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17.危険分子排除(テオドール)

「殿下、今日はあの侍女出てきますかねー」

「囮令嬢をひとりにしたんだ。あのギラギラした目見ただろ?ってか隠れてないし!頭出てたし!」

「ハハハッー、たしかに」

日に日に近くなる侍女の気持ちの悪い視線に背筋がゾワーっとするのを我慢するのに必死だった。時々『殿下、笑顔が引きつってますよ』とジャスパーに注意されるほどに。


2階の部屋の窓から俺とハリスは、ジッと庭園を監視する。

しばらくすると、囮令嬢の前の茂みから女が現われたのを確認すると足早に庭園に向かった。


庭園の方では、女が叫んでいた。

「で、殿下は、私のものよ!あ、あなたには渡さないわ!」

(ん?どういう事だ?)

俺達は、分からない様に植え込みの陰に隠れ二人を見守る事にした。侍女だと思われる女が手にナイフを持っているのが見えた。

「さ、さっさと家に帰りなさい!そして、二度と此処には来ないで!言う事を聞かなければ痛い目に合うわよ!」

(痛い目に合うのは、おまえだ)

囮令嬢だからよかったが、ここにいるのがレイチェルだったらと思うとゾッとする。

「なんなの?何か言いなさいよ!あなたなんかより私の方が殿下に愛されているのよ!これ以上邪魔しないでよ!前に出した手紙でやっと殿下は、気付いてくれたの。本当の運命の相手は、別にいるって婚約だってなかった事になったんだから!」

(は?何を言っているんだ。…やっぱりそうか、あの女の手紙のせいで俺はレイチェルと婚約できなかった)

俺は、拳を握りしめ植え込みから出ようとした所をハリスが腕を掴んで止めた。ハリスは、首を横に振った。俺は、深呼吸すると二人を見据えた。


「ねぇ?なのに、どうして?どうして?今回は、手紙を読んでくれなかったの?あなたが読ませなかったのね!殿下を騙しているんでしょ?もうすぐ殿下が私に求婚してくれるはずなの、私が運命の相手なのよ!」

(は?訳が分からない……)

『殿下…あの侍女に求婚するんですかー?』

『ばか!するわけないだろ?!あんな侍女知らんぐっ……』

大きな声を出しそうになる俺の口をハリスは手で塞ぐと『冗談です』と言って、シーっと人差し指を立てた。

(おまえなー!……)

「だから、邪魔なあなたには消えてもらいます!」

女がナイフを振り回し始めた。

『『!!!』』

それをジャスパーは簡単にかわし女を取り押さえた所で俺とハリスは、女の前まで出て行った。


「話は聞かせてもらった。お前があの脅迫文を書いたんだな?」

俺は、低い声で眉間に皺を寄せ問いただした。

「ああ、殿下私を助けに来てくれたのですね?嬉しい」

侍女は、俺の言葉を無視し、訳の分からない事を言って目を潤ませた。

「は?今からお前は脅迫罪と殺人未遂の罪で投獄されるんだ。しっかり罪を償え!」

俺は、大きな声で罵倒した。

「そ、そんな私を愛してくれているのにどうして?!どうして?」

「はあ?!何を言っている!お前の事など知らない!」

俺は、記憶にない奇妙な事を言う女にイライラした。

「君は、悪くない。このまま侍女として働くといいって慰めてくれたじゃないですか!側にいてくれって事でしょ?」

(そういえば、昔そんな侍女がいたような…しかし、勘違いにも程があるだろ)

「俺は人事の仕事をしただけだ。そこに特別な感情などない」

「そ、そんな……嘘よ。嘘よ嘘よ」 

女は俯むきブツブツと何かを呟いている。

後は、取り調べればすべてが明らかになるだろう。ハリスと数人の護衛騎士に女を牢獄に連れて行くよう指示した。


「やっと、終わったな……長かった」

色々後始末はあるが解決した事に安堵した。

「そうですね」

囮姿のジャスパーが口角を少しあげた。

「助かったよ。ありがとう」

「仕事ですから」

俺とジャスパーは、グータッチした。





「クシュン」


王子は、鼻を押さえた。


「殿下 大丈夫ですかー?」

「ああ、どうせ誰かが俺の(うわさ)でもしてるんだろ」

「まぁ、色々とありましたからねー。あの侍女も殿下を好きになったばっかりに」

「俺は何もしてないぞ。勝手に勘違いされただけだ」


あれから、ケイティー・ダール元男爵令嬢は、取り調べをまともに出来ない状態が続き、自白剤も使えなかった。今も牢屋で過ごしている。言質は取れている為、いずれ落ち着いたら魔法とスキルを封印され、厳しい二度と出て来る事のできない修道院に送られる事になるだろう。


