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15.わたしの唯一(ケイティー)

病んでいる話になるので苦手な方は戻って下さい。

私にとってテオドール殿下は、唯一の存在だった。


私の名前は、ケイティー・ダール 元男爵令嬢だ。

両親は、浪費家で祖父母が貯めた財産を食いつぶし借金を作り、私が侍女として働いて稼いだお金をすべて持って夜逃げした。

これから、どうしたらいいのか分からず落ち込んでいた私に、

「君は、悪くない。このまま侍女として働くといい」

とテオドール殿下は優しく声を掛けて下さった。

(ああ……なんて素敵な人なのだろう。こんな私に優しくしてくれる)

それからは、テオドール殿下だけが心の支えだった。


仕事も頑張ってこなした。他の侍女にイジメられても我慢した。休みの日には、殿下との逢瀬を想像し日記を書いた。洗濯係で殿下のハンカチをこっそり盗んでしまった事もあった。私の宝物だ。殿下を一目でも見られるように休憩時間は殿下を探し会えたら一日幸せな気分で過ごせる。

(ああ、もっと殿下に会いたい。声を聞きたい。あの笑顔が私に向けられたものだったらいいのに)

だんだん欲張りになっていく気持ちをグッと我慢し毎日を過ごしていた。


ある日、食堂で噂を聞いた。テオドール殿下が婚約をするというのだ。私の心はぐちゃぐちゃに引き裂かれそうになった。

(え?嫌だ、嫌だ嫌だ!)

いつの間にか、気が付いたら私は殿下の執務室の前に立っていて中には誰もいない様子だった。私は、何も考えず執務室へ入ってしまった。そこで机の上にある書類の間に挟まった手紙を見つけた。

中の手紙の内容がチラッと見えてびっくりした。

『婚約をやめろ』

私と同じ事を考えている人がいるんだと嬉しくなった。怪しまれるといけないのですぐにその場を後にしたがあの手紙のおかげで婚約が無くなるかもしれないと思うと辛い気持ちが少し和らいだ。


あれから数日たっても婚約がなくなったと言う噂は聞こえて来なかった。その反対に2日後に婚約式があると侍女長が話しているのを聞いてしまった。

(嘘でしょ?!じゃあ、あの手紙は何だったの?嫌よ!殿下が他の人のものになるなんて!)

どうにかしないといけないと思った。殿下が取られてしまう。どうしたらいいの?私は、思い出した。

(そうよ!私もあの手紙の様に訴えればいいのよ。でも普通の言葉では諦めてくれないはず……じゃあ、人を呪う様な言葉を書けばいいわ)

さっそく、似た便箋を用意し呪いの言葉を書いた。しかし、どうやって渡すのかを考えていなかった。

(婚約式は、明日なのよ…。ああ、どうしたらいいの。殿下に手紙を届けるのは事務官の役目だったはず。事務官に預ける?なんて言えば怪しまれずにすむの?)

悩んで悩んで結局一睡もできず婚約式当日になってしまった。

(このまま諦めるの?嫌よ!とにかく事務官にこの手紙を渡すのよ!)

私は王城の事務室に向かい近くにいた事務官に声を掛けた。

「あの…」

「何かな?」

「あ、あのこれ!廊下に落ちてました」

と、とっさに嘘をついて手紙を手渡した。

「ああ、届けてくれてありがとう」

「は、はい。失礼いたします」

私は、足早にその場を後にした。

(やった!渡す事ができた!)

後は、殿下が見てくれればきっと婚約を諦めてくれるはずよ。


そして、思惑通り婚約は白紙になった。

(ああ、やっぱり私と殿下は運命の相手なのね)

あの苦しい気持ちが嘘のように晴れて、毎日の仕事が苦に思えない程楽しかった。それから、また殿下を見つめる日々がはじまった。

(きっと、時が来たら私に求婚してくれるわ。それまでの我慢よ!)

他の人に笑いかける殿下も自分に笑いかけてくれている様に感じた。会えた日は、私に会いに来てくれたのね!と嬉しくなった。洗濯の仕事をしていても これは殿下の洗濯物だと思って一生懸命洗った。


しかし、あれから数か月が過ぎた頃 殿下は外出が多くなった。

(公務かしら?忙しいのね?)

会えない日が多くなったけれど、二人の未来を夢見て我慢した。


そして、最近 公務が落ち着いて来たのか殿下が王城にいる事が多くなったのだ。忙しそうではあるが前より会える回数が増えた。嬉しい。なぜか悩んでいる顔を見る事が多くなった気がする。

(もしかして、私にどうやって求婚しようか悩んでるのかしら?!ああ、待ち遠しいわ)

胸の前に両手を合わせ求婚する殿下を想像する。ボーっとしすぎて侍女長に怒られたけれど全然気にならない。私は幸せだった。


昨日までは……。


今日も頑張って仕事をしていると侍女達が庭園を見てうっとりしていた。私も気になって庭園の方を見て思わず息が止まりそうになった。そこには、仲睦まじくベンチに座るテオドール殿下と愛らしい令嬢の姿があった。

(どうして?!殿下は私のものなのに!また、私達の邪魔をするのね!)

禍々しい感情が身体の奥から湧いてくる様なそんな気持ちが止まらない。

(やっと、私のものになったと思ったのにあの女許せないわ!きっと、殿下は、あの女に騙されているのよ!可哀そうに困っているのね。私が助けてあげないと)

私は、たくさん考えた。あの女が消えてくれる方法を…だけど見てしまった。殿下があの女と抱き合っている所を、また私の心は砕けてしまった。

(ああ……あの女さえ居なければ、引き剝がさなければ、消さなければ)

私は、また手紙を書き事務官がいる扉の前に行ったが誰にも会えず扉のすきまに手紙を挟むと足早にその場を後にした。そして、あの女が庭園に来た日はずっと監視をする事にした。数日たっても女は殿下と一緒にいる。

(なぜなの?手紙は届かなかったの?読んでくれなかったの?ああ、なんで?どうして?)


今日も分からない様に距離をとって静かに目で睨みつけた。

(殿下の隣には、私がいるはずなのに……どうして?消えてよ!消えてよ!)

しばらくすると、護衛が来て殿下を連れて行ってしまった。そして、あの女が一人になった!

(今がチャンスなのでわ?あの女さえ居なければ殿下の隣は、私のものよ!)

私は、あの女の前へ駆け寄りポケットに入れていた果物ナイフを取り出すと両手で握り前に突き出す。

(さぁ、女と女の戦いよ!私は負けないわ!)


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