34.視察最後の一日
あれから王子のアイスクリームを作る為、私は今日も厨房でアイスクリームを作っている。
邸でもアイスクリームは評判が良く厨房の私の作った冷凍庫には、料理人達が試行錯誤した試作品のアイスクリームが入っている。
「料理人の作ったアイスクリームは嫌だなんて…私の作ったものより美味しいと思うんだけどな」
そう言いつつ嬉しそうに冷やしながらアイスクリーム液を混ぜる。
すると、私の耳元に優しく囁きかける王子の声が聞こえてきた。
「俺はね…レイチェルの作ったアイスクリームが食べたいんだよ」
「ひゃっ!……」
私は心臓が飛び出るかと思う程驚いて、顔を熱くして耳を押さえてぷるぷる震えていると、隣に来た王子は「クククッ」と楽しそうに笑った。
「はいはーい、イチャイチャするのはそこまでにして下さーい。殿下、レイチェル嬢に用があって来たんじゃないんですか?」
と、王子の後ろにいたハリスが呆れた顔で話した。
「ああ、そうだったな。レイチェル今日昼から予定は空いてるかな?」
「はい、予定はないですよ?」
「だったら、ソルフェージュの街に一緒に行かないか?」
「また、視察ですか?」
「いや、明日王都へ帰るだろ?その前にレイチェルと街を見て回りたいと思ったんだが…」
(あ、そうか明日帰っちゃうんだ……)
秘密を話してから王子と私は仲良くなった。王子は暇さえあれば私の部屋へ来て寛いでいるし、なぜか、部屋に来た時と帰る時は、私を抱きしめてくるし、私が本を読んでいるとピッタリ隣に座って嬉しそうに見ていたり、とても距離が近くて…私は毎回心臓が持たない…。
「テオ様…近いので少し離れて下さい」
と何度かお願いしたものの…、
「気にする事はない。婚約者だし友達なのだから」
と、訳が分からない事を言って聞いてくれないので結局諦めた。そんな私達をハリスさんとマリーは、ただにこにこしながら生暖かい目で黙って見ているだけ。
(少しは、助けてくれてもいいのに…)
そんな王子とも、少し慣れてしまえば緊張もしなくなって友達の様に話せるようになった頃…王子達は、王都に戻る事になった。
「……じゃあ、お弁当を作るので街の公園で食べましょうか?」
「ああ、用意ができたら言ってくれ。楽しみにしてるよ」
さっそく、簡単な軽食を作ってバスケットにつめ、身支度を整えて街へ出掛けた。
今回は、プライベートな外出の為 王子は変装をしていてどこかの裕福な子息のようだ。
馬車の乗り降りは、王子がエスコートしてくれたけど、洗練された優雅な所作ですごく緊張してしまった。王子は、嬉しそうに笑うから断る事もできない。
まず、公園に行って昼食を取る事になり、木陰に敷物を敷いてバスケットから作って来たローストビーフのサンドイッチを出した。
「あんな短時間で作ったのか?すごいな…」
「パンに挟んだだけですよ?」
王子は、サンドイッチをつかむとかぶりついた。
「ん、うまいな」
「良かった。沢山作って来たのでハリスさんとマリーも一緒に食べましょ」
「はい。お嬢様」
「お前もはやく食べてみろ、うまいぞ?」
「じゃあ、お言葉に甘えてー」
ハリスは、一口食べて目を見開いて驚き、ガツガツと食べ出した。その様子が面白くて笑ってしまった。
「実は、デザートも持って来たんですよ」
私は、インベントリに入れて来たアイスクリームをあたかもバスケットに入っていたかのように取り出した。
「ハハハッ!すごいな!」
昼食を終えた4人は、一時木陰で子供達が遊具で遊ぶ姿を眺めながら過ごした。
「良い街だな…。領民はおだやかで街は活気に満ちてる」
「そうでしょ、私この街が大好きなんです」
私は、街を褒められたのが嬉しくて王子に満面の笑みを向けた。そして、ふと近くの草むらに視線を向けると四葉のクローバーが目に入って、それを摘んで王子に手渡した。
「ちょっと、子供っぽいけど…幸運の四葉のクローバーです。王子に良い事があるように」
「ああ、ありがとう。嬉しいよ」
王子は、受け取ったクローバーをしばらく嬉しそうに眺めた後、ハンカチに包んでポケットにしまった。
「じゃあそろそろ、街を見てまわるか」
「そうですね」
商店街を通り、雑貨屋、魔道具屋、装飾品店を見て回った。行く先々で、王子から「欲しい物はないのか?」と聞かれたが、ないと言って断った。
(殿下に買ってもらうなんて恐れ多い…もし、壊れたりしたら生きた心地がしないよ…)
時間が経つにつれ、大通りに人が増えて来た為4人は馬車で邸へと帰宅した。
その日の夕食は、とても豪華で両親は今回の王子の視察に感謝し、国王陛下への献上品をたくさん用意した事を話した。
王子もクローズ領のすばらしさを賞賛し、時間が出来たらまた来るからと嬉しそうに話し、とても楽しい夕食を終えた。