先の事件の首謀者の一人、ジャスミン侯爵令嬢も身分剝奪のうえ魔法とスキルを封印され、極寒の地の逃げる事のできない厳しい修道院へと送られる事になった。ジャスミン嬢の親ヘンデン侯爵は、娘の監督不行届きだった事を認め爵位を降下、賠償金を払わせ、息子に爵位を譲り辺境の地へと隠居した。


もう一人の首謀者グレンは、財産没収の上、辺境の地の鉱山で一生重労働させられる事になった。クロウ商会の男達は、全員処刑された。誘拐された令嬢達は、グレンの別荘で監禁されている所を保護された。もう少し遅れていれば隣国へと売られてしまう所だった。他の行方不明者も現在捜索中、できるだけ尽力するつもりだ。


「やっと、問題が解決したと言うのに次は学園か……」

王子は、執務室の机に頬杖をつき あの騒動の後処理の書類を見ながらうなだれる。

「そうですねー、あ、そう言えばレイチェル嬢の兄と一緒ですよ?」

「兄と一緒で嬉しい訳がないだろ?……それに、レイチェルを傷つけたままなんだ。俺は、嫌われているだろうな」

(会ってすぐ婚約を断る男を印象良く思うはずがない)

王子は、窓の外の庭園を見てあの婚約を白紙に戻した時のレイチェルの顔を思い出し胸がズキンと痛んだ。

「そうですねー。でも、誤解を解きに行けばいいのでは?」

「お前も知ってるだろ?俺のスケジュールを……」

「ああ、びっしりでしたねー」

「そうなんだよ…王子ってなんでこんなに忙しいんだろうな…」

山積みの書類に目を通しながら不機嫌な顔で一口お茶を飲んだ。

最近なぜか仕事を任される事が増えた。一つは兄が再度隣国に行き帰って来ないせいもあるのだが、今回貴族の不正や横領を暴いた事がほとんどの原因だろう。まあ、民を苦しめる者を排除出来た事はいい事だが反対に敵を作ったとも言える。

(どうやら俺は、『氷の王子』と呼ばれているらしい。別に気にしないが)

「王子に生まれた定めって奴ですかねー」

ハリスは、お茶を飲みながらクッキーに手を伸ばす。

「お前は本当に簡単に言ってくれるな……」

「グズグズしてたら誰かに取られちゃいますよー?」

(は?)

王子の書類にサインをする手が一瞬止まった。

「それは……ないと思うぞ。伯爵が無理な婚約は受けないと言っていたし、もう一度婚約の申し込みをしてもいいと許可をもらっているからな」

本当は、もう婚約の申し込みができる。だが、今度は王族の権力を使わず、お互いを知って仲を深めてからレイチェルに直接プロポーズしようと思っているのだ。

「じゃあ、レイチェル嬢に好きな人ができたらどうするんですか?」

「………」

(好きな人…?)

レイチェルには「待ってる」とは言われたが小さい頃の話だ、覚えていない可能性もある。会ったのもたったの一日だけだった。一方的に一目惚れして約束したのは王子じゃなくただのテッドだ。今回は王子として会ってすぐ婚約を断った。

(あれ?今の状況マズくないか?)

「そうだよな。時間を見つけてまずは誤解だけでも解きに行く事にするよ。さすが、ハリスだ。そこのクッキー全部食べていいぞ!」

「え?ありがとうございます?」

(誤解を解きに行こう。長期の休みを取らなくては……最低でも一週間は必要か?)

王子は、そうと決まれば!と意気込んで山積みになった書類を片付けるが……仕事は増えるばかりで、時間と言うものは待ってくれない。あっという間に時間は過ぎて行き、学園に入学した王子は王城と学園とを往復する忙しい日々を送る事になった。

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