プロローグ
「ふぅ~、こんなもんかなぁ」
ブンっと血振りを行ない、ペチャっと手に持つ大太刀から血が地面に飛ばされた。
場所によっては自身よりも高く草が生い茂り、その周囲はまるで夜の様な静けさと薄暗さを兼ね備えた森が広がっている。
「鍛錬してたのに魔物と遭遇とはツイてないなぁ……いや、俺と遭遇した時点でツイてないのは魔物の方か?
どっちでもいいけど」
チャキっと大太刀を鞘に納めると、小太刀で魔物の素材を集めて風呂敷に包んでいく。
あってもなくても良いんだけど、一応売ればお金になるからな。
「さて、鍛錬も終えたし食材でも確保するかなぁ」
辺りはビューっと強い風が吹き、銀色の髪が揺れる。
右目を隠す様に伸びた前髪と襟足は黒く、細めの目は鋭さを表している。
見方によっては近寄りがたく、怖がられるだろうそんな目付きだ。
正面には男よりも遥かに巨大な熊の魔物の死体が数体転がっていた。
血生臭さが周囲に漂い、しかしながら獣や魔物にとっては餌の在りかを示す重要な手掛かりになっているだろう。
とは言え、自分より強い魔物が倒されている事で、強者が近くにいれば自分も餌食にされてしまう。だから弱い魔物はその強者が離れるのを身を潜めながら心待ちにしているのだ。
そして物陰に潜む事数分――その時が訪れた。
ザザっと魔物達が一斉に餌場へと駆け寄り、奪い合いを始める。
〝食事の時間だ〟
「ちゃんと食えよ? 処理が省けて助かるし、人間に魔物の肉は合わないから」
後方で激しい争いが繰り広げられている中、強者はそう言い残すと森の中へと姿を消していった――
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ここは世界の中心と言われる≪クランベリア大陸≫の大国、グランドワイズから北西に数キロ離れた暗い森。
≪蠱惑ノ森≫
昼間でも陽の光が森の木々によって遮られ、常に闇が支配する場所。
また、森の入り口に美しい女性が立っていて手招きをしたり、突然金銀財宝が現れるなどの噂が多発。
事実確認と称してそれらに目が眩んだ男達が以前に踏み入れたのだが、以降その者達の姿を見る事はなかったのだとか――
それ故、特に男性の行方不明者が続出した事で、人を誘い森へと引き込み餌食とする〝蠱惑ノ森〟と名付けられたのが、この場所だ。
まあ実際には森に住む魔物達が餌を誘き寄せ、自身の糧にしたというだけの話なのだが……
「ふぅ~、今日も平和だった」
朝は森で鍛錬をし、戻るついでに食材を狩る。
そして戻って来たら使用した刀の手入れを済ませて一息吐く。
それが俺、〝セン〟の日常だ。
俺が住まう小屋は〝蠱惑ノ森〟の西側、つまりは奥の方にあるから長閑な場所でのんびり過ごすにはかなり適している。
元々誰も住んでいない古びた小屋だったのだが、修理や掃除をすれば問題なかったので勝手に住み着いた。
最初は大丈夫かな?と思ったけど、もう5年住んでて誰かが来た事はないから最早俺の家なのだ。
はい、完全に自分の解釈です。
と言う訳で、戻る途中で狩った食材を保存用、調理用などに切り分けて夕食の仕込みを開始した。
太い木に細い木を差し込み、回転させながら摩擦で火を熾す。
それを暖炉に投げ入れて火が着いたらそこから燃える木をキッチンへと運び、食材を炒めていく。
森小屋だから仕方無いけど、ここまで自足する形になるのは最初は苦労したもんだ。
今では習慣付いてしまっているのだが。
そんな日常を過ごしていた翌日、ある事を機に俺の生活は激変してしまった――