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2019/07/16執筆。



「まず勇者とは異世界からやってくる者の総称のことだ。」


「……総称?」


「あぁ、まずコハルとレイスの違いは分かるか?」


「時代?」


「いや、それもなんだがコハルは転移してやってきた者。つまり肉体と精神その2つがこちらの世界にやってくる。」


なるほど。

でも俺はすでに葬儀が終わって肉体がなかったから魂だけこっちの世界に来た。


「そうじゃ。コハルのような者を転移勇者、レイスのような者を転生勇者と呼ぶんじゃよ」


「……違いがわからない」


「ただ転移勇者はコハルのように女神の加護を受けて来る者もいればこちらの世界から召喚して強制的に呼ぶ場合もある。ただどちらもこちらにくる時負の感情を媒体にするためそれに関する特殊能力を得ることができるのだ」


「……俺みたいな転生する勇者は?」


「……100年に一、二度しか来ない。わしだって初めて見るからな。あるとすれば天災や世界の危機の時に様々な女神が力を込めてこちらの世界に送り出す。その為負の感情は使わないから特殊能力は無い。」


「えぇ!?なんで!?転移勇者だけずるくね!?」


「ただそのかわり転移勇者にはない利点がある。」


「え?」


「転移勇者は負の感情のかわりに特殊能力を得ることができるが肉体は魔法概念がない世界のものなんじゃ。だから魔力は全くない」


「……ってことは…?」


「レイスの肉体はこの世界のものだから魔力がある上に様々な女神の加護、他にも色々ある。勇者の中でもトップクラスじゃ」


「まじで!?」


「……しかし…レイスの様な者が現れたことは近々天災がくる運命。その責務は果たさなければならないだろう」


「……え?」


そこはどうなんだろう?

俺、手違いで転生することになったしそもそもセレフィはそんなこと話してなかった様な気がするんだけど?


「……まぁ、いっか」


でもこれで魔物を殲滅することも分かった。一刻も早くここを出て冒険者ギルドに……


「レイス、そこで私からの提案なんだが」


「……え?」


「レイスもここで暮らさないか?」


「…は?」


「たしかにレイスの魔物への気持ちも分かるが……」


なんとなくだけどボロスは魔王だけど本当にいい魔物なんだろうと分かる。助けてくれた恩もある。


でもボロスは魔物と人間の共存を目指している。人間だけでなく"魔物"もだ。

だからこんなことろにずっといると村の人たちに誓った気持ちが薄くなる気がするんだ。


「………まぁ、ゆっくり考えてくれ。体を休めるためにも何日間かは滞在するといい」


「……ありがとう。」


ボロスの部屋を出て外に出て木陰に座った。


目の前の広場には数人の人の子供と魔物の子供が仲良く遊んでいた。


「……本当に共存してるんだな」


うとうとしてるとアルさんが横に座っていた。


「……ねぇアルさん」


「え?なんでしょうか?」


「……アルさんは魔物?」


「いえ、人間です」


「どうしてここにいるの?」


「……えっと……魔王様に助けられてからここに暮らしてます。」


「え?」


「恥ずかしいですが……私奴隷商人に捕まったんです。」


「は?」


「……アローズ地方を通る際にトールさんとルズさんに助けられてこの地にお世話になってます。」


「へぇ。」


「あっ、そういえばあなた様もトールさんとルズさんが周辺の見回りをやってた時に見つけたみたいですよ?」


「そうなんだ?あとでお礼言わなきゃね」


「ふふっ、そうですね。でも私以外にも助けられたり魔物との結婚が認められない人、ご先祖様の代からこの地にいる人間や魔物と色々いますよ」


……ずっと続いてるんだな。

人と魔物が共存するなんて考えたことも無かった。


「おっ、目覚めたようっすね!」


声のする方を向くとガタイのいい男がいた。


「あっ、トールさん」


「トール……?」


「ほら、さっき話してたトールさん。魔族じゃないけど魔王様の幹部の1人なのよ。」


この人がトールさん?

筋肉は太く、しかし無駄のない肉つき。

その身体とは裏腹に優しそうな顔だった。


「ひゆぅ〜。俺を噂してるってそんな照れるっすよぉ〜!ところでアルさん……」


「え?」


「今度俺とお茶でもどぉ……」


「ごめんなさい。私トールさんはタイプじゃないの」


「最後まで言わせて!?」


……即答だったな。

アルさんってもしかして物事はっきり言うタイプ?


