街路樹が揺れ
最後の蝉の声を聞いた日、
バレリーナの手足のように、
街路樹が揺れていた。
風に枝をそらして、緑の音を
奏でていた。
あまり、夏の空を見た気がしない。
暑さで目が眩んでも、
曇り空しか、見えなかった。
ありがとうって言いたくなる前に、
バレリーナが現れたみたいだ。
今年の街路樹は、何故そうなんだろう。
毎年、同じように揺れていただろうに。
緑の音を奏でただろうに。
ねえ、いいから何でも話してよ。
愚痴でも、後ろ向きなことでも、
何でもいいからさ。
芸術というほどのものじゃないけど、
私がここで揺れているのは、
あなたを癒やしてあげたいから。
バレリーナの声がした。
少し休んだら、また空をみよう。
バレリーナの声がした。
不思議なことじゃなくて、
蝉の後、街路樹の声がした。