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32.覚悟しました

今日は、どうしたのだろうか……?

視察に来たはずの王子は、私の部屋で優雅にお茶を飲んでいる……。


「あの…殿下?」

「…………」

(あれ?無視なの?…)

私は、言い方を変えてみる事にした。

「…テオ様?」

「なんだ?レイチェル」

(やっぱり…名前読んでほしかったのね…)

マリーと王子の護衛ハリスは扉の側でニッと笑った。

「今日は、視察はいいのですか?」

「ああ、問題ない。だいたい、終わったからな」

「え?もうですか?」

「ああ、後は書類をまとめるだけだ」

「そう、ですか…」

(でも、なんでここに来てるのかな?用事があるなら言うはずよね…、暇なの?)

「「………」」



「レイチェル」

「はい」

「先日、この部屋にもう1つ部屋がなかったか?」

「ふぐっ!…え?!ああ……」

私は、飲んでいたお茶を吹きそうになった。忘れていた。あの時は着替えを見られ思いがけない王子の行動ですっかり忘れていた…。


「あれは、レイチェルの扉スキルか?是非もう一度見てみたいんだが」

(私のスキルの事を知ってる……?ああ、そうか、婚約者候補だったし私の事、調べて知ってるんだ…)

「……では、ちょっと、父に聞いてから…」

(勝手に見せるわけにはいかないよね…さすがに、スマホ使うわけにはいかないし…)

執務室まで聞きに行こうとソファーから立ち上がろうとすると、

「ん?ああ、伯爵には許可をもらっている」

「え?!……お父様にですか??」

(まさか…お父様、どこまで話しちゃったの?なんで?……)

なぜ、父は王子に話してしまったのか…。仕方なく?それとも、何か考えがあっての事か…。

「君は、全属性持ちで前世の知識を持っているのだろう?」

「……はい、そうです」

「安心してくれ。レイチェルの事は俺が守るよ」

「……ん?守る…とは?」

(何?殿下は、何を言ってるのだろうか?…)

王子の言葉に首を傾げる私を見て、足を組み優雅にお茶を飲みながら王子は、話を続けた。

「たとえば…船乗りの病の件だが……、もしこのままレイチェルの手柄だと俺が報告すれば、君はたちまち注目を浴びて国や神殿は王命や保護すると理由をつけ君を側に置きたがるだろうな」

「あ…え?そんな…私、嫌です!」

(あ、そうか、そうだった!…)

私は、忘れていた。家族が守ってくれるから大丈夫だと思っていた。なんて甘かったのだろうか、たとえ、父でも何か理由がない限り王命や神殿には逆らえない。この人は、王族だ…。このまま、報告されれば私の今ある自由で平凡な日常生活は終わってしまうだろう。私は俯いて黙り込んだ。


「………」

「ああ、分かってる。…だから、俺は伯爵と協力して君の秘密を守る事にしたんだ」

「え?」

その王子の言葉に私はパッと顔を上げた。

(この人は、王族だけど…敵じゃ…ないの?)

「あ…、ありがとうございます…」

「ああ、それで今回の視察の報告にレイチェルの名前は出さない。だから、他国から来た旅商人に治療方法を聞いた事にしてくれ、あと魔法の事も聞いたよ。陛下に報告はしない家族と引き離す様な事にはならないから心配いらない」

「…テオ様、本当に…本当にありがとうございます」

私は、深々と王子に頭を下げた。

(視察に来たのが殿下でよかった。もし他の人だったら今頃私は……)

「レイチェル、頭をあげてくれ」

「………」

私は、頭を下げたまま…涙がポロポロと零れ落ち膝の上のスカートを濡らした。私が泣いている事に気付いた王子は、私の隣に座るとそっと背中を撫でてハンカチを差し出してくれた。

「大丈夫だよ。俺は君を守りたいんだ。その代わり他のスキルや能力についても知っておく必要があると思うんだ。もっと、君の事を教えてくれるね?」

「はい。わかりました…」

(殿下は、私を守ろうとしてくれてる…だったら隠す必要ないよね)


「ああ、それと…」

王子は、護衛のハリスから書類を受け取ると私の前のテーブルの上に置いた。そして、大事な話をするからと、ハリスとマリーを部屋から退室させた。

「俺が君を守る為には、君が俺の側にいてもおかしくない状況を作る必要がある。だから、伯爵とも話してレイチェル…君をもう一度俺の婚約者にする事にしたんだ」

「え……」

私は困惑した。

(…婚約者に?他に方法はないの?)

守る為とは言え…こんなちんちくりんな私が王族の婚約者だなんて恐れ多いし荷が重すぎる。それに、今回は王命ではないから断る事もできるよね。このまま、殿下の言う事を聞いて婚約者になってしまってもいいのだろうか?考えているうちにテッドとの約束が頭をかすめた。

(そうよ、婚約者になったらテッドとの約束は…?でも…)

どこに居るのかも分からない少年の事を考えるのは、おかしいと思うだろうが…なぜか、未だに忘れられなくて、もどかしい気持ちをずっと抱えていた。それとも、その事を言い訳にこの婚約から逃げられるのでわ?と少し思っているのか…自分でも何を考えているのか分からないくらいに困惑していた…。

「婚約者になるのは…嫌か?」

「あの…私には、恐れ多い事ですし。それに、小さい頃約束をした人がいるので…。…他の方法はないのでしょうか?」

王子は、その言葉に一瞬だけ目を見開いたが、すぐ真面目な顔をして話を続けた。

「ああ…そうか、そうだな…。婚約者になるからと言っても気にする事はないよ。この婚約は公にしない。前の様に堅苦しく思わなくていい。もし、レイチェルに愛する人が出来て…どうしても、嫌だと言うのなら破棄してくれても構わない…」

「そう、ですか…」

守ってもらう為の偽の婚約なんだから、私の安全が確立すれば婚約は破棄されるのだろう。

「実は…俺も父上に婚約者を作れとせっつかれていてね…困っていた所なんだ。だから、どうかな?俺の婚約者に…ならないか?」

王子は、私の手をキュッと握って優しい瞳で見つめる。

(殿下にもメリットは、あると言う事よね?私は、守ってもらえるし…お父様もそれでいいと思っているのよね?)

「はい、…お受け、いたします」

覚悟を決めた私は、笑顔で返事を返した。

王子は、そうかと言って握っていた私の手を引き寄せると、ギュッと私を抱きしめた。

「ああ、ありがとう。大事にするよ」

「ふぁ?…はい。あの、よろしくお願いします…」

抱きしめられた事には、驚いたが…はじめから、よく抱きついて来る人だったので、慣れはしないがこれがこの人の普通なんだと思う事にした。

王子の方を見上げると少し赤い顔で見つめて来るので恥ずかしくなって王子の胸に顔を埋めた。

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