしょうか?」

「入れるよ。お前はソフィアの娘なのだから問題ない」

「お母様の娘だから?」

「ああ…俺とソフィアは、あの森で出会ったんだ。隣国からの帰りあの森に迷い込んでしまってな…。森の中で出会った瞬間一目惚れしてプロポーズしていた…」

「えええ?!そんなに早く?初耳です…」

「そうだろ、知ってるものは少ないからな…。ソフィアもプロポーズに了承してくれてな…。まぁ、親には怒られたがな…」

父は恥ずかしそうに眉を下げ頭をガシガシ搔いている。

(そりゃ怒られるよね。確かお父様は18歳でお母様は16歳の時に婚約して二年後に結婚したって聞いたような…)

「お父様とお母様は、本当にラブラブですねー!ふふふっ」

「ん?らぶらぶとは、なんだ?」

(あ、そっか…こっちでは、ラブラブなんて言わないんだった)

「えっと、とっても仲睦まじい事を言うのです!」

「そうか、ラブラブか」

父は嬉しそうに笑った。


魔法で馬を回復させながら走ったおかげで、その日の昼過ぎには幻想の森の入口まで到着し、執事のロイには馬車でそのまま邸まで引き返してもらった。

これから徒歩で幻想の森の湖まで向かう予定。幻想の森は、瘴気がない為魔獣はいない。けれど獰猛な動物がいないとも限らない。父は念の為、武装し私を守る準備をして幻想の森へ足を進めた。少し歩くと目の前に茨の壁が現れた。

「ここが幻想の森への入り口だよ。こうして、茨に覆われているんだ。燃やそうとしても燃えないし剣で切っても切れないんだ」

「ここが……でも、どうやって入るのですか?」

「ああ、見てなさい」

父は、茨に向かって構わず歩いて行くと…ズズズ…ズズズズッっと茨がよけてアーチの入り口を作った。

「え!すごい!」

「さぁ、おいで」

父は振り返って私に手招きした。

「………はい」

(私…森に入れるかな…入れなかったら…)

恐る恐る茨のアーチまで足を進めると…茨はそのまま私をアーチの向こうへ通してくれた。

「ハァー…よかった」

「言っただろ?通れると、さぁ、時間がないぞ。急ごう」

「はい、お父様!」

私達を招き入れた茨は、またズズズと音を立てて入り口を閉じた。

何度もここへ来ている父は迷いなく獣道を進んで行く。しばらく、歩いていると聞いた事もない動物の声が聞こえた。草むらの方を見ると数匹のモフモフした丸い生き物がキューキューと、言いながらぴょんぴょん跳ねている。

「か、可愛い!」

私がそっと近づくとその動物はふわっと消えてしまった。

「え?」

「ああ、あれはコロンと言う。精霊の使いだ」

「え!精霊の使い? と、言う事は、精霊もいるのですか?!」

「ああ、いるぞ?まぁ、めったな事がない限り現れないがな」

「そうなのですね!」 私は、胸が踊った。

(コロン、めちゃくちゃ可愛い!もふもふしたい…。精霊にも会いたい)

前世で物語の中にしかないものが、今世では実在する。私に取ったら夢の様な話だ。

なんだか楽しくなってスキップしながら森の中を進む私を見た父は、

「ハハハッ!変な走り方だなっ」と、声をあげて笑った。


2時間程歩いただろうか…結局、あれからコロンも姿を現さず、精霊にも会えなかった。少し足が痛くなって来た頃やっと目の前に湖が見えて来た。その湖の真ん中には、小島があり一本の大木が生えている。水は透き通っていて湖面は、日差しが反射してキラキラ輝いて何とも言えないまさしく幻想的な光景が広がっている。

「綺麗だろう?」

「はい、すごく……」

「ソフィアは、ここが大好きなんだ」

父は、眩しそうに笑った。

(いいなぁ、羨ましい…)

私も、いつか想い想われて素敵な人と幸せになれたらと思う。


しばらく湖を眺め、しっかりと頭に記憶した私は帰宅する為の転移の扉を作った。湖のほとりにポツンとできた扉は、とても、不思議で異質なものに見えた。別に壁がなくても扉は作れる。いつも壁に向かって扉を作っているのは、その方が邪魔にならないからだ。

「お父様 帰ったら明日の準備しましょうね」

「ああ、こっそりな?レイチェル ありがとう」

「はい!」

父は、嬉しそうに私の頭を撫でた。


翌日、計画は大成功した!

前もって、朝から湖にテーブルとイスを運び、お菓子やティーセットを用意して父が母を談話室へ呼び出した。


母は談話室に現れた白い扉の向こうの景色に驚き涙を流して喜んだ。


(こんなに喜んでもらえて満足だわ!よし!今度時間ができたら幻想の森を探検しよ!)


私は、おしどり夫婦の邪魔をしない様に静かに談話室を出た。

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