現れし者
「ね、陽日。彼を呼んでよ」
「断る。僕はもう、彼を頼らないことを決めたんだ!」
「う~ん。困ったなぁ。陽日しか手掛かりがないんだよ」
「知らない! 僕はもう関係ないんだ!」
「…そこまでイヤがるなら、仕方ないね」
遊間は肩を竦め、ため息をついた。
「悪いけど、ムリにでも呼び出してもらうよ?」
ぞっとするほど冷たい目で僕を見る。
思わず出口に駆け出そうとしたら…。
「あっ…」
…例の、『人形』達が扉からゾロゾロ出てきた。
「ここで飛び降りても、自殺ってことになるよね?」
「遊間っ!」
僕が怒鳴っても、遊間は笑みを崩さない。
『人形』達は虚ろな笑みを浮かべながら、僕に近付いてくる!
希更さん達に連絡しようと、ケータイを取り出すと、
「押さえろ」
遊間の一声で、『人形』達が一斉に襲い掛かってきた!
「うっ…!」
あっという間に、僕は地面に押さえ付けられた。
「彼に連絡してくれるなら良いんだけど。警察はカンベンだなぁ」
僕の手から落ちたケータイを拾い上げ、遊間は操作し始めた。
「…ねえ、どれが彼に通じるの?」
ケータイには門馬さんと希更さん、そして数人の情報しか入っていない。
「もしかして、シークレットにしてる?」
「さあ、ね」
苦しい息の中、僕は笑って見せる。
遊間の目が、僅かにつり上がった。
「陽日、俺はキミのことも気に入っているんだ。できれば傷付けたくない」
「こんなことをしといてっ、何を今更…」
「うん、そうだね。だから早く彼を出してよ」
急に恐ろしい顔付きになった遊間は、僕の上に乗りかかり、首を締め上げてきた。
「がはっ!」
「彼に会いたいんだ。会いたくて会いたくて、仕方ないんだ」
遊間の目は、苦しげに歪んでいる。
まるで恋焦がれているように…。
「彼が俺のことを知らないのが、苦痛でたまらない。会わせてくれるだけでいいんだ。キミに迷惑はかけないと誓えるよ」
「イヤっ、だ!」
それでも僕は頷かない。
「―そう。なら、仕方無いな」
遊間は片手を外した。
すると『人形』の1人が、遊間の手に、ナイフを持たせた。
「キミを傷付ければ、さすがに彼も出てこないワケにもいかないだろう? キミは彼に、大事にされてたんだし」
「やめっ…! ゆうっ、まっ!」
そんなことしたら、本当にボクが現れてしまう!
それだけは!
「最後のお願い、だよ? 彼に会わせて」
僕は唇を噛んだ。
それでも…それでも僕は!
「ダメだ」
ハッキリと拒絶した。
「そっ。じゃあ仕方ないね。彼の怒りを買うのは予定外だけど、しょうがないもんね」
そう言った遊間の手に握られたナイフが、僕に振り下ろされた…。




