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26.焦りと嫉妬(テオドール)

「いつになったら、誤解を解きに行けるんだろうな……」


俺は、自分の部屋のベットで横になり呟いた。

(冬の長期休暇には、なんとか時間を作りたい…)

王立学園に入り随分経った。学園は、特に面白い事もなく公務のない日にだけ通っている。

最近、剣術の授業でレイチェルの兄ルーカスと手合わせをする事が増えたが。どうやら、向こうは妹にされた仕打ちが許せないのか鋭い視線を俺に向けて来る。三日前の個人戦の時も、戦闘の途中で、「この程度ですか」「妹の事は諦めて下さい」と言って来る。さすがに俺もキレそうになった、まぁ、毎回打ち負かしてはいるのだが…。そう簡単にレイチェルを諦められる訳がない。


「殿下に良い知らせですよ」

「…っ?!」

何処からともなく声が聞こえ、起き上がった目の前に黒い靄が現れた。

「…ジャスパーか?!久しぶりだな」

「ええ、殿下も元気そうですね。お久しぶりです」

相変わらず不思議な術を使うやつだ。

「で?知らせとは?」

「陛下は今レヴァイン帝国との交渉で忙しい為、殿下にクローズ領の視察に向かって欲しいと言伝を預かってまいりました」

「クローズ領の?!」 

「はい、最近クローズ領で船乗りの謎の病を治したとか、貿易の効率も上がって来ているとか。一度クローズ領の視察が必要との事です」

「なるほど、分かった」

(父上が、気を聞かせてくれたんだな)

「そうそう、ソルフェージュの街で行列が出来るほど美味しいパンが売ってるそうですよ。確か店の名前は、ルピナスと言うそうです。オーナーは、領主の娘さんだそうですよ?」

「え?」

(領主の娘って……レイチェルか?そういえば、レイチェルの様子を調べに向かった者からの連絡がないな…)

「視察のついでに寄ってみては?」

「ああ、ありがとう。そうするよ」

(やっと、レイチェルに会える)

俺は、ニヤけた口元を手で隠した。



早速、学園に許可を取り視察の準備をしてクローズ領へ向かう。

しかし、馬車の中、向かいに座るハリスはニコニコ笑顔を振りまくものだから落ち着かない。


「ハリス…その顔やめろ」

「え?何がですかー?」

「なんでお前が嬉しそうなんだよ」

「殿下がやっとレイチェル嬢に会いに行けるから、良かったなーと思いまして」

「まぁ、そうだが……」

「不安ですか?」

「………」

「大丈夫ですよ。誤解を解いたら分かってくれますよー」

「そうだな」


二日間の馬車の移動の末、ソルフェージュの街に到着した。

個性的な建物が並び、人で賑わった街を馬車で進むと ひと際行列のできた店を見つけた。

(ルピナス?多分あそこの店だな)

「止めてくれ、ここを少し見て行きたい」

「かしこまりました」

フードを目部下に被り馬車を降りた俺は、その行列に近づいた。すると、近くにいる男達数人の話し声が耳に入った。


「ここのフィッシュカツサンド美味しいよな」

「俺は、フライドポテト!あれうまい」

「だろ?レイチェル嬢が考えたんだ」

「ああ、お前が最近よく会ってる あのお嬢様だろ?」

(ん?よく会ってる?レイチェルと?!)

俺は、耳を疑った。

「そういえばさ、ライス もうすぐ旅に出るんだっけ?二人で行くのか?」

「うん。東方の国までね。レイチェル嬢の頼みでもあるんだ、長旅になると思う」

「そうか、寂しくなるなー。また、帰ってきたら遊ぼうぜ!」

「うん!」


(…二人で東方の国へ…長旅??レイチェル、まさか……他の男と旅に出るのか?!そんな…止めなくては!)

その少年達を呼び止めようと思った時には、もうそこには男達の姿はなかった。

ふと前にハリスが言った言葉が頭に浮かんだ。

『グズグズしてたら誰かに取られちゃいますよー?』

『レイチェル嬢に好きな人ができたらどうするんですか?』

俺の胸がズキズキと痛む。


「殿下… どうされました?」

様子がおかしいと思ったのだろう。ハリスは、周囲を警戒して声を掛けて来た。

「ハリス…、レイチェルが他の男と旅に出るかもしれない……」

「は?」

「すぐに…すぐにクローズ伯爵邸に行くぞっ」


足早に馬車に乗り込みクローズ伯爵邸へと向かった。

俺は、馬車の中 あの男への嫉妬とレイチェルの事で頭がいっぱいでハリスの言葉も届かないほど冷静にものを考えられなかった。

(レイチェル…行かないでくれ)


伯爵邸へ着くと、慌てた様子の執事と侍女が俺を出迎えた。

「俺は、第二王子テオドールだ。レイチェル嬢に会わせてほしい」

「ようこそお越し下さいました。すぐにお嬢様をお呼びいたします。では、応接室へご案内いたします」

突然の王族の訪問を断る事もできず、執事は深々と頭を下げた。そして、後ろに控えていた侍女は、一礼するとレイチェルを呼びに向かったようだった。

俺は、少しも待っていられなかった。


「いや、いい。自分で会いに行く」  

そう伝えると、俺は足早に侍女の後を追った。

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