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その名は闇のモノ

―しかし、ナイフが陽日を傷付けることはなかった。


「なっ!?」


遊間の腕を、陽日の手がしっかりと掴んで止めたから。


「はぁ…。ヤレヤレ。ようやく出られたな」


陽日の声なのに、陽日ではない。


顔を上げた顔も、陽日のそれではない。


「ったく。ギリッギリで出しやがって…。後で説教もんだぞ? 陽日」


「…陽日?」


陽日の変貌ぶりに、遊間は動揺する。


「あっ? ちげーよ。俺の名前は…」


恐るべき力で、自分を押さえ込む連中を引き剥がしながら、彼は笑った。


「月夜だ」


自分の腹の上に乗る遊間を蹴り飛ばし、月夜は身のホコリを叩き落としながら立ち上がった。


「随分出来の悪い『人形』を作りやがって…。お前、よっぽどオレに殺されたいらしいな?」


そう言いつつ、月夜は戦闘態勢に入った。


男女混ざっている『人形』達を、一瞬の躊躇いも無く暴力で地面に叩き伏せる。


そこに、迷いや罪悪感なんてまるでない。


陽日に傷付けた連中に、月夜は容赦しない。


陽日を守る―それが月夜の存在意義だから。


「はっははっ…! まさか陽日が、ツキヤだったなんて…!」


『人形』達が次々にやられていく中、遊間は狂喜の笑みを浮かべた。


「そうか…そうだったんだ! ツキヤ、キミは陽日が生み出した人格。陽日は二重人格だったのか!」


「何を今更。オレが誰よりも何よりも陽日を優先し、大事にしてきたことを知っているんだろ? なら、簡単に出せる答えだ」


3年前、陽日は精神的に追い詰められていた。


そこで生み出されたのが、月夜という人格。


カリスマ性があり、何でも上手くこなせる彼を、陽日は自分の中から生み出してしまった。


ところが主人格である陽日の手を離れつつあった月夜。


暴走の代償として、月夜は陽日の中で深い眠りにつかされた。


「なるほど。彼の3年前の状況を考えれば、簡単なことだったね」


遊間は笑いながら立ち上がった。


「ねぇ、会いたかった…! 俺はずっとキミに会いたかったんだ!」


夢見心地の表情で近付いてくる遊間を、月夜は冷めた眼差しで見ている。


「あんなつまらない人格に、キミは囚われるべきじゃない」


「つまらない?」


月夜の眼が、険しくなった。


「そうだよ! 陽日なんて控え目なフリをしているけど、ただの臆病者じゃないか! キミこそ、主人格として生きるべきだ!」


殺気立つ月夜の雰囲気に、遊間は気付かない。


「てめぇ…! 言っちゃならねぇことを、言いやがったな?」


「えっ?」


後一歩という所で、遊間はようやく空気の温度差に気付いた。


そして気付いた時には、首を捕まれ、地面に叩き付けられた。


「ぐはっ! なっ何故…?」


「バカ言ってんじゃねーよ。オレにとっちゃ、アイツが全てなんだ」


月夜は陽日を乗っ取る為に生まれた存在ではない。


守る為だけに、生まれてきたのだ。


それを否定されることが、月夜は何よりもキライだった。


「お前、このまま生かしておくと、後々アイツに危害を加えそうだな。早めに始末しておくか」


首を絞める手を緩めないまま、月夜は遊間の体を引きずり、手摺までやって来た。


「なっ何をっ…!」


「あっ? テメーが言ってじゃねーか。ここで飛び降りても、自殺になるって」


イヤな笑みを浮かべる月夜を見て、遊間は自分の危機を悟った。


「まっ待って! 俺は陽日に危害を加えない! キミに会えただけで、満足なんだから!」


「ウソつくな。コレもさっき言ってただろ? アイツの存在を否定するようなことを!」


「ひっ…!」


「アイツを傷付けるものは、全て消す。それがオレの存在する意味だからな」


遊間の体をいとも簡単に持ち上げ、上半身を手摺の向こうに押した。


「やっやめっ!」


「じゃあな」


―ダメだっ! 月夜っ! 殺すな!


「ぐっ…。陽日?」


突如頭の中に響いた陽日の声に、月夜の手が止まった。


―人殺しは絶対にダメ! 僕ら、それこそもう二度と会えなくなる!


「だが陽日、コイツを野放しには出来ない。お前を傷付けたコイツを、許すことはできない」


―それでもだ! …月夜、僕はキミを失いたいくない…!


「陽日…」


切ない陽日の声で、月夜は少し考えた。


「はぁ…。分かったよ」


ため息をつくと同時に、遊間の体を屋上の床に投げ捨てる。


すでに遊間は意識を失っていた。


「今日のところはお前に免じてコイツを解放するが…。二度は無いぞ?」


―…うん! ありがと、月夜。


「全てはお前とオレの為、だろ? ならオレは引くとしますか」


月夜が肩を竦めるのと同時に、屋上の扉が音を立てて開いた。


「ハルくん! 大丈夫?」


希更刑事が、飛び込んできた。


「…っ! コレは一体…」


希更は倒れている学生達の中、1人立つ陽日の後姿を見つめた。


「ハル、くん?」


恐る恐る声をかけると、陽日はゆっくりと振り返った。


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