13.もう一度誘き出す(テオドール)
俺は、机の上に3通の脅迫文を並べた。
(どっか見落としてる所は、ないのか?)
3通とも筆跡が分からない様に汚いバラバラな文字で書いてある。
(封筒も似てはいるが…紙の質が違うようだし、インクも少し滲んでいる…ん?良く読んでみれば文章が違うな)
『クローズ伯爵令嬢との婚約をやめろ』
『クローズ伯爵令嬢は相応しくない』
『婚約したら令嬢の命はない』
(1通目2通目は似ているが3通目これは……令嬢としか書いていない。まさか、婚約者が誰なのか知らないで書いた…のか?貴族ではない可能性が出て来たな…王城で働く者達は、身分の確かな者が多い、ほぼ貴族出身だしな。では、王城に出入りする人物か…?それならば、王都での俺の逢引の噂を知っているはずだよな…。なんで脅迫文が来ないんだ…?王都の噂を知らない?それとも、諦めたのか?どうしてだ?)
その時 コンコン
執務室の扉が鳴るとハリスが険しい表情で入って来た。
「どうした?ハリス」
「あの最後の手紙なんですが……」
「うん?」
「あの日、事務官が事務室に入ろうとした時侍女に声をかけられ、その侍女は『廊下に落ちていました』と手紙を手渡すと足早に去って行ったそうです。事務官はその手紙を調べずそのまま通りかかった僕に預けた、と……白状しました」
「なるほどな、偶然が重なって、最後の手紙は俺の所に届いてしまったのかもしれないな…」
(もし届かなかった場合、婚約者になったレイチェルは、危険な目に合っていたかもしれないと言う事だ。やはり、早く捕まえなければ)
「殿下、その侍女…怪しくないですか?」
「そうだな、誰なのか分かっているのか?」
「いえ…それが覚えていないそうです」
ハリスは、悔しそうに手を握りしめた。
「はぁ…侍女をひとりひとり調べた所で自分が届けたなどと言う奴はいないだろうな…」
「はぁー、一体どうしたらいんでしょうね……」
王子は、顎に手を当てて、ハリスは、頭をガシガシ掻いて途方に暮れていた。
(侍女は、誰かに雇われた可能性は?落とし物だと事務官に渡しても調べられたら終わりだ。王族へ宛てた手紙をそんな粗末な計画で届くと思う方がおかしい。グレンの場合は、事務官だったからな。では、本当に手紙が落ちていて正直に届けただけなのか…?ってか、あんな手紙落とすのか?ありえないだろ。じゃあ、侍女の個人的な恨みか?それとも……)
王子は、ふぅ……と、息を吐いた、
「もう一度 囮作戦だなっ!」
腕を組み王子は、ニヤリと笑った。
「はえ?!」
ハリスがあほな声を出して呆けた。
「誘き出すしかないだろ?俺の考えが正しければ、犯人は王城で働く誰かだ。まず、侍女達に俺と囮令嬢のイチャイチャしている所を見せて噂になれば、発狂して何か向こうから事を起こしてくれるはずだ」
「うーん。そんなに上手く行きますかねー」
「今はそれしか思い浮かばないんだよ!やって見てダメなら、また考えればいい。王城の中にレイチェルを狙った者がいるんだ…ジッとしていられない」
王子がそう言い切ると執務室の扉の前に黒い靄がブワッと現れ、ジャスパーが嫌な顔をして立っていた。
「また、女装しないといけないのですか?あの足がスースーするスカートは苦手だ……。それも今度はイチャイチャしないといけないなんて……鳥肌が出ます」
「ジャスパー聞いてたのか!仕方ないだろ?仕事だ我慢しろ。俺だってイチャイチャするならレイチェルとがいい!」
ジャスパーは、ひざを折ると
「御意」と、言って俯いた。
「ジャスパーもこっちに来てくれ、三人で作戦を立てるぞ。俺の考えは、こうだ……」
俺達は、三人で作戦を立てた。今度こそ、危険分子を排除するために。