「……ま、そんな日もあるさ!めげずに明日も誘うよ」


「ふふっ、流石に毎日言われると迷惑だからやめてね。嫌いになりかけてるから」


「……えっ」


「………冗談よ冗談。ふふふっ」


「………はぃ」


……怖いなぁ。

仲良くして。俺が気まずい。


「ところで君は確か……レイスくんだったね!」


「あっ、はい!その都度はお世話になったそうで………ありがとうございます。」


「気にしないでいいっす!ところでレイスくん……」


「はい?」


「ちょっと広場まで行かないかい?君と少し話したいんだ」


「あ、はい……。」


レイスはそういうとアルに手を振って別れると今度はトールについていく。


こうしてみると意外と魔族や人が多い。魔王の支配下なだけ店や家などたくさんあって栄えてるのがわかる。


「へへっ、驚いったっすか?結構賑やかでしょ?」


「ま、まぁ……。自分の村は田舎だったし……その……魔物もみたことなかったんで」


「……………。」


「……魔王の作りたい世界……。たしかに平和でいいですね」


「……俺、もともと王都の騎士団長だったんす。冒険者になって……名を売って苦労して騎士団に入れたんすよ」


「騎士団ってたしか冒険者の中でも実力者しかなれないって……。」


「俺には野望があったんすよ」


「野望?」


「魔物を駆逐することっす…。」


「……っ!!」


「俺はずっと昔に家族を魔族に殺された。俺はギリギリのところで冒険者が助けてくれて命を失わずに済んだっす。」


この人も俺と同じ……?

レイスはそう思うと同時にお腹の奥がぎゅっとなる。


「苦労して苦労して、そして団長まで登りつめて魔王であるボロス様を討伐するためにこの地を訪れたっす。」


「え?」


「王都の騎士団の殆どが参戦し、魔法使い、冒険者までもが参加した。王位継承のある王子までも討伐に参戦した。」


「結果は……?」


「ほぼ互角。今思えばボロス様達は受け身だったことがわかったんですけどそれでも強かった。命を失わない程度に反撃し、前衛をかき回し、最後にはボロス様は天に咆哮を放った。次元が違いすぎた」


…流石に魔王だけあって王都の戦力を当てても余裕があるというのか。なんて戦闘力だ!


「…その時に王子たちは俺らを見捨てて逃げたんす。置き土産をして」


「置き土産?」


「自分も含めて重鎮以外は自分の意思と関係なく強制的に動かして魔王軍に突撃したんす。時間稼ぎするその間に王族だけとんずらするって寸法っす。」


「……ひどい…。」


「たぶん保険のために全兵に飲ませた強化剤に魔法式が含まれてたんすね」


「それで……どうなったの?」


「……その後は悲惨っす。魔法耐性のある自分はなんとか堪えたものの耐性が弱い者はほとんど魔族とともに自爆してたっす。」


「なっ…!?」


「……結果ほとんどの兵は死んでいって残った者はボロス様に反魔法で解除してもらったって感じっす。」


トールは少し寂しそうにいった。

兵士ひとりひとりに家族がいることも考えると団長として責任を感じるのだろう。


「まぁ、魔族に助けられたからってわけじゃないっすけどボロス様の考えは他の魔物と違った。行く当てもなかった。だから殆どの兵士はこの地で暮らすことを決めた。……家族も含めて」


