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1週間もするとひとみはクラスの人気者になっていた。

あっちこっちで呼び止められては話をしている。

誰かと話しているとみゆのほうからは近寄っていくことはなかった。

その輪に入って話をするには人見知りの壁をいっぱい登らないといけないからだ。

みゆはひとみのおかげでクラスで孤独を感じずにすんでる。

ひとみは今日も輝いている。

クラスの中心で明るい笑顔を振りまいてる。

クラスのみんながひとみの周りで笑ってる。

まるでサザエさんの歌のようなひとみ。

そんなひとみがいてくれるから、こうして学校に通えてるんだよ。

心にいつも思ってる、ありがとうって。

みゆは気が付くとひとみを目で追っていた。

それでもひとみはみゆの元に一番にやってくる。

「ランチしよう」といつものように。

 ひとみの食いしん坊は相変わらず。

みゆ以外にもひとみが餌付けされている姿をよく見かける。

 お菓子の新製品なんかをひとみの口に放り込む光景を目撃することは日常茶飯事。


「サザエさんの歌って、るーるるる、る~ってあるでしょ」

「うんあるね」

「あの曲口ずさんでると、なぜか徹子の部屋になるのよねえ、るるる~る、るるる、る~るるって」

「なるほど似てるからね」

「でも作曲してるのは筒美京平といずみたくで違う人なのよね。なんであんなに似てるか気にならない」

「それはきっと学校の校歌がどれも似てるのと同じじゃないの?」

「一理あるわね。あの頃の曲ってあんなのばかりだったのかもね」とひとみは一人納得していた。

 そしてまた別のる~る~ソングを口ずさみ始めた。

「何、その曲?」

「夜明けのスキャット」

「へえ~、しらなーい」とみゆ。

 何でも知ってるひとみは夜明けのスキャットについて語り始めた。

「由紀さおりの曲ね。作曲は徹子の部屋と同じいずみたく。つまりこれはQEDかもね」

「QED?」

「証明完了。謎はとけたってことさ」

 やだ、名探偵。決め台詞を考えてあげないと、

「見た目は子供、中身は天才。小さな胸には知恵が詰まってる。その名も足利ひとみ。名探偵さ」

どんなポーズがいいかな。

 みゆが名探偵ポーズを考えてると、ひとみがいなくなってる。

誰かに呼び出されてたらしい。

それは軽音部の2年生の女子。

ひとみにロリ顔と言った先輩である。

ひとみの元にやってきて、「あの時は悪かった」と頭を下げてたようだ。


 いろんな部活が部員不足で悩んでいた。

 軽音部もその一つで学年の成績が優秀な年は部活をする生徒が少なくなるらしい。

 そもそも学校自体が部活に力を入れてないこともあり、優秀な生徒が多かったここ何年かはどの部活も生徒集めに苦労していた。

 部員が減れば部費も減る。

 部費が減れば生徒がすぐやめる。

 悪循環は続いていた。

 そこでやる気満々のひとみは捨てがたい存在だったのだ。

「上級生に頭を下げられちゃったらしょうがないじゃない」

 ひとみの男気感じます。

「部にまた顔出しますって言っちゃったわけ」とひとみは藤棚の下で熱く語る。

「ところが何、いざ部室に行ってみるとみんなのやる気のなさ」

 珍しくひとみが愚痴をこぼしている。

「適当にギターを弾いたかと思うと、お喋りして楽器を触ってお終い」

 適当に見えるひとみが適当というのだから、ひどい有様に違いないとみゆは感じた。

 しかしひとみの適当は普通の適当じゃない。

 あれで実は一生懸命なのかもしれない。

 いつも笑ってるし、あっさりなんでもこなしちゃうから、頑張ってるように見えないだけで実はとんでもなく努力しているのかも。

 どうやらひとみは凡人のみゆには理解できな領域にいるようだ。

「じゃあ今日は一緒に帰れるの?」

「ごめん、軽音部に行くから…」

 ひとみは文句を言いながらも部活は毎日顔を出している。

 そのせいで放課後デートはずっとお預けになっていた。


 ただ噂では軽音部の活動時間のほとんどをダラダラとお菓子を食べて過ごしているらしいのだ。

 アニメの「けいおん」と同じ、放課後ティータイム。

「ねえひとみの目当てはお菓子じゃないの?」

 みゆは問いただした。

「だっていっぱい駄菓子があるんだよ」

 部費のほとんどは駄菓子代で消えているとも噂されている。

「それにたまに先輩が奢ってくれるし…」とひとみ。

 結局食い意地が勝ったということね。

 たかが駄菓子に尻尾を振って…。

 そんなの私が奢るわよ。

 モロッコヨーグルトでもなんでも買ってあげる。

 駄菓子好きなんて、お嬢様じゃないのね、ひとみって。

 残念だわ、妄想の焼き直しね。

 私の物語ではひとみはお嬢様ということをひた隠しにして暮らしているはずなのに。

 なぜ身分を隠すかって?

 それはとある国の王女様。

 命を狙われて日本で身分を隠して暮らしてる。

 だから頭も良くて何でもできる。

 と、みゆの妄想は膨らんでいたのだが…。


 これじゃただの食いすぎ貧乏家族しか描けない。

 食費のために電気も水も出ない暮らし。

 ショパンどころかリコーダーさえ買えずに、ニンジンに穴を開けて音を出している貧乏家族の主人公だわ。

 そこからの展開じゃ、物語も変わってしまう。

 そうよ、ひとみはその大食いの才能に開花するんだわ。

 師匠はあの軽トラおじいさん。

 あまりのくいっぷりに毎朝雑魚を振舞っている。

「そしてそんなに大食いなら大食いの店の道場破りで食費を浮かせたらいいじゃないか」と助言。

 それは神の啓示であった。

「えっ?道場破り」

「そうだよ、例えば30分以内で3キロのカレーを食べつくしたら、タダとかそんな店を次々に制覇していけばいいじゃないか」と。

 そして修行の末に特大サイズのフォークとスプーンの二刀流大食いを会得する。

 軽トラおじいさんはひとみの運転手を願いでる。

 来る日も来る日も道場破り。

 胃を鍛えるために、魚を口に押し込む特訓をし、たまには賞金を手にし、貧乏で今にも傾きそうな家に戻り、ボロボロの服を着たおかあさんに賞金を手渡す。

 お母さんはいつもすまないねと賞金を手にする。

 フードファイターオリンピックで優勝。

「貧乏が私の才能に気が付かせてくれたんです」と熱弁するひとみ。


「ねえみゆ、聞いてる?」とひとみ。

「また妄想してたんでしょ」

 ヤバい、バレてる。

「どうせみゆのことだから夢かわいい妄想をしてたんでしょ」

 とてもひとみが貧乏から成りあがる妄想をしていたなんて言えない。

「そこがみゆのいいとこだよね」とひとみ。

 やだ、誉められた。

 嬉しい。

 ひとみに誉められるとすごく嬉しい。

 ひとみは嘘をつかないからだ。

 ひとみはとっても純粋で自分の感情をそのまま態度であらわしてる。

 なのに誰からも好かれるのはひとみの才能の一つだろう。

 そしてそんなひとみから誉められたのだ。

 いつもボーっとしてるとしか言われたことないのに、ひとみは私を誉めてくれる。

 やっぱ、ひとみ、大好き。


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