第1話 真実はいつも隠されている。
---14年前---
「あらためて、今日は私の即位式に出席してくれた皆に礼を言いたい。ありがとう。」
ガルダ帝国の象徴である黒い王冠を被った新皇帝ロイ15世は片手にワインを持ちながら、低い声で挨拶した。
「さて、私が王に即位したこの素晴らしき夜に、私は20年越しにある出来事について告発したいと思う。というのも、生前の父が20年間これを告発することを拒んだからだ。」
ロイ15世は持っていたワインを少し飲み、顔はにやついていた。
「それは、今のリーネシュタイン王国の王家である、ライオネル家についてだ。」
聴衆がざわめき出した。ロイ15世は少しためた後、ゆっくりと話した。
「もともとリーネシュタイン王は、ズム王国の一等貴族であったリムド家が君臨していた。リムド家は、当時暴虐の限りを尽くしたロス帝国を屈服させるべく、その頃武器商人であり、スパイでもあったライオネルと組み、政治を画策し、戦争を起こして、ロス帝国を滅亡、ズム王国の同盟国という形で、リーネシュタイン王国として建国した。」
聴衆はロイが話を進めるにつれ静まり、彼が話す言葉に耳を傾け始めた。
「最初、リーネシュタイン国王はリムド家の当主アレス・リムド、ライオネル家は大臣として政治を支えていた。しかし、初代王アレス・リムドが死んだ後、彼の子供三人の謎の突然死によりリムド家は後継ぎを失くし、事実上滅亡、王家は現在のライオネル家が引き継ぐことになった。」
ロイは深い息をついた。
「と、歴史ではそうなっているが、私は今宵、この20年前の事件の真相を語ってもらうべく、ある方に来てもらっている。」
彼の後ろから現れたのは金髪で、白い肌が彼の白いタキシードと一致するほどきれいな好青年だった。
「私は初代リーネシュタイン国王アレス・リムドの三男、ファラ・リムドです。」
聴衆がまた大きくざわついた。思わず口に手を当てて驚くものもいた。ファラは構わず話を続けた。
「突然の連日の二人の死で、悲しみに沈んでいた日の夜、私は兄弟の死が何者かの仕業であると疑い、城中の従者の部屋を密かに調査したのです。そこで、私はライオネル殿の部屋から、兄弟が亡くなった日に着ていたコートと容器に入った透明な液体を見つけたのです。」
「側近に調べてもらったところ、この透明な液体はやはり人間には吸っただけで害をもたらし、空気に触れると数分の後に気化する液体だったことがわかったのです。私はその時、確信しました。犯人はライオネルであると。私は影武者を用意し、ガルダ帝国に亡命。そこから20年間、ガルダ帝国でひっそりと暮らしてきたのです。」
ロイは終始不気味な笑顔を浮かべながら、右手に剣を持ち、天に掲げた。
「ライオネル家は罪人の家。罪人が王を務める国など許してはならん!我が国はこれよりリーネシュタイン王国に正義の鉄槌を下す!」
ロイが話し終わるのと同時に城には宣戦布告を表すライオンの旗が掲げられた。
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---リーネシュタイン城にて---
「ミレナ様!!!マレス様とアイク様が守られていた東の塔と西の塔が攻め落とされた模様。二人ともまだ生存が確認できていません!」
太柄で鎧からお腹が出ているサンタが、お腹を揺らしながらミレナに急いで伝令した。
(はぁ…、何てことを、私の子達…。私より先に逝ってしまうなんて…。)
ミレナの目からは涙があふれ出てきた。
リーネシュタイン王国とガルダ帝国の戦争は、ガルダ帝国の宣戦布告の際の演説により各国、国民すべての反感を買い、リーネシュタイン王国には圧倒的に不利な戦いとなった。同盟国であったズム王国もまた、リムド家の報復として同盟を破棄し、リーネシュタイン王国に宣戦布告。ガルダ帝国とズム王国の連合軍の前にリーネシュタイン王国は今まさに城が落とされようとしていた。
(ここまでか…。)
ミレナは攻め落とされる城を前に、自分を囮に1歳の息子、ダンテ・ライオネルを逃がす決断をした。
「サンタ、この子を連れて城を脱出して。」
サンタは一瞬たじろいだ。
「それはつまり、ミレナ様はここに残ると。」
「そうよ。」
ミレナはサンタの目をじっと見つめた。
「な、なりませぬ!城からはミレナ様がダンテ様を連れて逃げてくだされ。」
「サンタ!あなたは魔法が使える??あの軍勢を相手に時間稼ぎになれる??この子を連れて城から脱出するには時間が必要なのよ!」
サンタの目には涙が溢れた。
「私が時間を稼がなければ、この子は逃げられない。サンタ、これが最期の命令です。この子をよろしくね。立派に育ててください。」
サンタは号泣しながら、了解です!と返事した。
「床の隠し通路から逃げて。逃走用に配備していた馬がいるわ。その馬で父上の国まで逃げるのよ。」
サンタは床の一部をめくって、その下に続く階段を急いで下った。赤ん坊を大事にかかえながら、無我夢中になって走った。
隠し通路を下り、ドアを開けるとそこには馬がいた。
(今までお世話になりました、アーサー様、ミレナ様…!この子は立派に育てます!)
静かな夜の森を馬でかけながら、二人はミレナの父の国、ムンク国に向かった。