10.どういう事だ?(テオドール)
戻って来た囮令嬢から報告を受けた俺は、すぐさま護衛騎士達を向かわせ縄で拘束された男達を牢屋へと搬送させた。男達は、自白剤を使うまでもなく悪事を白状した。その証拠をもとに今回の令嬢誘拐は、ジャスミン嬢の依頼であり、クロウ商会は裏で人攫いの仕事を受けている事、その商会を裏で指示していたのは、ジャスミン嬢の叔父グレンだった事が分かった。
父上に報告し直ちにジャスミン嬢とグレンを拘束、牢屋へと幽閉した。二人から事情聴取をしたが素直に白状しない為、自白剤を使う事になった。
グレンは王城で働く事務官だった。たまたま、レイチェル・クローズ伯爵令嬢がテオドール殿下と婚約式を内密に行う事が分かり、ジャスミン嬢がそれを知って激怒。 婚約式の邪魔をする為、叔父であるグレンに頼み込み脅迫文を分からない様に紛れ込ませたのだと白状した。
婚約が白紙になった後、嫌いな令嬢や邪魔な婚約者候補達を商会を使い排除していたと言う。他にも今まで男女問わず十数人を誘拐、人身売買の指示したのだと自白した。ひどい話だ…許せない…。
そして、未だ行方不明の令嬢達の居場所は、北東の街にあるグレンの別荘の地下に監禁されている事が判明し、直ちに騎士を向かわせるように指示を出した。どうやら、事が落ち着く(ジャスミンが婚約者になる)のを待って貴族令嬢を隣国の貴族達に売り払おうとしていたようだ。
未だ調査尋問は続いているのだが、どうやら、話が一部一致しないようだ。
影のジャスパーが今日も尋問した結果を書類にまとめ執務室へと持って来た。
俺・ハリス・ジャスパーの三人は、今回の報告ついて意見を出し合った。
「この報告書によると最後の手紙は、知らないと言っているんだな?」
「はい、脅迫がうまく行かなかった場合は、いつもの様にレイチェル嬢を誘拐する予定だったようです」
俺は、それを聞いて怒りがこみ上げ、目の前の机を右手の拳で「ドンッ!」と叩いた。
「くそっ!今すぐあいつらを処刑してやりたい」
「お気持ちは、分かりますが…まだ、解決していませんよー」
「…ああ、分かっている…。グレンが紛れ込ませた手紙は2通だけか。どういう事だ?最後の手紙はいったい誰が……」
「まぁー、王城で働く者、王城に出入りできる者、でしょうね」
「王城に出入りする者をすべて調べ直すのですか?」
「手間と時間がかかりすぎるな…。そう言えばハリス 最後の手紙は、誰から受け取ったんだ?」
いつも俺への手紙は、ハリスが事務官から受け取り持って来てくれている。届いた手紙は、すべて事務室に集められ危険な手紙じゃない事を確認したら届ける場所ごとにわけた箱に入れられる。
「いつもは、箱から持って来る事が多いですが、あの時は、確かー事務室の入り口にいた事務官から受け取りましたよ。グレン殿ではなかったですね」
「じゃあ、その手紙を持っていた事務官に話しをもう一度聞いてみては?」
「そうだな、ジャスパー。事務室に行って聞いてみるか……」
「僕が聞いて来ますよ。前にも話聞いたし、顔知ってるんでー」
「ああ、頼むよ」
ハリスは、お茶を一気に飲み干すと執務室から出て行った。
「また一から調査か…それにしても、ジャスパーの女装は見事だったな。助かったよ」
ジャスパーは、父から借りた影だ。
この数か月あらゆる調査を頼みすべてにおいて完璧に報告をしてくれる優秀な部下だ。
今回なんとか説得をして女装してもらい囮令嬢を演じてもらった。もちろん、男である。
「本当にもう、女装は懲りごりです…」
ジャスパーは、顔を両手で隠して天井を仰いだ。
「クククッ、可愛かったぞ?まぁ、レイチェルには及ばないがな!」
「………嬉しくないです」
ジャスパーの耳が赤くなるのが見えた。
「はぁ」とため息をつくと、陛下にも報告してきます。と言い 霧のように消えた。
(ため息か……確か、つく度に夢がひとつなくなるんだったか?レイチェルは、元気にしているだろうか?)
数か月前の青いドレスを着たレイチェルを思い出す。
「ああ……レイチェルに会いたいな」
つい口から出てしまった言葉に笑ってしまう。
(俺は、重症だな…早くすべて終わらせて、会いに行こう)
俺は、自分でお茶をつぐと執務机につくた。今までの報告書を何度も読み直す。
俺は、何か見落としてないだろうか?…俺の頭は、今日もフル回転する。




