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29.視察に同行します

翌日朝早く父に執務室に呼ばれ、私もディオスの港街の視察に同行する事になった。


今は馬車の中、向かい側には王子が座っている。昨日あんな事があったばかりなのにすごく気まずい…

(どうして、お父様とマリーは違う馬車なの?)

窓の外を眺めていると、

「コホン」

と、王子がひとつ咳払いした。

「レイチェルは、ディオスには行った事があるのか?」

「はい、視察の同行と魚を仕入れる為に何度も行った事があります」

「魚の仕入れ?」

「はい、お店で使うんです」

「ああ、ルピナスと言ったか?」

「そうです!ご存知だったんですか?」

「ああ…まぁな」

「テオ殿下もフィッシュカツサンド是非召し上がってみて下さい!」

「そうだな、視察の合間に行ってみるとしよう」

「はい」


「「………」」


(話が続かない…どうしよう)

少しの沈黙の後、王子は私をジッと見つめて名前を呼んだ。

「レイチェル」

「はい?」

「……二人の時は、テオと呼んでほしい」

「あ、はい…テオ様」

王子は、嬉しそうに微笑んだ。

(ああ、もう、その顔反則よ……)

私は、両手で自分の顔を覆った。



休憩を入れながら2時間後、ディオスに到着した。

白を基調とした町並みに、船着き場を挟む様に2本の高い見張り台が立っている。その港の側に冒険者ギルドと商業ギルドのディオス支部がある。ギルドに挨拶を済ませるとまずは、鮮魚市場を見て周り昼食をとって、港に戻ると数人の船乗りが近づいて来た。

「おお、レイチェル嬢じゃないか!ちょうどお礼を言いたかったんだよ。今回の航海、誰一人体調不良にならず帰って来れたんだ。ありがとう」

「いいえ、私は何もしてないです。皆さんがちゃんと体調管理したからですよ」

「あの教えてくれた料理も美味しかった。また、他にも簡単なのがあったら教えてくれ」

「はい、分かりました。ふふふっ」

船乗り達は、話し終えると私の背後を見てギョッとした顔をした。そこには、睨みを聞かせた王子がジッとこちらを見据えていた。

「ん?みなさん、どうかされましたか?」

「い、いや、なんでもないよ。じゃあ、またなー」

と、言って、片手を上げて足早に去って行った。



「レイチェル、船乗りと親しそうだな?」

背後から声がして、私が振り返るとすぐそばに王子が立っていた。

「ああ、そうですね。長期間航海をされると聞いたので少し助言しただけなんですよ」

「助言を?」

「はい」

そう話した時、父が話に割って入って来た。

「殿下、詳しい事は邸に帰ってからお話致します」

「そうか、分かった」


そして、港の冷凍倉庫を見て回り、停泊している船の中を見学させてもらい。丁度今漁から戻って来た船の荷下ろしをする様子を見学している所だった。王子は常に気になった事を質問し父と話をしている。王子の真面目に視察に取り組む様子を見て、新たな一面を見れたと嬉しくなった。

私は、父達の邪魔をしない様に離れると、荷下ろしをしている船の側にある木箱が気になって漁師に声を掛けた。

「あの、この木箱は運ばないのですか?」

「ああ、この中に入っている物は食べないんだ。あとで、捨てるんだよ」

「そうだったんですね。ちょっと、中を見てもいいですか?」

「いいよ。好きにするといい。もし、いるなら持って行ってもいいよ」

その漁師は、からかう様に言うと荷下ろしを再開した。


木箱からはガサゴソと音が聞こえる。

(…中で何かが動いてるの?)

恐る恐る木箱の蓋を取って中を覗く、そこには見た事ある生き物がいた。

「…え?!これって…昆布とたこ、かに!?これ捨てちゃダメです!」

「は?お嬢さんこんなもの欲しいのか?」

「欲しいです!下さい!」

「ハハハッ!面白いお嬢さんだ。箱ごと持って行きな。他にもあるけど見て行くかい?」

「え?!はい、ありがとうございます!」

(絶対おかしい。あんな美味しい物を食べないなんて、見た目が悪いから食べないのかな…)

マリーと一緒に木箱を運ぼうと思ったが、中を覗き込んだマリーが青い顔をして木箱に近づこうとしなくなったので、諦めて護衛の人を呼んで持って帰る物を仕分けする事にした。





………伯爵は、レイチェルのやり取りを遠目から面白そうに見ている王子に話しかけた。

「殿下、あんな変わったうちの娘で本当によろしいのですか?」

「ああ、レイチェルがいいんだ」

嬉しそうに娘を見ている王子を横目で見ながら伯爵は考えた。

(殿下は、娘の事を面白がってるだけではないのか?)

「じゃあ、どんな事があってもレイチェルを守ると誓えますか?」

「ん?そんな事当たり前だ。何があっても守るよ。たとえ国王陛下であっても」

「…っ?!…そうですか」

(本気なんだな…嘘をついている様には見えない…。俺は、所詮辺境に住む伯爵にすぎない。陛下と親友とは言え、王命には逆らえない。親として情けないな…。こんなに娘を想ってくれている殿下だったら娘を預けても大丈夫か?しかし、娘の秘密を知って気が変わらないと言えるだろうか?話してだめなら俺達で守ればいいだけだ…)

「殿下…明日のご予定は?」

「ああ、午後の予定は決まっていないが?」

「では、明日大事なお話がありますので時間を頂いてもよろしいですか?」

「わかった。空けておくよ」

「ありがとうございます」


離れた所からレイチェルがこちらに嬉しそうに手を振る。

「お父様ー!この木箱持って帰ってもいいですか?」

「ああ、好きにしなさい」

「ありがとうございます!」

楽しそうに箱の中を覗く娘を守る為、伯爵は王子を味方につける事を決意した。





帰りの馬車の中、疲れてしまったのかレイチェルはコクリコクリと居眠りをはじめた。

「疲れてしまったんだな……」

(寝顔も可愛いな…。これから、どうやってもっと仲良くなろうか…)

伯爵には、誤解を解いた事を話し今回の視察の間にレイチェルとの仲を深めたいと頼んだ。早速、今日の視察の馬車移動も二人きりにしてもらったのだ。本当であれば婚約者候補でもない令嬢と二人きりになる事は、許されない事だが…。レイチェル以外の令嬢を妃にするつもりがない事は、父上も伯爵も承知の上で、反対はしていない。いっそ、噂になってくれても良いとさえ思っている。


レイチェルの寝顔をずっと見つめていた俺は、壁に頭を打ちつけそうになる所を見て咄嗟に隣に座り直し、レイチェルの腰をそっと引き寄せると、ポスッと頭が自分の肩に倒れこんで来てホッとした。

「……本当は、昨日…もう一度君に婚約を申し込みたかった…」

王子は、小さい声で独り言を呟く。


しかし、誤解を解いたとは言え…また同じ事を繰り返すのは馬鹿のする事だ。レイチェルの気持ちを無視し王族の権力を使った結果があれだ。今度は、お互いの事を知って俺の事を好きになってもらいたい。昔の約束も覚えているか気になるし、まぁ、外堀は埋めさせてもらうが…その時が来たらもう俺は躊躇しない。

「これから、覚悟して。早く俺の所に落ちておいで」

肩を借り眠るレイチェルは、良い夢を見ているのか微笑みを浮かべている。俺は、その寄り掛かった頭にそっとキスをした。


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