「…どうやって?」


「もともとこの街にいた人間が裏を引いて王国からこの地方に連れてきたっす。もし兵士が戻ったら口封じに殺されるっすからね」


………魔族だけじゃないんだよな。

人間だって汚いやり方を実行する。

だからって……



「……なんで?」


「ん?」


「……なんで魔族を恨んでたのに今ではこんな………」


「……たしかに恨んでたっすけど俺はボロス様に言われたんす」


「え?」


数年前。


「そうか。お前は旅に出るか」


「仲間を、そして俺を助けてくれたことには感謝してるっす。今後もあいつらを助けてやってくれ」


「ふむ……。」


「だけど俺は残れない。家族を殺されたことを考えればお前らを……魔族を認めるわけにはいかないんだ」


「はぁ。わかった。お前には今それしかないんだろう」


「……それしか……ない?」


「実につまらんのぉ。復讐しか残っておらんとはな」


「何が言いたい?」


「……復讐するとして手当たり次第魔族を殺すのか?」


「…だったらなんだ!」


「罪もない魔族を殺すと今度は魔族が人間を恨む!その繰り返しをするのか?」


「うるさいっ!魔族は悪だ!!もし向かうなら俺は全員を敵に回してやる!」


「たしかに基本的に魔族は悪だ。本能だからな。だがな、人間だって罪を犯す。」


「………。」


「今のお前を見てると昔のわしを思い出す。何故人間と魔族のどちらかが滅びなくてはならない」


「……俺は……」


「お前は魔族を滅ぼしたいのか?それとも大切の人を守りたいのか?」


「…っ!」


「お前は魔族に対する俺らに対しプライドを捨てて仲間を助けてくれと言ってたな。だから助けたんだが……」


「……………。」


「わしの見込み違いだったみたいだ。さっさと出て行くがいい」


「……あぁ。わかった。」


トールはアローズ地方を出て数日が経った。



……俺は復讐のために生きてきた。ならまちがってないはずだ!

……なのにこの気持ちは一体なんなんだ?


くそっ!もやもやする!



「たっ……たすけっ……」


「ん?」


少し奥の方を見ると小さな男の子と女の子がいた。

しかもその2人は魔族だった。


震える2人の前には大柄の男が数人囲んでた。


「へっへっ。ようやく見つけたぜ。お前らの親は口を割らねえからな」


「兎人族の赤色の眼は高く売れる。特に子供の瞳は永遠にその輝きが失われないからコレクターには売れるんだよ」


……子供2人に大人5人。

クズだなこいつら。


「おい、おとなしく……って!?いでででででっ!!!」


「な、なんだ!?」


トールはとっさにその場に駆け寄り魔族の子を掴もうとした男の手を払う。


「おい、お前らに提案がある。この2人を俺にくれないか?金なら払う」


「うっ、なんだこの大男っ!?」


「こいつ!舐めやがって!」


「……やるか?」


「………くっ!金貨20枚でなら売ってやる。」


「……交渉成立だな」


そういうとトールは金貨20枚を男に手渡す。すると男達は逃げるように去っていった。


「父ちゃんと母ちゃんは殺されたみたいだな。」


「………びくっ」


……そんなに怖がらなくても……。


「……っ!」


思い出した。


トールは家族を失った日を思い出す。

両親と妹が殺された。そして次は自分の番。


そう考えると恐怖を身体が震えていた。


ただただ恐怖だった。

今のこの状態はあの時に似ている。


俺は冒険者に助けられてほっとして力が抜けていた。


だがこの子達を助けたのは先程まで自分たちを追っていた奴らと同じ人間。安心するはずがないよな。


「……お前ら帰る場所はあるのか?」


そうトールは考えると人間と魔族は案外似ているのかもしれないと思った。


「ボロス様にお願いがあります。俺をあなたの配下にしてください!」


「ほぉ、どういう風の吹き回しだ?」


「……俺は家族を殺されて魔族を恨んだ。それは事実だ。だけど……ここ数日モヤモヤしてたんだ。でも……」


今なら言える。


「魔族と人間を区別するなんておかしいと」


「ほぉ?」


「俺はできるだけ多く過去を繰り返す世界を作りたくない!俺は俺のやり方で人間と魔族の共存を目指してやる!」


「…ふっ、それでこそわしが見込んだ奴だ」




こうしてトールは幹部の1人として人間や魔族の奴隷商人や盗賊、人を襲う魔族の討伐を主に行っていった。


「……だから俺は今後悔してないっす。だってそれで少しでも自分と同じ目に合わなくてもいい人も現れると思うと嬉しいっすからね」


「…………。」


「…レイスくん?」


「よし、きめた!」


「え?なにを?」


「トールさん、ボロス様に会わせて」


「………は?」



数分後。レイスは再び魔王ボロスの前にいた。


「俺、この街で暮らしてみたいです」


「……随分決断がはやいの…。」


「うん、トールさんの話聞いてたのもあるけど俺はボロス様に興味が湧きました。」


「…ほぉ」


「魔族をまだ恨んでるし人間と魔族はやっぱりまだ区別をつけてるけど俺は……俺は自分の目で答えをゆっくり出していきたいんだ」


「ほっほっ。そうかそうか」


「ついでに俺は闘い方について学びたいんだけど……いいかな?」


「……それもそうだな。お主は勇者だからな。では家は村ではなくこの魔王城で暮らすといい。」


「え?まじで?お願いします!」


こうしてレイスの魔王との暮らしが始まった。


そして時間は遡り5年後。



「………よっしゃー!!勝ったー!」


「いやぁ、参ったっす。」


「へっへっへ。俺、もうトールさんには負けねえから。もう歳だしね」


「ばっ!まだ30っすよ!?」


「俺の二倍じゃん」


「あっ」


レイス15歳。

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