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28.突然の訪問者②


「おまたせ…いたしました」


「ああ…」


簡単に身支度を整えた私は、部屋から出て王子の座る向かい側のソファーに腰を下ろした。

二人分のお茶を用意し部屋の入り口で黙って困惑して立っていたマリーを手招きして呼ぶと小声で何かあったら呼ぶからと一旦部屋の外へ下がってもらった。


「「………」」


王子の顔は、まだ赤くて気まずそうに視線をさまよわせている。きっと、私の顔も赤いのだろう…さっきの事で心臓はまだうるさいままだった。

(ああ、落ち着け…落ち着くのよ…)


 しばらくの沈黙を破って王子が口をひらいた。

「レイチェル嬢、先程は、すまなかった……」

と、私へ深く頭を下げ謝罪した。

「頭を上げてください……さっきの事は、全部忘れてください」

(そう、いっそ その時の記憶だけ消してほしい…)

よりによって、王子にあんな姿を見られるなんて思いもしなかった。それに、なぜ扉が開いてしまったのか謎だった。


「ああ、わかった……善処する」

王子は、私を見てまた赤い顔で気まずそうに目を反らした。

「……っ!」

(気まずすぎる…。殿下…思いっきり見てたよね…思い出さないで…勘弁して)

この空気に耐えられなくなった私は、何とか気持ちを落ち着かせる為、話を変える事にした。


「それで、殿下…なぜ、私の所へいらっしゃったのですか?お父様なら今ディオスの港町に行っていて」

「ああ、そうなんだが。…先に、レイチェル嬢に話があって来たんだ…」

「そう、なのですか…。お話と言うのは…?」

「あ、ああ……何から話せばいいかな…」


王子は、右手を顎に当てて少し考えた後、話しはじめた。

「実は、あの婚約の白紙には理由があったんだ……」

「え?」

王子は、私の命を狙う脅迫文が送られて来た事、私を守る為に婚約を白紙に戻した事。そして、犯人を捕まえた事を話してくれた。

「そうだったんですね…」

「国王陛下も伯爵もこの事は、知っている。内密に対処する為君にも伝える事が出来なかった。しかし、仕方がなかったとは言え、レイチェル嬢を傷つけてしまった。すまなかった……」

「いえ、私の方こそ助けて頂いてありがとうございました」 

お互いに頭を下げた。

王子は、誤解が解けてホッとしたのか、はじめて私の前でにっこりと笑った。それを見て嬉しくなって私も笑顔を返した。

(すべて、私を助ける為だったんだ……嫌がられてた訳じゃなかった…)

私は、王子の我儘だとか 王族は自分勝手だとか思ってしまった事を反省した。



少しの沈黙の後、王子は、話を続けた。

「……で、レイチェル嬢に聞きたい事があるのだが……」 

「はい。何でしょうか?」

王子は、すくっと立ち上がると私の隣に座り直した。

「え?」

驚いて王子の顔を見上げると真剣な顔で青い瞳がこちらを見つめている。その瞳がとても綺麗で吸い込まれそうで見惚れてしまった。

(ちょっと、これは…ヤバいかも…)


「レイチェル嬢…」


「は、はい…」


今から何を言われるのか、私の心臓がドキドキと早鐘を打った。


「旅に出るというのは、本当か?」

「はい?」   

(何の事だろう?)

「東方の国へ他の男と旅に出るのか?」

「え?言っている意味が、分かりませんが?……」

「え?……街で若い男が言っているのを聞いたのだが…」

「………」

(東方の国、若い男……?ライス君の事かな)

「ああ、近々知り合いの旅商人の少年が東方の国へ行きますね」

「では、レイチェル嬢は、行かないのか?」

王子が、レイチェルの腕をガシッと掴んだので一瞬身体がビクッと震えた。

「え?!あの…行きませんけど?」


それを聞いた王子は、その手を放したかと思うとそのまま優しく私を抱きしめて 「はぁー…」と長いため息をついた。

(え?え?なにこれ?!)

「「………」」

王子の身体にすっぽりと包まれて何も出来ないまま、どちらのドキドキする心臓の音か分からない音をしばらく聞いていた私はどうして、こんな事になっているのかさっぱり分からない…。

左手で腰を引き寄せられ右手で私の髪を時々優しく撫でる王子は、一向に放してくれる気配がなかった。

(なんか良い匂いするし、どうしたらいいのかな…いつまで、続くの?)

ずっとドキドキしっぱなしで困った私は、耐え切れなくなって話しかける事にした。


「あ、あの……」

「え?あ、ああ、すまない」 

我に返った王子は自分のしていた事に気付いたのか赤い顔で口を押え誤魔化すようにゴホンっと咳ばらいした。

「レイチェル嬢、俺と友達からやり直してくれないだろうか?」 

「友達から、ですか?」

「ああ、婚約は白紙に戻ってしまったがこの縁をなかった事にはしたくないんだ」

「………」

(友達から?…さっきの行動もよく分からないし、私と仲良くなりたいの?)

「ダメだろうか?」

王子は、寂しそうに私の顔を覗き込む。

「…いいですよ?」

私は、断る理由もないし友達になる事にした。

「本当か?!じゃあ、これからはテオと呼んでくれ」 

王子の不安そうな顔は、みるみる満面の笑みに変わり、私の手を握った。

「じゃあ、私もレイチェルと呼んでください。テオ殿下」

「殿下は、いらない。テオでいい」

すこし不満げにそう言うが、友達だからと言って相手はこの国の王子で婚約者でもない私が呼び捨てになんて出来るわけがない。

「じゃあ、人のいない時だけテオ様と呼ばせていただきますね?」 

「ああ……レイチェル」

その時の、優しく名前を呼ぶ声と笑顔に私の胸はキュンと鳴った。


この後すぐ、両親が慌てて帰って来て 結局王子は、クローズ領の視察に来たらしく一週間ほどこの邸に泊まる事となった。


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